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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
153/201

第24話 VSタウルン共和国 眼下の敵 ~オベリスク空戦(5)

いよいよ、クライマックス。

勝つのはタウルン共和国の潜空艦艦隊か。メイフィア王国の魔法艦隊か?

 空中艦が空に静止したら、格好の的である。いつ撃沈されてもおかしくはない。それでは困るので爆雷を投下して、一時的に潜空艦を至近距離から追い払った。これで上空にも下空にも攻撃可能エリアに敵艦は入れない。爆雷の破壊エリアのおかげで一時的に攻撃を防ぐ作戦だ。


 ディープクラウド内にいる潜空艦もレーダーは使えない。潜望鏡で確認するか、音波を放ってこちらの位置を確認するしかないが、それを使えば、逆に潜空艦の位置も知ることができる。


(あるいはそれが目的か?)


 エヴェリーンは平四郎の目的が図りかねた。目を失った以上、こちらの動きをキャッチして対抗することは予想できたし、それしか手はないだろうと思った。爆雷を投下して爆発さるので、エヴェリーンとしては被害を受けないために一時、距離を取ることにしたが、それは計算の内であった。


「各艦、距離を取れ。あんな攻撃は虫除けみたいなもの。爆発の衝撃が消えてから近づけばいい。それに爆雷が無限にあるわけもなし」


(ディープクラウドがなくなるオリベイラ沖の安全地帯に逃げ込むには、爆雷の数が足りないし、そこまでは逃げきれないことは分かっているはず)


(となると、こちらの出方を待ってからの反撃。でも、それはタウルン国軍が実証済み。あたしには通じないわよ。平四郎ぼうや


「各艦、距離を取れ。敵艦隊はあたしが監視する。命令があるまで待機」


 エヴェリーンそう命令して、潜望鏡で再びメイフィア艦隊を確認する。驚いたことに完全に動きを停めて停泊している。爆雷を使った空間より少しだけ移動したものの、完全に停止していた。


(どういうことだ? こちらと決戦に及ぶなら、艦隊運動しないと魚雷の餌食になるのが分からないのか?)


「お嬢、完全にこちらの動き待ちってことでしょうな。イージス艦がやられてしまってはそれしかないでしょう」


 ドラゴンハンターのエヴェリーンの父親の右腕として活躍してくれた部下がそうエヴェリーンに言った。長年の経験から発せられる言葉だから重みがある。


「少将閣下、私もそう思います。となると、こちらからソナーを放つのはやめた方がいいですね」


 国軍から派遣され、今はエヴェリーンに心酔している副官の中尉が追従する。この青年も優秀な士官であった。タウルン防衛大学卒ではないために、このイレギュラーな部隊の副官に飛ばされてきているものの、人柄も能力もエヴェリーンの部下たる資格を持っていた。(年はエヴェリーンの方が2つお姉さんだったが)


「分かった。爆雷で潜空艦を追い払って位置を変えて、こちらが音波を放つのを待ってそれを解析し、攻撃してくる作戦と断定する。そうなると、敵の作戦に乗る必要はないだろう。全艦に伝達。アクティブソナーは使用するな。敵の位置は旗艦から伝達する」


 そう言って、エヴェリーンは潜望鏡を上げて、レーヴァテインを見る。


(座標Z12X2Y19ってところか……)


 潜望鏡から肉眼で艦の位置を割り出すのは難しい。熟練の技がいる。エヴェリーン艦隊の強みはそれができる人員が多いこと。エヴェリーン自身もできるが、より正確に位置を把握できる職人芸を持つ部下を呼んだ。彼にかかれば、停まっている空中戦艦の位置など、コンピュータよりも早く割り出すことができる。


「お嬢、レーヴァテインの位置、Z13X2Y21ですな。これで腹に魚雷を打ち込めます」

「よし、各艦に伝達……」


「大変です!」


 通信担当の部下が素っ頓狂な声を上げた。


「なんだ!」

「二番艦、三番艦、消滅しました」

「なんだと! そんな馬鹿なことが……」


 エヴェリーンは上空のディープクラウドから潜空艦の残骸が落ちていくのが潜望鏡から見ることができた。もう囮の廃船はない。あれは二番艦、三番艦の残骸に違いない。


(そんな馬鹿な。どうやって位置が分かった? 二隻とも爆雷の影響範囲から離れた場で動いていたはずだ。だが、撃沈できるとしたら、位置を確実に捉えた上で対潜空艦魚雷による攻撃しかない)


「リリムちゃん、敵の位置判明した?」

「しっ!静かに……。音が聞こえる。上空ディープクラウド内、動いている音、2つ」


 聴覚が異常なリリムには、集音マイクを通して潜空艦のスクリュー音。魚雷発射管を開ける音。はたまた、艦内の喋り声、歩く音まで雑音となって感じることができた。それを頭の中で整理し、敵艦の位置を把握することができるのだ。生まれ持った才能と魔力の強化、音の大きさ、届く距離から位置を割り出す補助魔法のおかげでもあるが。


「敵艦の位置、1隻目は座標Z35X20Y17と2隻目はそれぞれマイナス3、いや、Zだけ4」


 レーヴァテイン以下4隻のメイフィア艦隊はエンジンを停めて空中に漂っている。風に少しずつ流されてるので、空中制御装置で場所は固定している。レーヴァテインから上空と下空に索敵用集音マイクを2本差し入れ、リリムの超絶的な聴覚での索敵だ。


「よし、まずは2隻を仕留める。フィンちゃん」

「はいです。ルイーズ少将に連絡。駆逐艦より対潜空艦魚雷による攻撃するです!」

「分かりましたですうううう」

 

 潜空艦キラー部隊であるルイーズ少将の駆逐艦より、不意に魚雷を撃たれた2隻は逃げるまもなく撃沈されるしかなかった。ディープクラウド内での撃沈は100%戦死である。


(艦からディープクラウド内に出た人間は、一瞬で窒息、圧死するのだ)


 エヴェリーンの耳に鈍い爆発音が届いた。おそらく大切な部下が何人か失われたことだろう。エヴェリーンはキュッと唇を噛んだ。タウルンの予選でも部下が失われたことは一度もなかったのに。


(自分の甘さ。その甘さで部下を死なせてしまった……)


「4番艦も攻撃を受けて破損した模様。ディープクラウド内から離脱します」

「被害状況は?」


「魚雷の直撃はまぬがれたようですが、近くで爆発して装甲が損傷。ディープクラウドにとかされつつあります」


「4番艦の離脱を許可。雲の下で待機。場合によっては、大陸に不時着しても構わない。あとで救出する」


「お嬢、どうします? あれは音でこちらの位置を確認してるようですぜ」


「どうして音だけで正確な位置が分かるのか、どうしてそんな音を聞き分ける人間がいるのか、不明点だらけだけど、状況は正確に把握して対処しなくてはいけない」


 エヴェリーンの優れたところは、自分の作戦案に問題が出てもそれを受け入れ、変更することに躊躇がないこと。刻々と変わる戦況に応じた判断ができること。そして思い切った案件ほど、決断が早いことであった。


「このハイ・プリーステス以外の潜空艦は戦場から離脱」

「お嬢」

「お嬢さま」

「少将!」


「大きな声を立てるな。この瞬間も敵に音を聞かれている。心配するな、戦いを諦めてはいない。こうなったら、敵のレーヴァテインと一騎打ちだ。それには根比べが必要だし、他の艦との連絡が出来ない以上、数があっても意味がない」


「一騎打ちですか?」


 青年将校の副官が聞き返す。


「そうだ。そもそも、ドラゴンハントの基本は1対1だ。レーヴァテインがドラゴンと思えば、あれはS級だな。そんなに手ごわい敵じゃない」


「そうですな。ブレスも耐久力もドラゴンよりは下だ」

「ははは……」


 艦内に笑いがおこる。エヴェリーンは顔をしかめて、「しっ!」と手でジェスチャーをした。さすがに艦内でしゃべる声まで聞こえるとは思えなかったが、用心に越したことはない。


 正確に位置を割り出され、2隻が撃沈されたのだ。魔法族には聴覚を高める魔法でも開発されたのかもしれない。しかし、エヴェリーンが座乗するこのハイ・プリーステスは、ドラゴンハンターだった父が中古の潜空艦を自ら設計し、経験と技術、金をつぎ込んで造ったリニューアルされた魂のこもった船である。中古で購入した他の潜空艦とはちがい、防音対策はかなりのもである。床には音を吸収するゴム状の素材なのはもちろん、乗組員の靴底、食器類に至るまで音が出にくい素材を用いている。これでエンジンを停止すれば、艦が発見される可能性はゼロに近いはずだ。


 このままエンジンを停止すれば、メイフィア魔法艦隊とは距離を置いたところでハイ・プリーステスも動けないのであるが、現在潜んでいるディープクラウド内にはわずかに気流の変動があった。それは現在の位置から、メイフィア魔法艦隊のすぐ下を通るルートで流れている。気流の流れで徐々にハイ・プリーステスはレーヴァテインの真下に来る計算だ。自力航行しないので、音でこちらの位置を確かめるレーヴァテインの索敵には引っかからないはずだ。


(問題はこちらもレーヴァテインの位置が確かめられないということ)


 位置が確かめられないことは、致命的である。距離があればハイ・プリーステスから発射された対空魚雷は、魔力バリアに遮られるだろう。真下を通過してしまっても然り……である。位置を確かめるには潜望鏡を上げるか、アクティブソナーを撃ち込むしかない。だが、その途端、位置が把握され、攻撃を受けるだろう。


(気流の流れを計算するけど、最後は長年の経験、敵の気配……で……か。親父が言ってたっけ)


「エヴェリーン、いいか、時代が進んで兵器がどんなに良くなっても変わらないことがある。兵器は人が操るということだ。最後は人間の力だよ。ドラゴンに勝つにはな」


(親父……)


 エヴェリーンは日焼けした父親の後ろ姿を思い出した。そのたくましい背中から学んだことは今もエヴェリーンを支えているのだ。

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