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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第24話 VSタウルン共和国 眼下の敵 ~オベリスク空戦(6)

「リリムちゃん、敵の動きは?」


 平四郎の問いにリリムは笑顔を作ったが内心はこんな危険でメンドくさいことをやらされて黒リリムが平四郎やフィン、マリーらに悪態をついている。それでも、表面ズラは整えて、国民的アイドルはこう答えた。


「上にはいないと思う。下は1隻が被害を受けて気配が消えたわ。撃沈か少なくとも損害大ね。3隻がここから離れていった感じ」


「となると、残りは1隻ね」


 マリーが形のよい顎に握った手を当てて思案している。平四郎も考えたが、どう考えても残る1隻はエヴェリーンの旗艦だろう。ここが正念場だと思った。


「リリムちゃん、何か聞こえる?」


 リリムは耳に当てたヘッドフォンに両手を添えて集中する。かすかに聞こえる音を手繰り寄せてそれが何かを判別する。


「少し前までスクリュー音がかすかにあったけど、今は消えた。あるのはディープクラウド内で動く気流の気配だけ……」


「エンジン停止したということか。エヴェリーンさんはどうするのだろう」


「平四郎くん。もう防御用の爆雷が尽きます。他の艦も同様です。敵が1隻になったのなら、全力で逃げましょう。ここは仕切り直しをするのがいいです」


 フィンがそう言った。確かにその手もある。だが、それは逃げでしかない。良くて引き分けだ。逃走途中に敵はレーヴァテインを狙ってくるだろう。この艦を撃破すれば、エヴェリーンの勝ちなのだ。


「フィンちゃん、エヴェリーン少将は勝負をかけにきたんだ。これはピンチかもしれないけれど、こちらにもチャンスなんだ。逃げれば引き分けor負けだけど、戦えば負けor勝ちになる。勝つためには踏みとどまるべきだ」


「わたしもそう思います」


 リメルダも口を開いた。ブルーピクシーが撃沈された彼女も今はレーヴァテインの艦橋にいる。ゲスト席に座っているがやることがなくて悔しい思いをしていた。平四郎の前で活躍して、彼の気を引きたいのが彼女の本音だからだ。


「エヴェリーン少将は、曲がったことの嫌いな正々堂々とした人。間違いなく、このレーヴァテインを狙ってくる」


「そこを叩くしかありませんね。フィン提督。勝負は一瞬です。エヴェリーン少将のタウルンが勝つか、わたしたちメイフィアが勝つか。パンティオン・ジャッジの命運に委ねましょう」


 そう参謀長のマリーがフィンに言った。フィンも覚悟を決めた。


「分かりました。平四郎くん、レーヴァテインの攻撃、平四郎くんに任せます」


 平四郎はフィンにそう言われて、ドクン……と心臓の音が高らかに鳴るのを感じた。心臓と心臓から赤い糸が伸びて結ばれる現象。「コネクト」平四郎の瞳が赤くなる。どうやら、次の攻撃でどちらかに軍配が上がりそうだ。


「さあ、、みんな激アツの時間だ!」


 敵を先に発見できれば、自分たちの勝ち。メイフィアがファイナルに進む。発見できなければエヴェリーンの勝ち。タウルンがファイナルに進む。


 リリムが耳に装着したヘッドフォンを抑え、目を閉じている。


(この娘にすべてがかかっている)


 平四郎は待つことにした。神経を研ぎ澄ませて待つ。全魔力を集中させる。今回は圧倒的な魔力は役に立たない。強大な魔力攻撃の矛先が分からないのだ。今回の勝負は敵を発見するか否かで決まる。一瞬である。


「ヴィンセント閣下。フィン提督から入電。全艦そのまま停止して待てとのこと」


「フフフ……。どうやら、クライマックスのようだね。僕たちは観客だよ。レーヴァテイン(炎の剣)とそれを封じるハイ・プリーステス(女教皇)との決戦だ」

「閣下、このマクベスが攻撃されることはありませんか?」

「ないね」


 そうヴィンセントは即答した。状況から考えるとその結論になる。先程から、敵の魚雷攻撃が止んでいる。こちらの攻撃で3隻は仕留めたことも確実だ。メイフィア魔法艦隊がここで動きを止めたということは、最後の殴り合いをするということだ。


(まあ、どちらが勝っても良いけれど、フィンが勝ってもう少しだけ価値が高まった方がベターかもしれない。平四郎、グットかベターかはお前次第ということになるね)


 そうヴィンセントは侍従に運ばせたティーを飲みながら、艦橋から高速巡洋艦レーヴァテインを眺めていた。


 エンジンを切り、気流の流れに身を任せたエヴェリーンの旗艦ハイ・プリーステスの中は電源が落とされ、真っ暗の中で乗組員が息を潜めていた。明かりは懐中電灯のみである。予備電源を使えば、その音が察知される可能性もあり、さらに空調も止めてあるために、艦内の中は温度が上昇し、非常に暑くなっていた。


 エヴェリーンの額に汗が浮かび、顔を伝って汗がポタリ、ポタリと落ちていく。


「あと10秒でレーヴァテインの真下になると思われます」


 小声で副官の青年将校がエヴェリーンに伝えた。右手にはめた腕時計を見ている。


「9、8、7、6、5……」


 コココココ……とかすかに気流が流れていく音が聞こえる。コツン、コツン……と浮遊石のかけらが当たる音も。


 エヴェリーンは集中した。五感を研ぎ澄ませる。ドラゴン退治もそうだ。非力な潜空艦でドラゴンを倒すのは、狩猟で獲物を罠にかける方法と同じだ。息を止めて獲物が罠にかかるのを待つ。その瞬間まで息を殺してひたすら待つのだ。


「エヴェリーン……。我慢強く待てるのは人間だけの特権だ」

父の声が聞こえる。


(そうわたしは待つ。そして、敵を感じる!)


「4、3、2、」


 副官が右手の腕時計をエヴェリーンに向けた。


「1、提督、攻撃を!」


「いや、まだだ。あと少し、もう少し……」


 エヴェリーンは目を閉じて、唇を動かす。副官が攻撃を促す言葉を発してから、7秒後にその唇から音が出た。


「アクティブソナー、撃て!」


 ピキーンっと音波が放たれる。それはレーヴァテインの艦底に当たった。


「真上、レーヴァテイン!」

「勝った! 対空魚雷、撃て!」


 ガコン……っとタウルン潜空艦艦隊旗艦ハイ・プリーステスの魚雷発射菅の扉が開く。対空魚雷が放たれる瞬間、


ドゴ、ドオーンと衝撃と音が伝わった。


 エヴェリーン以下、揺れる船内に転がらないように必死で何かにつかまる。


「ど、どうしたんだ?」

「わ、わかりません」


 ギュルギュルギュル……という音と共に艦が上昇していく感覚があった。


「あ、あれは!」


 小さな窓からわずかに明るい光を見た乗組員が叫んで、エヴェリーンは全てを悟った。


 はしごを登って外に出るハッチのバルブを回し始めた。


「お嬢、外はディープクラウド、開けたら死にますぜ!」


 部下が慌てて止めるが、エヴェリーンはその行為を止めなかった。回し終わってロックを解除したハッチを開けたエヴェリーンは、上半身を外に出して、


「ハハハハハッ……そうか、その手があったか!」


 そう大きな声で笑った。


 ハイ・プリーステスは、開いた魚雷発射管にレーヴァテインが放った錨を引っかけられて、まるで魚が釣り上げられた状態で空中にぶら下がっていた。平四郎とフィンのコネクト状態にあるレーヴァテインが放った攻撃である。


「負けたよ」

 

 エヴェリーンは部下に命じて白旗を挙げさせた。



 フィン提督率いるメイフィア魔法艦隊が、苦戦しつつもタウルンの潜空艦艦隊を撃破したニュースは、すぐさま、トリスタン中を駆け回った。これでパンティオン・ジャッジのファイナリストが決まったことになる。


 すでに決勝進出を決めている霊族の族長の娘、怨情寺小夜と魔法族のフィン・アクエリアスの決戦である。


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