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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
4巻 竜の災厄 編
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第28話 覇者への疑惑(2)

 メイフィア国軍司令部は、首都クロービスの郊外の小さな山の頂上にあり、古来より、都の入口で要塞となって王宮を守護する役割をしていた。だが、今はここを牛耳る軍の指導者は、王家とは反対の立場で行動をしていた。世の中が乱れると軍事力をもった組織が発言権を持つというが、今や、メイフィア王国の実権は軍が握ているといってよかった。


 なにしろ、国民にはまだ詳細は知られていないが、浮遊大陸周辺で現れるドラゴンを退治できるのは国軍の持つ打撃艦隊だけである。各都市の首長も国軍に頭を下げてドラゴン討伐を願い出るしかなかった。


「しかし、マリー様もワガママが過ぎる。最新鋭の戦列艦をほぼよこせとは……」


 国軍を仕切るカイテル総参謀長は、そう言って国防大臣のゼファートを見た。立場上、カイテルは国防大臣たるゼファートが自分より上の立場である。形式上軍の最高指導者はメイフィアの元首であるマリアンヌ女王である。だが、全てを女王が取り仕切るわけにはいかないので、その下に女王が任命する大臣が置かれる。大臣は貴族と平民からなるメイフィア議会の承認が必要であり、それによって権力を得るが議会に頭を抑えられているとも言える。


 総参謀長は軍組織の中で選ばれる地位であるが、それは軍の高官による評議委員会によって選出される。言わば、軍の最高ポストである。総参謀長は実際に軍を動かす力を持つ。もちろん、総参謀長は文民統制を受けるメイフィア軍においては文官の最高の地位である国防大臣の命令に従わなくてはいけないが、今はこの国防大臣とも盟友関係であるから、マリアンヌ女王以外に直接カイテルを諌めるものはいないのだ。


「総参謀長、戦列艦マクベス、コーデリアⅢ世だけでも贅沢なのに、これ以上、お姫様のお遊びには付き合ってはいられませんよ。一応、リストを送っておきましたが、老朽艦や巡洋艦や駆逐艦を多めにしておいたので、きっと、怒って直談判しにくると思いますよ」


 国防大臣のゼファートはそう揉み手してカイテルに報告する。総参謀長室に出向いて報告に来たのだ。お付きの秘書官は表情にこそ出さなかったが、心の中では国防大臣がそこまで謙るのを苦々しく思っている。そのせいか、カイテルの周りに使えている軍人も国防省の役人を下に見ている節がある。いくらカイテルが自分の先輩に当たるからといって、地位は地位である。序列の乱れは統率力の乱れにつながる。それは一人の人間が暴走しないようにうまく作られた組織の仕組みを壊すことにもつながった。


「フフフ……。まあ、マリー様もパンティオン・ジャッジの覇者のような活動をしておるが、あの方は国内予選で敗れた身。そんな小娘に大きな顔はさせん」


 カイテルは机の引き出しから葉巻を取り出すと、部下に火を付けさせる。ゼファートを立たせたまま、うまそうにそれを吸って煙を鼻から出した。ゼファートはそんな扱いを屈辱とも思わず話を続ける。


「覇者といえば、アドミラル……フィンは決勝戦での負傷でどこぞに入院していると聞いていますが、総参謀長は彼女の行方を知っていますか?」


「ふむ。マリー様が関わっているとかで、詳しくは掴んではいない。まあ、負傷して艦隊の指揮が取れない方が、我らには都合がいいだろう」


 2人がそんな相談していると、ドアが幾分速いテンポで叩かれた。報告に来た若い大尉が、興奮冷めやらぬ顔で入室してきたのだ。


「国防大臣閣下、総参謀長閣下。朗報です。本日、3時22分、ガウガメラ沖合でわが第2打撃艦隊が、H級及びM級、S級からなるドラゴンの群れを討伐したとのこと。H級は1頭、メンズキルを計5度使ったにも関わらず、我が方の人的損害はゼロ。完全にブロックしたとのことです」


「おおおお!」

「やったか!」


 カイテルは立ち上がって思わず手を叩いた。その出来事は、以前から、対策を立てていたメンズキル(男だけを殺すドラゴンが放つ超音波)を防ぐという課題を見事に解決したということになるからだ。


「これで女ども、パンティオン・ジャッジなどという茶番で選ばれた輩の正当性を剥ぎ取ることに成功した。ゼファート大臣、以前から練っていたあの件、開始する時が来な」


「総参謀長、この世界を救うのは我らということになりますな。ゼファート、カイテルの名が歴史に刻まれ、このトリスタンの英雄として人々の語り草になる日も近いです」


 両名は予てより、軍関係者や軍に近い貴族を統合し、ドラゴンに備えるためにクーデターを起こし、救国統合政府を樹立しようと目論んでいたのである。


 その第1段階として、マスコミによる世論操作、第2にタウルン、ローエングリーン、カロンと連携してパンティオン・ジャッジとは別の多国籍軍を結成する。第3に……これはいずれ分かることだから、今は伏せておこう。


 カイテルとゼファートはその第1段階を始めるよう指示した。世界が滅びるという危機を利用し、国民の支持を取り付けるのだ。



「臨時ニュースです! 昨日、ガウガメラにおいて我、メイフィア軍第2打撃艦隊がHクラスを含むドラゴンの集団を撃破したとのことです」


 メイフィアテレビの人気キャスター、アンヌ・ソフィーが定時のニュースの時間に国軍から入ったというニュースを流した。H級といえば、ただ一頭のエナターナルドラゴンを除くと最大の種類である。1頭だけでも戦列艦10隻に匹敵する戦力をもち、500年前には世界を滅ぼした主力の生物であった。


 平四郎はリメルダの屋敷で手厚い看護を受けていた。まだ、足に力が入らず、満足に歩けないので車椅子に乗って、テレビのニュースを見ていた。


(打撃艦隊がH級を討伐しただと?)


 ニュースによれば、H級が1頭、M級3頭、S級1頭の集団だったらしい。これだけでも一国の大都市を消滅させるに足る戦力である。それを魔法艦隊ではなく国軍の打撃艦隊が討伐したというのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「しかし、アンヌキャスター、H級といえば、メンズキルを使ってくる難敵です。どうやって打撃艦隊は倒すことができたんでしょう?」


 そう男性キャスターがアンヌに問いかけた。もちろん、番組上、次の展開へのフリである。


「その疑問に答えるために今日、メイフィア国軍総参謀長カイテル大将閣下においでいただいております」


 アンヌソフィーがそう視線を向けると胸に勲章を星のように付けたカイテルが、でっぷりとした腹を軍服に隠して座っていた。白いヒゲがピンとしており、ピカピカに禿げ上がった頭がうまくマッチして貫禄という点では申し分がない姿である。


「大将閣下、人類にとっての朗報であります。H級のメンズキルをどうやって防ぎ、そして、どうやって討伐したのでしょうか?」


「ハハハッハ。我が軍は無敵なのです。長い年月をかけて、我々人間が対策を立てないわけがありません。まあ、これまで人類は対ドラゴン戦にメンズキル対策に女性をぶつけてきました。しかし、女性は基本的にか弱い。戦いはやはり男が行うべきだと私は考えるのです!」


 アンヌはにこやかな表情をしながらも、話題をすり替えて長い演説をしそうなカイテルからどうやって、視聴者が聞きたい情報を聞き出すか、頭の中で次の言葉を紡ぎ出していた。


「カイテル閣下、となると打撃艦隊は新兵器を使ったという思われますが、それは本当ですか?」


「新兵器? ああ、そうですよ。メンズキルの音波を遮断する防御魔法を付加した防音材を開発したのです。ドラゴンの放つ特殊な殺人音波だけ遮断するのです」


 500年に一度、大量に出現して人間を滅ぼすというドラゴン。L級と呼ばれる大きな個体から放つ「メンズキル」によって何度も煮え湯を飲まされてきたトリスタンの人間にとって、その障害を乗り越えたというのは朗報であった。


「なるほど! それがあればトリスタンの全戦力をぶつけることができますね。これまでは女性と死を覚悟したごく少数の男性のみが戦っていましたが、この発明で人類が救われるというわけですね」


「そうです。この技術を使って、メイフィア、タウルン、ローエングリーンと多国籍軍を編成して奴らに対抗しようという話し合いを進めています」


 アンヌソフィーはカイテルの口から出た言葉を見逃さなかった。多国籍軍を編成というのはスクープである。なぜなら、パンティオン・ジャッジで選ばれた女性提督の艦隊がドラゴンに相対するというのが決まりであったのだ。その代表がメイフィアの魔法艦隊に決まったばかりだというのに、違う組織が編成されるというのである。


「総参謀長様、古来よりドラゴンとの戦いは、パンティオン・ジャッジによって決められたアドミラルが中心となって行うことになっています。先日のファイナルで我が国のフィン・アクエリアス第5公女様が、その覇者になったばかりなのに、それとは違う組織を編成するのですか?」


「いえいえ、それはそれ、これはこれですよ。いかにパンティオン・ジャッジを制したとはいえ、経験の浅い若い方ですからね。そのか弱いお方に全てを任せるのは気の毒ですし、我々も全てを任せるのは心もとないと思いませんか?」


「まあ、そう言われればそうかもしれませんが……」


 アンヌソフィーは何だかきな臭いものを感じ取った。世界の危機の前にくだらないの人間の権力争いが始まるのではないかという嫌な予感である。


「もちろん、彼女らにも手伝ってもらいますよ。ただ、フィン提督はファイナルで負傷して今は、療養中とのこと。療養中でもドラゴンは出没しますからね。我々が頑張らないと国民の命が危なくなる。それに戦力はギリギリでして、彼女らにはスロットランド地方を守備してもらう予定です」


「なるほど。現在は国軍の活躍で、ドラゴンの襲撃による人的被害は出ていません。しかし、今後、そのような事態も十分予想されます。国民の皆様、ドラゴン注意報、ドラゴン警報、ドラゴン最重要警告のお知らせにご注意ください」


そうキャスターのアンナ・ソフィーが締めくくった。


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