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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
4巻 竜の災厄 編
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第31話 プロジェクト ノア(4)

怨情寺小夜(年齢不詳)霊族の姫君 スリーピングビューティと称される提督。霊族艦隊を率いる。


エヴェリーン…(27)タウルン共和国元パンティオンジャッジ代表。潜空艦艦隊を率いる提督。


シャルル…リメルダの兄でマリー王女の片腕。コーデリアⅢ世の艦長を務める。イケメン。

「エヴェリーン大将閣下、怨情寺大将閣下、こんなところで宴会など開かないでください。規則違反です!」


 シャルル大佐は空中戦艦の待機ドックの片隅で、乗組員数名と酒を飲んでいたエヴェリーンと小夜を見つけて、注意をした。このオレンジ島基地の規則では、アルコールは決められた場所以外では摂取は禁止されており、さらに出航24時間前に摂取することも禁止されている。エヴェリーンも小夜も24時間後には出撃予定だから、2重の規則違反をしていることになる。


 そもそも、この二人。パンティオン・ジャッジの神託の際にも抜け出してサボっていたぐらいだから、これくらいの規則違反など朝飯前である。


「なんだ~? 一介の大佐が大将二人を捕まえて説教だと~?」

「ケケッ……。怖いもの知らずとはこのことぞよ」


 シャルルが辺りを見ると酒瓶がゴロゴロと転がっており、相当な量を飲んだようだ。エヴェリーンの部下など、全員酔いつぶれており、そこらじゅうに倒れて大いびきをかいている。そんな状態でも意識があって飲み続けているのが小夜とエヴェリーンの二人らしい。


 シャルルはやれやれと言った表情をしたが、それでも毅然と二人を説得する。


「例え、大将閣下といえど、規則を守ってもらいます」

「守らなかったらどうする~っ?」


「営巣にブチ込むぞよか?ケケッ……そんなことしたら2個艦隊が出撃できぬぞよ」


 シャルルはため息をついた。この二人、完全に確信犯である。規則違反で拘束しても彼女たちが言うとおり、処罰はできない。彼女ら抜きで艦隊がドラゴンと戦えるはずがない。だが、ここで規則違反を見過ごしてはトリスタン連合艦隊の権威が落ちるのも事実だ。


「あれえ? よく見たら、大佐はリメルダの兄ちゃんじゃないか。妹に似て美形だねえ……。王子顔というのはいるもんだねえ」


「ケケッ! エヴェリーン、白馬の王子様ぞよ。お前を迎えに来たようだ」

「へん! こんな優男にこのエヴェリーン様が落ちるものか。大体、私は自分より弱い男は嫌いでね。当然、そういう男の説教は聞かないよ」


「そうだぞよ。男なんてひ弱いぞよ~」

「ほう!」


 シャルルはエヴェリーンたちを従わせる手を思いついた。


「では、この私が両大将閣下よりも優れていれば、言うことを聞いてくれるということですね」

「おうよ!」

「そうぞな!」


「お二人共お酒が随分強いようで……どうでしょう。酒で勝負というのは?」

「ククク……。世間知らずの王子様。いいだろう。酔い潰してやるわ!」

「ケケッ! 王子泥酔の刑ぞよ」


 シャルルは、足元に置いてあるウイスキーの瓶を手にとった。まだ新品のボトルである。その栓を抜くとラッパ飲みをする。グビグビと喉を鳴らして飲み、一気にカラにしてしまった。


「ふう……。お二人は相当飲んでいるようだから、これくらい飲まないとフェアじゃない。負けた後でハンディがあったとごねられても困りますかね」


「言うじゃないか、王子。じゃあ、タウルン製のゴキュール酒で勝負だ。この小タル何本空にするか!」


 エヴェリーンは小さな樽(といっても、1タル3リットルはある)を足で蹴って、シャルルの前に転がすと自分も別の樽の栓を抜く。小夜も後に続く。


 3リットルを飲み干す3人。


 さらにもう一樽。


 さすがに小夜は目を回し始めた。タウルンのゴキュール酒はアルコール度90の超極悪な酒である。霊族とは言っても特別ではない。小さな体の小夜にはさすがに効いた。


「目が……目が回るぞよ~。ケケッ!ぐふっつ……」

 

 小夜はゲーゲー吐いて、そのまま、大の字で寝てしまった。

(この娘、霊族の姫君で、スリーピングビューティって言われているのに……。ただの大虎である)


「小夜! 畜生、だが、このエヴェリーン様は負けないぞ! 貴族の王子様の負けてなるものか! ヒック……」


 エヴェリーンもさすがにフラフラであった。しかし、シャルルは最初と同じ感じで軍服を乱すことなく、整然と樽を抱えてグビグビと飲み干した。


「さあ、大将閣下。次の樽にいきますよ」

「あったりめえだ。お前みたいな奴の前で酔いつぶれたら、何されるか分からないからな!」


 3つ目の樽に口をつけたエヴェリーンだったが、さすがに限界であった。半分飲んだところで、目が回って突っ伏した。


 シャルルは3つ目の樽を飲み干して、樽を床に落とした。カランっと音がして樽がコロコロ転がっていく。


「どうやら、わたしの勝ちですね。どうしましたエヴェリーン大将閣下」

「うっ……。気持ち悪い~」

「いくらなんでも飲みすぎでしょう」

「ヒィヤ、ホマエはどうなんら~、ひくらニャンでもホカシイダろ」


「わたしはこれくらいじゃ、酔いません。体質なんです。で、大将閣下、宿舎に戻ります。 艦隊司令官でかつうら若き女性が、こんなところで酔って寝ているのはいけません」


 シャルルは無線で兵士を呼ぶと酔いつぶれているエヴェリーンの部下と小夜を宿舎へ運ばせた。自分はエヴェリーンを介抱して抱き起こすと、背におぶって彼女の宿舎へと歩み始めた。


 エヴェリーンは酔いつぶれていたが、意識はまだあるようで、


「ホイ、わたしを背負ってどこへ、いく~」

 とか、

「王子、送り狼になるなよ~」

 とか叫んでいたが、そのうち意識を失ってシャルルの背中で寝てしまったようだ。


(潜空艦を操る魔女と言われていても、こうなってしまえば普通の女性だよな)


 シャルルは自分より2歳年上のこの女性が可愛く思えた。これまで自分の周りにはいなかったタイプだ。まあ、ふだんは性格が豪快すぎて女性を感じさせないはいただけないが。でも、寝顔は悪くない。というより、エヴェリーンは美形である赤毛の短い髪が数本、彼女の口にかかり、酔った顔はほんのりと桜色に染まっている。タウルンの軍服ではなく、夜想会用のドレスを着せてみたいとシャルルは思った。


「レイナルト……」


 不意にシャルルは人の名を聞いた。エヴェリーンがつぶやいた声である。


「レイネルト、死なないで……あたしを……置いていかないで……」


 つつつ……と両目から涙があふれ、シャルルの肩を濡らした。


(レイナルトというのは、死んだフィアンセか)


 シャルルはマリー付きの副官もしていたこともあり、エヴェリーンのパーソナルデータは把握していた。レイナルトというのは、2年前にドラゴン狩りの際に亡くなったエヴェリーンの許嫁であることは知っていた。


(この人も、深い悲しみを背負って戦っているんだ)


 エヴェリーンを宿舎に送っていき、メイドに着替させてベッドに運ぶように命じたのだった。



それぞれの夜がふけていく。


翌朝。

平四郎はベッドで目を覚ました。

リメルダはもういなかった。

窓を開けると、彼女の艦隊が出航していくのが見えた。それは朝日に照らされキラキラと輝いていた。


ふと見るとベッドの横のテーブルに紙が置いてある。


大好きな平四郎へ


マリー様との浮気は許します。

フィンさんのことも受け入れます。

私は寛大な妻ですから。


追伸:責任は取ってもらいますからね。私も。


が~ん。

据え膳食わぬは男の恥というが、

食ってしまったら、代金は払わねばならないのだ。


合掌w

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