第27話 VSカロン首長国連邦 ~ペルセポネの戦い(2)
「霊族、怨情寺小夜の戦力は、巨大戦艦「弁財天」1、戦列艦4、巡洋艦2。妖精族との戦いには、巨大戦艦1隻のみで戦いましたが、今回は戦力を充実させています」
そうマリーが説明した。総参謀長の仕事である。諜報員による情報とそれを分析して敵の位置と動きを察知するマリーの「サテライト・アイ」を発動している。完璧なマリーの前では敵は姿をさらけだすしかない。
パンティオン・ジャッジのファイナルが始るにあたって、相手の戦力を分析は、作戦を立てるための基本中の基本である。そのため、マリーがいることでメイフィア王国はかなり有利な戦いが展開できる。
無論、小夜にもこちらの情報はある程度の情報は知られてしまっているので、ここはお互いの腹の探り合いではある。小夜にはマリーと同じような能力「予知夢」があるという。互いに手の内を知った上での対戦となろう。
「こちらの情報網が優れているとは言え、会戦前に戦力がダダ漏れというのは、何だか怪しいわね。こちらを欺こうとしている意図はありませんか?」
そうリメルダが懸念を表明した。確かに決勝戦の相手にしては、不用意ではある。だが、マリーはその懸念を退けた。
「小夜さんの性格。そして、彼女の採用している作戦を考えると、その懸念は0%と思っていいでしょう」
そうマリーは言い切った。大した自信だが、次に霊族が取るという作戦案を聞いてなるほどと会議に出席した者(フィン、平四郎、マリー、リメルダ、ナアム、トラ吉、ルイーズ、シャルル、ミート、ナセル、ヴィンセント他、今回、参加する戦列艦、巡洋艦の艦長)は、思った。つまり、バレても自分が立てた作戦案に対抗手段はないという自信であった。
「小夜さんの作戦は、基本、妖精族との戦いと同じ長距離ミサイルによるアウトレンジ戦法です。しかし、妖精族との戦いより、より進化した戦術を取ると思われます」
そう言って、マリーは手馴れた手つきで霊族の艦隊をモニターに写し、シミュレーションを行った。これはマリーの特殊能力によるものである。彼女の能力に前には全てがさらけ出される。
「敵は戦列艦を中心とする前衛艦隊と旗艦「弁財天」の後衛に分かれるでしょう。前回の戦いでは、妖精女王に妖精の環の発動により接近戦に持ち込まれ、危うく1対1の戦いに持ち込まれたので、今回はそれを避けるために前衛艦隊を配置したと思われます」
「なるほど。こちらが前衛艦隊と交戦している最中にはるか後方から、霊子弾の雨を降らせるって戦法ですにゃ? ちょっとズルい作戦にゃ」
トラ吉が腕組みをして画面を睨む。トラ吉は、平四郎に命じられて昨日までローエングリーンで極秘任務についており、、先ほど、このメイフィアに戻って来たばかりであった。
「ならば、こちらもアウトレンジ攻撃に徹して、敵の前衛艦隊越しにミサイルで攻撃してはどうですか?」
エンデンバーク夫人(ミート大尉)がそう意見を述べた。その意見は当然、策として取るべき作戦ではある。敵の巨大戦艦は動きも鈍く、今回はタグボートで引っ張る作戦は取っていないのだから、浮遊している巨大な火薬庫に火をつければいいのだ。
だが、マリーはその作戦を2つの理由で否定する。
「その策は2つの点で問題があると私は考えます。まず、1点目。巨大戦艦は、確かに一発打撃を与えれば、一挙に仕留められる可能性はあります。それ自体が巨大な火薬庫みたいなものですから。ですが、前回の戦いでは肉薄した妖精女王の旗艦による攻撃を防いだ「地獄の門」という防御システムがあります。さらに霊族には、艦を一瞬にして1キロ四方の距離内を任意に移動させる能力があります。移動距離は短いのですが、おそらく、今回はその移動と地獄の門を併用させてくるでしょうね」
「なんだ? そりゃあ……。それじゃあ、こちらの長距離攻撃は当たらないし、当たっても地獄の門に遮られるにゃ。手も足も出ないにゃ? 霊族、チート過ぎるにゃ。いっそ、奴らにドラゴン退治を任せちゃどうだにゃ?」
トラ吉があきれるのも分かる。平四郎も霊族の完璧すぎる守りに舌を巻いてしまいそうだった。ただ、霊族の攻撃力は守備力に比べて、弱いことがあった。これでまともな攻撃力を持っていたら、ワンサイドゲームである。
瞬間移動といっても、1キロ四方の空間内で任意に移動できる能力である。全く違う場所へはいけない。だが、長距離ミサイルによる攻撃や主砲の長距離攻撃はレーダーで捉えられるから、僅かな場所に瞬時に移動されたら、全く命中しなくなるが、誘導ミサイルを使えば、命中させることは可能ではあるしかし、その能力は魔法族には決定的に不利であった。
なぜなら、メイフィア魔法艦隊の最後の切り札であるデストリガーがかわされる恐れがあるからだ。
「確か、地獄の門は妖精族のデストリガー、妖精剣によって消し飛ばされたんですよね。でも、首尾よくデストリガーの射程内に飛び込んでも、瞬時に移動をされてはデストリガーを当てることは難しい。妖精族のように超至近距離まで近づければ多少移動されても問題ないのだろうが、魔法族には、妖精族のような瞬間移動魔法はないのか?」
平四郎は敵の前衛艦隊と後衛艦隊のあいだのフィールドに、こちらの高速艦が飛び込めれば、勝機はあると考えたが、前衛艦隊を突破するとなるとかなりの損害が予想された。
マリーとの戦いに使ったロケットブースターは短時間しか使えず、小夜との膨大な距離を詰めるときには使えない。ステルスとミラーによる隠密行動は、とっくに敵の知るところだろう。妖精族のような時を飛び越える魔法は使えないのだ。
「残念ながら、あれほどの大掛かりな魔法は、今の私たちでは発動できません」
マリーは残念そうにそう答えた。妖精女王シトレムカルルが使った妖精の環のような魔法はメイフィアには存在しない。
「となると、前衛艦隊を撃破し、堂々と敵の旗艦と相対するしかないですな。戦列艦同士の砲撃戦を制し、うすのろの敵巨大艦を始末しましょう。フィン提督、我々にお任せ下さい。メイフィア国軍の名誉にかけて、フィン提督をパンティオン・ジャッジの覇者にしてみせます」
そう今回の戦いに参加する戦列艦オクタヴィアの艦長、ガズン少将が立ち上がってそう宣言するように言い放った。同僚の艦長もうなずいている。ガズン少将は50過ぎの初老の男であったが、メイフィア国軍パトロール艦隊で下積みをしてきたベテラン軍人であった。この決勝戦はメイフィア国軍も本腰でサポートをしていた。戦列艦3隻(オクタヴィア。ケンタウルス、ミノス)を派遣していた。カズン少将のようなエリートではない非主流の軍人だが、経験豊富な生粋の指揮官を付けてくれたのは返って好都合であった。
(今回は基本戦術として、それしかないだろう)
平四郎も基本了承するしかない。一応、トラ吉を使って奇策を準備していたが、それはあくまでも最後の切り札であり、ここで話すことではなかった。
参謀長のマリーも、その策しかないと思ったので、フィンに了承を求めた。
「分かりましたです。敵の前衛艦隊を撃破した後、デストリガーで敵旗艦弁財天を撃沈します。ファイナルでは、デストリガーが撃てる各艦は、それを使用することを許可するです」
フィンがそう決定事項を伝えた。平四郎は各人の表情を伺っていたが、妙なことに気づいた。戦列艦マクベスの艦長、ヴィンセント伯爵が一言も話していないのだ。奴の性格から言えば、ありえない状況である。見るとヴィンセントは少し、うつむき加減で黙っている。
そこで平四郎は、ヴィンセントに対してこう尋ねた。
「ヴィンセント伯爵。伯爵は操艦の名手と言われている。この作戦に何か意見はないのか?」
「いいえ。見事な作戦。僕はフィン提督の決定に従います」
そう手短に答えただけであった。
(ますます、おかしい!)
フィンがみんな意見を聞いて結論としてだした作戦案にケチをつける男ではないが、その前に平四郎の意見にいろいろと難癖つけてくるはずである。まるで別人のような態度に平四郎は違和感を持ったが、周りの人間はあまり気にしていないようだ。マリーはどうだろうと思って彼女を見たが、彼女も気にはしていないように見えた。
(自分だけであろうか? まあ、それは置いておいて、第2の作戦案を相談するとするか)




