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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
4巻 竜の災厄 編
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第30話 ドラゴンの花嫁(1)

マ リーは王宮の地下、封印の間に向かっていた。平四郎たちがフィンを取り返そうと侵入したことは、予想はしていたが思ったよりも早くてマリーの計算は狂った。平四郎の回復ぶりから、動き出すのはあと一週間はかかるとみていたが、リメルダが積極的に協力することが誤算であった。


 彼女は平四郎にベタ惚れで、ライバルのフィンを奪回することには消極的だろうと思い込んでいたのだが、恋する女の心理をマリーは完全に読み間違えていた。


「シャルル、急ぎましょう! 平四郎さんがフィンさんを取り戻して、艦体に合流するのはまずいです」


「はい、マリー様。でも、遅かったようです」


 シャルル少佐が指を差した方向には、白いシーツにくるまれたフィンをお姫様だっこした平四郎がリメルダとトラ吉を伴って歩いてくる姿があった。


「平四郎さん……」

「マリー、これはどういう事なんだ。フィンちゃんは、この世界を救うアドミラルじゃないのか!」


 平四郎の言葉には怒りが込められている。というのも、先ほど、平四郎たちが入った封印の間は扉が封印の呪符で何十にも覆われ、人の侵入を阻む仕掛けが施されていたからだ。トラ吉やリメルダの手はずで解除したものの、中に入ると今度は魔力封印強化ガラスで作られたカプセルの中にフィンが一糸まとわぬ姿で眠らされていたのだ。


 それはまるで、罪人か魔物を封印するかのような扱いである。


「答えによっては、マリー、君を敵だと認定する!」

「ま、待って。平四郎さん。これにはワケがあるのです」


「それをきちんと話してくれ。でも今はまず、フィンちゃんを病院へ……」

「それはダメです。彼女をもう一度、封印の間へ幽閉してください」


 平四郎はキリリとマリーを睨みつける。(幽閉)という言葉は平四郎の怒りに火をつけた。



「幽閉だと! 冗談じゃない! マリー、君は、フィンちゃんを幽閉して自分がトリスタン連合艦隊を牛耳るつもりなのか!」


「わたくしがそんな姑息な女に見えまして?」

「いいや。僕が知る限り、君は知性的で常識人だと思っている」


「そのわたくしが、封印の間にフィンさんを戻せと言っています。深いわけがあると思ってくださいませんか?」


「例えあっても、彼女をあんな暗いところに閉じ込めるなんて許されない」


 そう言って平四郎はフィンの顔を見た。白く血の気のない顔色が少しだけ赤みが差してきたように見えた。まぶたがぴくりと動き始める。


「あ……こ、ここは……へ、へーちゃん? あ、いや、平四郎くん?」

「フィンちゃん、よかった、無事で」


「旦那、命には別状無いようだにゃ。魔法で眠らされていただけだにゃ」


 そうトラ吉がフィンの脈を取って言った。平四郎の後ろでは、その様子を複雑そうに見守るリメルダ。手には魔法銃を持っている。


「目覚めたのなら、なお、危険だわ。すぐ、封印の間へ……」

「あそこじゃない。マリー、まずは病院だ。どうしてフィンちゃんをそんなところに閉じ込められるんだ」


 平四郎の怒りの叫びに、マリーも思わず大声で言い放った。


「彼女は(ドラゴンの花嫁)の可能性があります!」


「ド、ドラゴンの花嫁だって?」


 聞いたこともない言葉に平四郎は戸惑う。リメルダもトラ吉も初めて聞く言葉だ。


「そうです。彼女はエターナルドラゴンの標的。ドラゴンは彼女を求めて現れるのです。そして彼女以外の人間は虐殺するのです。」


「標的ってなんだよ! なぜフィンちゃんがドラゴンに狙われなきゃならないんだ。彼女はドラゴンを倒すアドミラルだろ。選ばれし、アドミラル。ドラゴンを滅ぼす公女だ!」


「うっ……ううううう……」


 フィンが急に頭を抱えだした。ガタガタと体が痙攣し、目の焦点が合っていない。


「フィンちゃん、どうしたの。頭が痛い?」

「うううううう……」


 フィンの体が光りだした。コネクトと同じく光の線がクネクネと曲がって平四郎に迫ってくる。その光の線は数本に別れてリメルダやマリーたちの方にも動いてくる。


「いけない! 平四郎くん、フィンさんをもう一度、封印の間のカプセルに」


シャルルがそう叫んだ。すぐさま部下の兵士が走って、封印の間に置いてあるガラスカプセルを取りに行く。フィンの体から出た光の線はそこにいる人間に接続した。フィンの体を光が包み込む。それはさらに輝かやきをますと同時に、平四郎はだんだん力が抜けていくのに気がついた。つにはフィンを抱いたまま、片膝をついてしまう。


「こ、これは……なんだ、どうしたんだ、僕は? ち、力が入らない」

「へ、平四郎、私もだわ。あ、足が動かない!」


 平四郎の隣にいるリメルダも体の異変に気がついた。


 力が入らないのは、平四郎やリメルダだけではない。少し離れたマリーもシャルルも少しずつではあるが、力が抜けていく感覚を味わっていた。よく見ると、マリーやリメルダの体にフィンの体から発せられた光りの筋が一本くっついて光りながらフィンの体へと動いているのだ。


「これですわ。ドラゴンの花嫁の特殊能力、魔力ドレイン。すぐ、フィンさんをカプセルに入れてください!」


 2人の兵士が運んできたカプセルは、動かせるように車輪が付いているので、ストッパーを外せば、容易に運べた。すぐさま、平四郎から抱き取ったフィンをカプセルに安置する。蓋を閉めると、フィンの頭痛は収まったようで穏やかな表情に戻って眠ってしまった。


「これで分かったでしょう。フィンさんの健康状態を考えても、このカプセルで休んだ方が良いのです」


 そう言ったマリーもフラフラとして、シャルルに抱きかかえられた。魔力が強い者ほど、吸収されやすいとはいえ、これだけの短時間で体が消耗するほどフィンの力が増しているということだ。リメルダも同じ症状であった。兵士に介添えしてもらわないと動けないほど衰弱してしまっていた。


 ましてや、フィンと直接触れていた平四郎の消耗はかなりのものであった。平四郎は通常は魔力がないはずだが、コネクトすることで無限の魔力が湧き出る能力がある。だが、今回は無限魔力が湧き出る前に根こそぎ魔力が枯渇してしまったのだ。兵士たちは極端に魔力が低いので、逆に吸われていなく動くことができた。あと、通常の魔力ではなく、妖精力のトラ吉は影響なかった。


「平四郎さん、詳しい話は後で話すわ。今は体を休めて魔力の回復をしましょう。今夜、私の部屋へ来てください。ドラゴンの花嫁について説明をしましょう」


 そうマリーは告げて、シャルルに連れられて立ち去った。平四郎もリメルダも兵士に抱えられて、何とか王宮の医務室までたどり着くことができたのだった。


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