第27話 VSカロン首長国連邦 ~ペルセポネの戦い(10)
長かった小夜との戦いも終結。
レーヴァテインの最大の攻撃デストリガー。それはバーニング・ストライクと呼ばれ、超高熱の攻撃魔法である。渦を巻く高温の炎が霧状の防御システムである地獄の門を粉々に吹き飛ばた。
「くっ! こちらの出現先が読まれるとは!」
小夜は歯ぎしりをして悔しがった。もう布団から体を起こした状態ではない。艦橋に指揮席に正座をしている。レーヴァテインの一撃が単なるまぐれ当たりでないことを彼女は理解していた。デストリガーが発射された時に、まさか元の位置には戻らないだろうと敵の裏をかいたつもりであった。だが、裏をかく心理を読まれたわけだ。
「だが、地獄の門を無効化しただけ。妖精女王と同じ運命を味あわせてやるぞな!ケケッ」
デストリガーを発射した後、魔力ゲージが貯まるまで、しばらく動けなくなるのが魔力を注入して攻撃する魔法王国メイフィアや妖精族ローエングリーンの艦隊の特徴である。デストリガーをかわせば、絶対的有利になるのは撃たれた方になるのだ。
霊族の代表、怨情寺小夜はこの戦いの最後になるであろう命令を下そうとした。
「霊子弾頭弾の嵐を受けてみるぞな! 一万発発射せ……」
その時、弁財天の上空にキラリと光ったものがあった。
「旦那~。間に合った!」
キュウウウウウウイイイイン~という急降下でケットシーの乗った3機のF102が弁財天に爆弾を投下した。それがスローモーションのように落ちていき、そして、一瞬、時が止まったようになった。
ドゴーン、ドゴーンと小爆発が連続しておき、それがやがて大きな爆発となって弁財天を包んでいく。
「やった! 勝った!」
レーヴァテインの艦橋では乗組員が総立ちでこの光景を見守る。まさに1万発の霊子弾頭弾が放たれる瞬間であったので、それに引火しての大爆発である。巨大な要塞である弁財天もこれにはひとたまりもないだろう。
トラ吉率いるケットシー長靴中隊10機は、急ぎ、準備を整えると燃料を片道だけにして機体をできるだけ軽くし、最大戦速で飛び続けたのだ。ルキアが用意をしてくれたF102用のロケットブースターの力も大きかった。途中で7機が脱落したほどの強行軍であったが、3機は見事なタイミングでこの戦場にたどり着くことができたのだ。
爆発して炎に包まれていく弁財天を眺めながら、平四郎はあの幽霊娘が無事かどうかに関心が移った。だが、それは早計であった。なぜなら、爆発しながら外壁がボロボロと崩れていく弁財天の様子が異様な感じに見えてきたからだ。
「平四郎くん、あれ、あれを見るです!」
フィンが指差す方向に黒い塊が現れ、それはやがて戦艦の形となって姿を現した。
「ケケケケケッケ……。最後の切り札というのは、こういうものをいうぞな。猫が乗った小さな飛行機でパンティオン・ジャッジの覇者が決まったなどというのは、今後の歴史にふさわしくないぞな!歴史を決めるのは、この市杵嶋姫命ぞな。ケケッ」
弁財天の中から現れた船(市杵嶋姫命)は、巨大な戦列艦であった。弁財天自身が超巨大なものであったから、この巨大な戦列艦は小さく見えるが、それはメイフィア最大級の戦列艦であるコーデリアⅢ世の3倍はあった。巡洋艦に過ぎないレーヴァテインは、この巨大戦艦の6分の1に過ぎない。
「全主砲、目標、レーヴァテイン。これで消し飛べ!」
市杵嶋姫命の主砲は、全部で10門装備されている。そこから放たれる霊子砲は、通常の主砲の2倍の破壊力があった。霊族がドラゴンとの戦いに用意した切り札である。これが1発でも命中すれば、レーヴァテインなど軽く撃沈してしまうだろう。
「うああああ! もうダメだ!」
「死ぬでおじゃる」
「ダメですうううう」
レーヴァテインの乗組員はみんな観念した。どう考えてもジ・エンドである。
だが、諦めない人物がいた。
平四郎とフィンである。フィンと平四郎の体からまた金色の糸が現れ結ばれていく。平四郎の髪は逆立ち、瞳の色は赤から金色へと変化した。
「さあ、鬼アツの時間だ」
「さあ、鬼アツの時間です」
同時に魔力ゲージが振り切れ、魔力シールドがレインボーに輝き始める。あの前衛艦隊を突破した時のレインボーシールドだ。それは10発の直撃弾を受けたが、すべて弾き飛ばした。
だが、さすがのレインボーシールドもこの主砲の破壊力に大きく耐久力を削られた。
「シールド耐久力、50%低下でおじゃるううう」
防御担当のパリムちゃんがそう告げる。次に10発直撃されたら、もはや、勝つすべはない。カレラ少佐が巧みにレーヴァテインを右左に動かし、主砲の砲撃をかわしていくが、それでも2発、3発と受けて、その都度、シールドの耐久力が大きく削りとられる。フィンの魔力で少しずつシールドは回復していくのだが、小夜の攻撃の方がそれを上回っていた。
(このままでは、押し切られる)
平四郎はフィンの方を見る。フィンは目を閉じて、魔力供給を続けているが、それも限界に達しているように見えた。レーヴァテインの攻撃も圧倒的な霊子バリアに守られた市杵嶋姫命には、一発たりとも通らない。
「平四郎くん、来て!」
フィンが突然、目を開けてそう平四郎に手を伸ばした。平四郎はその手を握る。握った途端に金色の光に包まれたフィンと平四郎がレインボーの光に変わった。魔力ゲージも振り切れ、そしてレーヴァテインに異変が起こった。
レーヴァテインのメイン制御室でパキンパキンとストッパーが外れる音がした。
ナセルが驚いの表情で自分の目の前のデストリガー発射装置を見ている。
「で、デストリガーゲージいっぱい……。いや、青から黄色、緑、赤、金、レインボー色にゲージがチャージされている。デストリガー撃てます!」
「そんな、あと20分は撃てないはずなのに!」
旦那の後ろから、魔力ゲージがすさまじい勢いで六度フルチャージされたのを見て、ミート大尉は恐ろしいことが起こると感じた。
「バーニング・ストライク6連、てーっ!」
フィンの命令と同時にナセルがトリガーを引いた。
六連射されたデストリガーの光が、市杵嶋姫命を貫いた。
辺りに静寂が訪れた。
それはパンティオン・ジャッジの覇者が決まった瞬間であった。
次回から4巻です。ここからオリジナル展開が多くなります。何しろ、あまりハッピーエンドとは言えなかった前作を覆すのですから。




