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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
4巻 竜の災厄 編
174/201

幕間  ヴィンセントの独白

急に調子こいているこの男w

 僕としたことが、あの「完璧なマリー」に先を越された。元々、フィンは僕がずいぶん前から先に目を付けていた。


 この娘には重大な役割がある。

 それもこのトリスタンの運命を左右する役割だ。


 僕が彼女について興味をもったのは1年前に遡る。一応、誤解を招くから先に書いておくが、女の子としての興味ではない。


 彼女フィン・アクエリアスは9歳の時にパンティオン・ジャッジのメイフィア代表としてメイフィア全土の候補生3千人の中から選ばれた。最終的に選ばれるのは5人と決まっている。選ばれると異世界への留学やその後の訓練を経て、最終的に18歳の年に公女として、艦隊の指揮を取るアドミラルに任命されることになる。但し、いったん選ばれたからといって、その地位が不動というわけではない。子供の頃は魔力が強くても成長するに連れて、その成長の伸びが止まることはよくあるからだ。その場合、より可能性の高い人間と入れ替わることもあった。


 現女王の娘であるマリーや先祖はエターナルドラゴンを退治した公爵家の令嬢であるリメルダのように血筋の良い候補者ならともかく、フィン程度の才能はこの、メイフィアでもゴロゴロしている。だから、子供の頃に選ばれたフィンが18歳までその座に居続けたことは、賞賛に値する。なぜなら、最初に選ばれた5人のうち、マリー、リメルダ、フィン以外は入れ替わりが数度あったからだ。最終的には18歳を下回るリリムが選出されるなど、今回のパンティオン・ジャッジは異例ずくめではあったが。


 フィンの魔力は他に比べるとそんなに抜き出ているわけではない。彼女の潜在能力と最初の留学で勇者の適合者の男を見つけるという幸運。それくらいしか特筆すべきものはない女の子だった。性格もおとなしく、およそ、アドミラルとして軍を率いていけるような器ではない。これが当初の僕の見解であった。


 だが、それは結果的には大きく違った。


 そんな彼女についてパーソナルデータをちょっと調べてみようと思ったのは、ほんの気まぐれだった。従兄弟のマリーの競争相手になる子である。リメルダやローザ、リリムについては情報もあったし、フィンについては、下級貴族の娘ぐらいの認識だったが、プロフィールに3月3日3時生まれと書いてあるところに目がクギ付けになった。


 ドラゴン教団の聖書、ドラクロアの章第2期に世界を救う救世主の話がある。その救世主は3月3日3時に生まれた女の子の中から選ばれるという。ちなみにドラゴン教団の救世主というのは、太古のドラゴンを復活させる者をいう。復活させることイコール、人類の粛清であるから、救世主=世界をリセットする者と言える。


 ドラゴン教団というのは、このトリスタンにあるカルト教団である。カルトといっても、年々信者を増やし、その存在は市民に徐々に広がってきている。僕は最初、この教団の保持するドラゴンに対する膨大な研究書を読みたいだけにこの教団に入信した。いわゆる仮面信者である。


 この教団の創始者は、元はドラゴンの生態を研究していた学者で、研究した成果を書物にまとめていた。研究の結論は、この世を治めるのはドラゴンで、我々、人間はドラゴンの慈悲にすがって生きていくにすぎないというのが、この教団の身も蓋もない教えである。


 まったく、宗教というのは非建設的で、合理性もない馬鹿げたものだ。心に救いを求めるなら、神よりも、やはり、女の子に限る。


 入信は形だけであったし、王族に連なる身分も隠していたのだが、やはり、僕の優秀さは隠しきれない。現教祖に気に入られて、幹部の枢機卿に抜擢されるとその中でも時期教祖となるナンバー2にまで上り詰めた。無論、他の枢機卿が無能であったからだが。


 枢機卿になってよかったのは、信者も読めない門外不出の研究所が読めたこと。これは素晴らしかった。なぜ、これらが王立の図書館なり、大学に蔵書されて読めないのかが理解に苦しんだ。500年ごとに繰り返す人類滅亡の度に、公式文書が焼失するからだとしても実にもったいない話だ。


 教団が保有する興味深き書物の中にこんな記述があった。


 333の救世主はドラゴンを意のままに操ることができる。

 古来より、その者を「ドラゴンの花嫁」と呼んでいる。


「ドラゴンの花嫁」は復活したエターナルドラゴンに無限のパワーを与え、さらに操ることができるのだ。


 フィンをエターナルドラゴンをコントロールするための鍵=ドラゴンの花嫁であると仮定する。


 そうすると、疑問が一つ。彼女が異世界で見つけてきた勇者の男。彼が世界を救う勇者ならば、その存在理由は、「花嫁を殺す」ということにある。なぜなら、花嫁はエターナルドラゴンに取り込まれると受精してその卵子が全てドラゴンとなるのだ。言わば、ドラゴンは500年に一回の生殖活動のために出現するということなのだ。この世界の勇者ならば、それを阻止する。それは花嫁を殺すということになるからだ。そう考えると運命とは面白い。フィンは自分を殺す相手を見つけたということなのだ。


 当初は世界を救うためには、フィンの能力を覚醒させないこと……と僕は考えた。異世界の男が手を貸すフィン艦隊は、劣勢を挽回し、勝利を重ねていく。それに連れて、彼女の能力は増し、ドラゴン共も出現頻度が高くなっていた。一時は彼女を負けさせようと、異世界の男を挑発したり、艦隊への妨害活動や、彼女を手に入れようと画策もしてみたが、ドラゴンの花嫁の運命は止められなかった。


 ならば、いっそのこと彼女の力を利用しようと考えた。


 うまく使えばドラゴンを逆に制御できるかもしれない。僕は途中からそういう考えのもと、彼女の覚醒を手助けすることにした。


 もちろん、彼女を使った制御方法を見つけたからであるが。


 霊族へのデストリガー6連射。

 あれは人間の武器ではない。

 あれはエターナルドラゴンのドラゴンブレスだ。

 あれで何千、何万人もの人がこの世から消えるのだ。


 そして、僕は彼女を使って、ドラゴンどものブレスをコントロール下に置くことができる。


 僕の願いはこの世界を救うことだ。

 だが、救う世界は今の世界ではない。

 この世界には生きる価値のない人間が山といるのだ。

 ついでに大掃除をした上で、僕が考える理想郷を作ろうと思う。


 影武者を駆使して、ドラゴン教団の本部で極秘に準備を進め、パンティオン・ジャッジにはフィン艦隊の手助けをして…と忙しい毎日だったが、それも全て、僕の理想郷を作るためである。


 だが、マリーに先を越された。あの子は昔から鼻のきく女の子だった。僕の執着心とフィンのとんでもない覚醒、僕にいない間に襲撃したドラゴン教団の書物から、フィンの役割と僕の企みについて、推察したのだろう。


 完璧なマリーの名に恥じぬ行動だ。

 だが、僕は諦めないよ。

 あと数日後に、トリスタンは救世主の名前を永遠にいただくだろう。


 その名は

 ヴィンセント・ド・ノインバステン。

 そう僕の名前だ。


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