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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第25話 ドラゴン教団(3)

「ラピスさん、いよいよ第2司祭様がお目見えされるよ」


 ラピスが寺院の中庭で通信を終えて、本堂に戻ってくると、ここまで一緒に巡礼をしてきた老婆がそうラピスを見つけて手招いた。会場には300人程の集団が祭壇をUの字に取り囲んでいた。


 この老婆は、二つ目の祭壇への行脚の途中で弱っていたところをラピスが助け、ここまで一緒に旅をしてきた人だ。


 老婆の名前はアンと言った。年は75歳。夫と最近、死に別れ、3人いた子供も独立してそれぞれの家庭をもっており、暇な人生どうすればいいだろうかと悩んでいた時に、布教に来たドラゴン教の司祭の辻説法に感動し、ドラゴン教の教えにはまってしまった。典型的な新興宗教にはまってしまう中年、老年女性である。赤いローブで体を覆い、マントを被っていると何だか可愛らしい印象である。


 今回、初参加の巡礼だということ。ちょうど、ラピスぐらいの年齢の孫がいるので、ラピスをお嫁さんにしたいなどといい、ここまで一緒に旅をしてきたのだ。ラピスはこの老婆から、ドラゴン教の基本的な情報は得ていた。アン婆さんが手招いた場所は、祭壇がよく見える場所であったので、遅れて入ってきたラピスにとっては好都合であった。


 石で作られた床に赤い布が敷かれて、その上に信者は座る。アン婆さんの隣にラピスが座る場所が確保されていた。一番前の席である。前の席を確保するのは大変と聞いていたが。老婆なのに要領がいい。


「どこ行ってたの? 司祭様の祈りの時間が始まったら、本堂に入ることもできないよ」


「ありがとうございます。ちょっと、お手洗いに……。で、それで例のイケメン司祭様は?」


 ラピスが正面の祭壇を見るとちょうど、右手から赤い司祭服をまとった金髪の背の高い男が登場してくる途中であった。


(確かに背格好、髪の色。似ているけれど……)


「なんで、仮面を被っているのよ!」


 思わず、そう言ってしまった。周りの信者がラピスをぎょっとして見る。ラピスは慌てて自分にフォローを入れる。


「第2司祭様のご尊顔を直接見たかったのに~。どんなイケメンかしら~」


 ごまかすには少々、不敬なセリフであったがドラゴン教徒は司祭のカリスマを大切にしていたから、誰も咎めなかった。咎めるどころか、女性信者の中には両手を胸の前に組んで恋する乙女のようなポーズで目をうるうるさせている者もたくさんいた。このような教えとはかけ離れた理由で参加している者も結構いるようである。どこぞの外国の俳優やアイドルグループを追いかけるのと変わらない。その証拠に、会場の前面は老年、中年、若年を問わず女性信者で占められていた。


 金髪の司祭の男はちょうど目だけを覆う仮面をつけており、これによって、ヴィンセント伯爵かどうか判別がつかなくなっていた。体形や髪型はよく似ている。


「司祭様は、祈りの時にはあの仮面を身につけなくてはいけないから、顔を見ることはできないのよ。でも、祈りの後の信者へのお言葉を下されるときに仮面を取ることもあるそう」


 そうアン婆さんがラピスに囁いた。この婆さん、信者初心者なのに情報通である。この老婆もイケメン司祭に夢中な口か。あの世で連れ添いのじいさんが不機嫌になっていることだろう。


(祈りの後ね。じゃあ、顔はそのときに確認できるわね)


 そうラピスは思い、司祭の祈りの儀式を眺める。時折、信者も一緒に頭を垂れて祈り、経典の一部を一緒に暗唱した。1時間もそんなことをしていると、やがて祈りの時が終わり、司祭が信者の前に歩み出てきた。


「信者のみなさん。ようこそ、総本山へ。みなさんの敬虔な祈りが神に通じました。今、まさにドラゴンが一体復活し、このトリスタンの大地を飛び立ちました。もうすぐ、審判の時が来ます。その時には、ここにいる信者のみなさんのみが、この地上に選ばれ、再生の時を過ごすのです」


(ちっ! 仮面取らないじゃない)


 ラピスは心の中で舌打ちをした。確認しなくても、この男がヴィンセント伯爵でないことは間違いないと思っているが、顔を見て確認したいと思った。


(彼がヴィンセント伯爵なら、ここで彼が何をしているのか興味深いわね)


 ラピスはヴィンセント伯爵の狙いが一体なんなのか想像もつかなかったが、何だかそれを知ることが怖いと思い始めた。ドラゴンという人類を滅ぼす恐怖の存在を崇める宗教と狡猾なヴィンセント。このトリスタンにプラスになることではないだろう。


 顔が見れなくて落胆していると思ったのであろう。アン婆さんがラピスの服を引っ張ってこう囁いた。


「ラピスさん、まだ、諦めるのは早いですよ。第2司祭様は、説諭の終わりに今日、身の回りの世話をする女性信者をご指名なさるとのことよ。選ばれた女性は聖女と呼ばれるのよ。信者にとってはこの上ない栄誉。身も心も司祭様に捧げれば、死んだら天国に行けると言われているのよ。私のような年寄りは無理だけど、ラピスさんなら選ばれるかもねえ。そうすれば、ご尊顔を見ることができるのよ」


「ええっ! そんなことがあるの?」

「ええ。儀式の一部と聞いています」


(おいおい、それじゃあ、怪しい教祖が女性信者を片っ端から食っているのと同じじゃない。とんだ、エロ教団ね!)


「はあ~っ」


 ラピスはそれを聞いてタメ息をついた。こんなエセ宗教に世界をひっくり返す陰謀などに絡んでいるわけがないと思ったのだ。そう考えると自分が抱いた疑惑は一瞬でつまらないものになる。


 第一、ヴィンセント伯爵は今頃、戦勝して首都クロービスに帰投途中だ。こんなところにいるわけがない。


(無駄足だったわ……)


 がっかりしたラピスが思って頭を上げた瞬間、第2司祭が自分の方を指差している姿を見た。


「そこのお嬢さん、あなたを今宵の聖女に指名します」

「おおっ……」

「きゃあああ……」


 どよめきと小さな悲鳴が聞こえる。選ばれなかった女性信者のため息とラピスに向けられる賞賛と妬みの声である。


「え? 私? え、遠慮します」


 ラピスは両手を振ったが、その意見は黙殺され、教団の衛士に手を掴まれて、祭壇の司教のところまで引きずり出された。金髪の第2司教がうやうやしくラピスの右手を取り、そこに接吻をする。


(この男……)


 ラピスのジャーナリストの第六感がひらめいた。


(パーティで見ただけだけど、この男、間違いない。でも、なぜ、魔法艦隊にいる男が?)


 司祭はラピスの手を取り、祭壇を静々と退場していく。信者の歌がホールいっぱいに響いている。



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