第4話 処女航海とドラゴン討伐(4)
第5魔法艦隊提督、フィン第5公女。 特殊能力は「マルチ」
マルチって何だ?
港を出て15時間が経過した。艦橋から見る景色にマルビナ島と言われる浮遊島が見えてくる。その周りに無数の岩が浮遊している。風が強いのか、その岩は風に合わせて複雑に移動している。その岩をターゲットにすることでこの地は空中武装艦の射撃訓練に適していることで有名であった。第5魔法艦隊はここで編成されてから初めての本格的訓練を行うのだ。
「これより、第5魔法艦隊は射撃訓練を行う。想定先頭空域に急速接近、急上昇の後、上空4千メートルより、急速下降し、主砲、副砲を3連射して離脱。目標を破壊する。提督よろしいでしょうか?」
ミート少尉が作戦を告げて、フィンに同意を促す。
「了解しました。あ、あの……」
フィンは何か平四郎に言いかけたが、またもや顔が真っ赤になってしまう。それを察したミート少尉。
「護衛の駆逐艦2隻は、本艦の後に続かせます。提督は魔力を集中してください。平四郎はデータを収集をお願いします。演習データは今後の船のカスタマイズに役立つはずです」
「そうだね」
そう平四郎は答えた。おそらく、フィンはそのことを平四郎に言いたかったのだろうと納得した。平四郎の仕事はマイスター。第5魔法艦隊をメンテナンス面で支える役割なのだ。
「あと20秒で上昇に移ります。総員は体を固定してください」
操舵手のカレラ中尉がそう告げる。平四郎は慌てて座席のベルトを付ける。
「主砲、副砲とも準備OK。35インチバスター砲改は、火属性を選択。ファイアエクスプロージョンL5を斉射する」
「目標に接近後、魔法防御クリスタルウォールを発動するでおじゃる」
攻撃担当のナセルと防御担当のパリムちゃんの声。
「18、19、20。レーヴァテイン上昇します!」
カレラ中尉の操縦で高速巡洋艦が156mの長さの艦体を上に向けて急上昇する。エアマグナムエンジン全開で、あっという間に目標中域へ到達する。そこから、放物線を描くように目標の浮遊岩に急降下で接近する。
「レベル5到達。ファイヤーエクスプロージョン発動、斉射三連!」
2門の主砲と1門の副砲が火を噴いた。高速巡洋艦レーヴァテインの主力武器だ。目標の浮遊岩が粉々になる。後に続く、駆逐艦も魔法制御の高速魚雷を発射し、2つの浮遊岩をくだいた。
「レーヴァテイン、ターゲットより離脱。これより水平航行に移る」
カレラ中尉の冷静な声に平四郎は攻撃体制に入ってからの出来事を思い出した。高速での移動中にターゲットに当てるのは容易なことではない。当てたナセルは相当の腕ということだ。
「今の攻撃、主砲は1つ外したわね。ナセル、一撃必殺じゃないと、この船では勝てないわよ」
ミート少尉が、後方の目標の破壊状態を調査して、そう攻撃担当のナセルに告げた。ナセルは、主砲の弾道記録を確認しながら原因を分析する。
「ああ、わかっているけど、思いのほか振動が激しいんだよな。補正値をもう少し調整しないとダメだな。外したのは前方下の主砲だよな。平四郎、その辺の調整はお前の領分だろ?」
「ああ。帰ったら調整する。とりあえず、今はプラス2の補正を加えておけ」
レーヴァテインには2門の主砲と2門も副砲があるが、それぞれ1門ずつは後方用であるために、突撃して撃つのは前面の上と下につけられたものだけになる。
「2隻の駆逐艦の空中魚雷は、6発中2発命中。まあ、及第点。フィン、初めてにしてはうまく艦隊を操っているね」
ミート少尉に言われてコクンと頷くフィン。副官に誉められる提督というのもどうかと思うが、フィンのキャラでは違和感がない。
「よし。続いて第2ターゲットへの攻撃に移る。攻撃は雷属性に変更。ライトニングボルトレベル3。提督、よろしいか」
ナセルが次の攻撃態勢に移る。先程は火属性の攻撃、次は属性を変えるのだ。これは珍しいことである。通常、艦を指揮する人間によって属性は固定される。なぜなら、魔法弾攻撃はその人間の得意技でもあるからだ。火属性なら火属性、氷属性なら氷属性と固定化されているのだ。
フィンがコクッとうなずく。平四郎は一人だけ、何もしていない自分が恥ずかしかった。いざ戦場に出るとマイスターとして何かできることはないかと考えても、思いつくことはなにもない。
「ライトニングボルトレベル3、発射!」
ナセルが叫ぶとレーヴァテインの2基の主砲からライトニングボルトと呼ばれる雷撃弾が発射される。それは目標である浮遊石に命中し、それを木っ端微塵に打ち砕いた。
「第3ターゲット、水属性に変更。コールドバレットレベル4、発射!」
「この攻撃、全部フィンちゃんの魔力?」
平四郎は艦橋からレーヴァテインの攻撃が次々とターゲットである浮遊石を壊していくのを見て感心した。この世界に来て3ヶ月。ドラゴンハンター相手の商売をしていたので、目の前の攻撃がどれほどのものなのか平四郎はおおよそわかっていた。どれもがとんでもない攻撃力であり、ドラゴンハンターが狙うB級のドラゴンなら一撃で討ち取れる威力があった。大きな翼で空を縦横無尽に飛ぶドラゴンも、この攻撃なら仕留められるだろう。ミート少尉が平四郎の質問に答える。
「フィンのすごいところは、あらゆる属性攻撃を瞬時に切り替えて攻撃できるところ。マルチっていう能力だけど、これは他の公女様にはない能力よ」
「マルチ?」
「そう。ドラゴンにも種類があってそれぞれ弱点の属性があるはしってるよね。マルチの能力をもつフィンなら、複数のドラゴンと対峙しても問題ない」
「ふーん」
平四郎は感心してフィンを見る。フィンは恥ずかしそうに視線を下にした。
「ただ、問題がある。フィンの魔力はMAX4万5千。今のままなら、レベルによるけど一発で1000の魔力を消費するから、連続発射は30発撃てれば上等。この船の航行やシールド、護衛駆逐艦2隻を動かす魔力も必要だからね」
「提督であるフィンちゃんの耐久力にかかってくるというわけか」
「一回枯渇すると1時間はあけないと完全回復しないのよ。フィン、休憩しましょう」
「う……うん」
演習で撃ちまくった主砲のせいでフィンの魔力は枯渇しているらしい。ミート少尉が言うには、訓練を重ねることで消費魔力を減らすことができ、発射回数もふえるということらしい。それで今回の演習が組まれたわけではあるが、平四郎が見るにフィンの消耗はかなり激しらしい。疲れきってフィンは提督席でぐったりしている。
「俺たちの魔力も使うけど、提督ほどないからな。第5魔法艦隊はフィン公女様しだいというわけさ」
ナセルたちも魔力供給はしているが、4、5千程度なのでそれぞれの役割で精一杯なのだ。ナセルは攻撃ユニットを動かすのに精一杯なのだ
「射撃訓練、一時終了。航行しつつ、フィン提督の回復を待つ。フィン、いい?」
「はい……ミートに任せるです」