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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第27話 VSカロン首長国連邦 ~ペルセポネの戦い(8)

「隊長、どうしますか? オイラ達の帰るところがなくなってしまいますよ」


 高速巡洋艦発見の情報を伝えたトラ吉は、副隊長のジロにそう言われる前から、迷っていた。このまま、弁財天に向かうか、リメルダを助けに戻るかである。

戻るといっても、自分たちの武装は対弁財天用であり、敵の巡洋艦を攻撃しても効果は薄い。戻っても意味がないことになり兼ねない。それに平四郎の作戦では、このまま、長靴中隊は、弁財天の上空で待機し、何とかレーヴァテインが地獄の門を取り除いたら、攻撃するということになっていた。早く、待機ポイントにいかないとこの作戦はダメになるのだ。


(どうするにゃ?姫さんを見捨てるのかにゃ。ナアムを見捨てるもかにゃ)

(戦いを優先するなら、作戦続行にゃ。姫さんもそれを望むはずだにゃ…)


 トラ吉は迷う。直進を命じれば、霊族旗艦「弁財天」。旋回すれば、敵高速巡洋艦とリメルダのハニービー。(どうする? トラ吉!)


「姫様、巡洋艦からの主砲、来ます!」

「回避! シールド全開!」


 リメルダは自分の持てるだけの魔力を注入し、この改造空母を操縦する。地上ギリギリまで高度を落として、主砲の霊子砲を回避しつつ、魔力シールドでかわすが、それも主砲の直撃を受ければ、アッという間に吹き飛ぶ代物であった。これはリメルダの魔力のせいというより、この軽空母のキャパシティが低いことが理由であった。リメルダの得意魔法である「幻惑」も艦自体の性能が悪くて十分な効果が発揮できない。


「姫様、避けきれません!」


 ナアムが悲鳴をあげると同時に、鈍い音がして横っ腹に霊子砲が一発着弾した。

船が激しく揺れる。シートの安全ベルトのおかげで飛ばされなかったリメルダは揺れが収まるとすぐさま被害状況を把握する。


「被害は?」

「第7ブロックに火災発生。住居エリアの一部が破損」


「F102格納庫には被害はないわね。格納庫に連絡、まだ準備はできないの!」


「あと少しです。ですが、この状況で甲板にあげて発信するのは難しいです」


 ナアムが言うように回避しながらF102を発進させるのは不可能であった。リメルダは少し考えて、思い切った作戦を指示する。


「ナアム、ハニービーを地上に着陸させなさい。この船を飛行場代わりにします」

「しかし、姫様。地上は腐敗ガスで覆われていますし、着陸すれば巡洋艦の餌食です」


「シールドでF102発艦までもたせます。その後、この船は諦めます。発艦後、全員退避させなさい」


「しかし、姫様。腐敗ガスで覆われた地上に脱出など……。退避カプセルは乗組員ありますが、それを発射するのに、艦橋で操作する人間が必要です」


「大丈夫です。それは艦長の役目です」


「姫様、それはダメです。姫様が犠牲になるのは認めません。降伏しましょう。チェックメイトです」


「ナアム。それはできません。平四郎のために私はできる限りのことをしたいのです。私一人の犠牲で勝てるのなら、この命、彼に捧げます」


「姫様、ダメです、ダメです!」

「ナアム、艦長命令です。すぐさま、ハニービーを地上へ降下。F102を発進させなさい」


 時間がない。リメルダの強い決断に、ナアムは一時的に従うことにしたが、リメルダをここで失うようなことはしないと思っていた。なんと思われようと撃沈される前に降伏してしまおうと思った。パンティオン・ジャッジは殺し合いではない。トリスタンをドラゴンから守るための聖戦なのだ。


(姫様、姫様は勘違いしています。好きなら生きて帰ることが一番大切なんですよ)


 メイフィア国艦隊の軽空母ハニービーは地上に錨を撃ち込み、艦を固定した。霊族の高速巡洋艦からの砲撃が周りに着弾し始めた。距離が近づくにつれてその射撃はだんだん、正確になっていく。このままでは、F102が発艦する前に撃沈されてしまいそうだった。


「姫様、F102発艦準備が整いましたが、敵の砲撃が……」


 霊族の高速巡洋艦の主砲は、完全にハニービーを捉えていた。霊族の艦長はメイフィアの別働隊の船を見て少し落胆した。相手はメイフィア王国の第2公女と聞いていたから、激しい戦闘を期待していたのにどうも期待に応えられないことを直感で感じたのだ。


「なんだ? あの船は? タンカーのような、補給艦のような? 飛行場がある船など初めて見た」

「あれが小夜様が霊視した敵の切り札なんでしょうか? まあ、早く沈めてしまえばそれで終わりなんですけどね」


 2隻の高速巡洋艦の艦長たちは、そう考え射撃命令をしようとした。主砲による砲撃で確実に仕留められると確信していた。


その時だ!


 グイーンという音と共に、F102が急降下し、艦の至近距離で魔法爆弾を切り離した。それはゆっくりと離れて、見事に2発が艦体に直撃した。すさまじい、衝撃音で主砲が吹き飛んだ。


「なんだ? 何が起こったのだ?」

「飛行機です。ケットシーが使う小型戦闘機。F102だと思います。艦長、次、来ます!」


「あんな小型の偵察機で攻撃するとは! 射撃だ、撃ち落とせ。敵は少数だ、あんな曲芸的な攻撃など、そう簡単にできものか。対ミサイル用対空砲火で追い払え!」



「姫様、トラ吉が、トラ吉が引き返してきました」


 ナアムの言葉に乗組員たちはほっと胸をなでおろしたが、リメルダだけは違う反応をした。


「そんな、彼が戻ってきたら平四郎が困るじゃないの!」


 リメルダは真剣に怒っている。トラ吉が戻ったということは、平四郎の作戦が成り立たなくなってしまうからだ。それは平四郎の役に立ちたいリメルダにとっては、絶対に避けたいことなのだ。


「第2攻撃隊、発艦します!」


 ナアムは、このチャンスを逃すまいと第2次攻撃隊の発艦を促した。敵が混乱中に次の一手を打つのだ。


 トラ吉の指揮する長靴中隊は、曲芸乗りのパイロットの集まりでアクロバット的な操縦の名手が多かった。彼らが巧みな操縦で対空砲を交わして、魔法爆弾マジックシールドで攻撃するので、高速巡洋艦は回避運動に専念せざるを得ない。最初にトラ吉に2発の直撃弾を食らった巡洋艦は被害が大きかったが、それでも沈むまでは至っていない。


 奇襲攻撃で当てたトラ吉以外、直撃を与えた者はいなかったが、それでも十分に時間稼ぎをすることができた。足止めを食らった巡洋艦は、第2攻撃隊の対艦ミサイルの攻撃と動けなくなったところでの魔法爆弾の攻撃で、2隻とも大破し、行動することができたなくなったのだった。

 

「トラ吉、なぜ戻ってきたのですか!」


 ハニービーに着艦して、艦橋に上ってきたトラ吉をリメルダは叱責した。自分たちが助かっても、肝心の主力部隊、平四郎たちが負ければ終わりなのである。


「確かに戦略的には、姫さんを見殺しにするのが正しい行動だったかもしれないにゃ。でも、オイラは旦那の忠実なる下僕。姫さんを見捨てるなと旦那は絶対言うと思うにゃ。だから、これが一番正しいとオイラは信じているんだにゃ」


「ですが、今頃、平四郎は小夜さんと対決しているでしょう。もう、間に合いません」


「姫様。実はルキアさんから渡されていたパーツがあります」

「パーツ?」


 ナアムが説明をする。出撃前に艦隊の主計官を務めるルキアがナアムにいざという時に使うといいよと教えられたものがあったのだった。


「F102に取り付けられるロケットブースターです。これを装着すればスピードは通常の5倍です」


「つ、通常の5倍ですって? そんな速さじゃ、操縦者の体がもたないでしょう」


 確かにパイロットの体にかかるGはかなりのものだ。5倍のスピードなら20分で戦場に着くだろうが、20分も耐えられないだろう。


「やるにゃ!」

「にゃ!」


 トラ吉と第1次攻撃隊のケットシーたちが声を揃える。


「ローエングリーン長靴中隊の心意気を見せるにゃ」


 中隊長がそうきっぱりと言った。リメルダとしては反対する理由がない。大好きな平四郎が待っているのだ。整備班から連絡が入る。


「第1次攻撃隊準備完了しました」

「じゃあ、姫様、ナアム行ってくるにゃ。旦那のことだ、きっと、まだ、粘っているにゃ。それより、ナアム。この場所、不思議と思わないにゃか?」


 トラ吉は甲板へ降りる前にナアムにそう言った。ハニービーが降り立った場所は、腐敗ガスに覆われているとばかり思っていたのだが、そこは濃い霧に覆われた緑の森林であったのだ。これはトラ吉に言われるまでもなく、リメルダも気づいており、戦いが終わったら調査をするつもりであった。もし、人が住める土地になっているのなら、浮遊大陸と変わらない大地なのだ。人類が生活できる場所を地上に見出すことができそうであった。


「何百年もの間に、腐敗ガスが浄化され、自然が回復したのかもしれないわね。地上は人間は住めないというのが今までの常識であったけれど、トリスタン全体を見れば、まだ、こういう場所があるかもしれないという期待が出てきたわ」


 そうリメルダは思い、ハニー・ビーの艦橋から外を眺めた。そこで不思議な光景を見たのだ。煙が上がっている。一筋に伸びたのどかな感じだ。


(ま、まさか? 人が住んでいるの?)


 トラ吉たちを送り出した後、本格的に調査をしたリメルダは意外な人物と再開することになるのだ。


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