表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
150/201

第24話 VSタウルン共和国 眼下の敵 ~オベリスク空戦(2)

 対潜水艦戦は多くの映画、小説、漫画で語られてきました。見えない相手との戦いは手に汗を握ります。対エヴェリーン戦はそんな戦いを描ければいいなあ。

 パンティオン・ジャッジセミファイナルの戦場となるオベリスク空域にメイフィア魔法艦隊は到達していた。ここは上と下に分厚いディープクラウドが存在し、潜空艦が展開するには一見有利な場所ではあった。だが、ディープクラウド内に大きな浮遊石がいくつも存在し、潜空艦にとっても危険な場所であった。

 

 有視界は完璧にゼロであり、音波を出して前方の障害物を見つけながら進むしかないわけで、潜空艦キラーの艦隊がその存在を見つければ、撃破することも可能であった。さらにオベリスク空域の半分はディープクラウドが存在しない快晴エリア。ここへ逃げ込めばメイフィア艦隊は安全であった。危険地帯と安全地帯が存在する戦場なのである。


「マリー様。報告のとおり、面白い場所ですね」


 平四郎はそう参謀長のマリーに話しかける。現在、メイフィア魔法艦隊の7隻はその危険地帯エリアの手前で待機している。


「ここで待機していても事は進みません。前進するしかないでしょう。フィン提督、全艦隊突入したいと思いますが、いいでしょうか」


「はい。マリー様」


「フィン提督。戦場ではマリーとお呼びください。このレーヴァテインではわたくしはあなたを支える参謀なのですから」


 完璧なマリーが来てから平四郎の仕事は楽になった。作戦を実行する上での準備をこの才女は事も無げに実行できるからだ。フィンの副官のミート大尉も主にフィンに関することだけに仕事が集中できて、最も助かっている人であろう。


「平四郎の旦那、マリー殿下はすごいにゃ」


「ああ。改めて思うよ。本当はメイフィア代表は、マリー様が務めるべきだったってね」


「そんなことないにゃ。マリー殿下は正統派だにゃ。だけど、ドラゴンとの戦いは正統だけでは勝てないにゃ」


「確かに……。エヴェリーンさんとの戦いは普通じゃない」


 平四郎言うように、この戦いは特殊な様相を呈していた。お互いに戦術を駆使して砲火を交える砲撃戦ではない。エヴェリーン少将のタウルン艦隊は、隠れながら近づいて魔法バリアが無効になる距離からの攻撃。フィンのメイフィア艦隊はそこまでに発見して、それを撃沈するという言わば、「かくれんぼ」いや、この場合は「缶けり」に例えられるだろう。そんな戦いになっていた。


「マリー様、リメルダのブルーピクシーを先頭に侵入しましょう」


「そうですね、平四郎様。ブルーピクシーを先頭。ヴィンセントのマクベスをその護衛としましょう。フィン提督、よろしいですか」


「はいです。リメルダさんに連絡するです。これより、メイフィア魔法艦隊は戦闘に入ります」


 メイフィア魔法艦隊は1直線になって危険地帯へ進んだ。イージス艦ブルーピクシーの索敵で潜空艦を発見し、レーヴァテインを中心とする潜空艦キラー仕様に改造された駆逐艦部隊による攻撃を行うのだ。


「さあ、タウルン艦隊を見つけるわよ。ナアム、上下のセンサー、ディープクラウド内に挿入。16方向にウェーブ、撃て!」



 リメルダがそう命じると、ブルーピクシーから潜空艦の位置を探る音波ウェーブを放った。ディープクラウド内を通りやすい波長の音を放ち、それが跳ね返ってくることで、その対象物が何か、大きさ、距離を知るのだ。情報を統合して瞬時に潜空艦を割り出すことができるのだ。ただ、もし、潜空艦を見つけたら、ブルーピクシーはすぐその場所を離脱しないといけなかった。なぜなら、敵の位置も分かるがこちらの位置も知らせてしまうことになるのだ。


 ウェーブを放ち、解析してすぐその場所を離脱するという繰り返しで、リメルダは戦いが始まってから、3時間余り、この作業を繰り返していた。もう、索敵が200回を超えるかどうかという時、これまでとは違うは反応が返ってきたのだった。


「いた! 発見したわ!レーヴェテインにすぐ報告。リメルダ、敵を発見と!」


「総員、第一種戦闘配置。潜空艦らしきものおおおお、ブルーピクシーが発見したですうううう……」


 プリムちゃんの報告に平四郎はリメルダを呼び出す。


「リメルダ、敵はどこに何隻だ?」

「上空のディープクラウドの中、3隻が一列に並んで航行しているわ!」


(空中艦の一番弱い、下部を狙うために下のエリアに潜んでいると思ったけれど、意外と上に隠れているのか。それとも艦隊を2つに分けたのか?)


 平四郎はリメルダの報告を聞いて、エヴェリーンの作戦意図を図りかねていた。


「フィン提督、敵を発見した以上、戦闘は近いと見るべきです。艦隊援護の爆雷の発射を進言します。ブルーピクシーからさらに詳しい敵の位置が報告されれば、魚雷を撃ち込みます」


 参謀長のマリーがそう進言する。完璧なマリーのあだ名通り、防御しつつ、敵に詰め寄る的確な指示である。平四郎もうなずく。それを見たフィンもうなずいた。


「上下方向に爆雷撃ち上げ! レーヴァテイン、ベルダンディ、ウルド、スクルド、それぞれ、撃てえええ!」


 フィンの命令で、対潜空艦爆雷が撃ち込まれる。通常の雲なら、これでかなりの損害を与えられるが、ディープクラウド内では、気体の比重が大きく、爆発が広がらず、威力が極端に弱くなる。かなり、近いところで爆発しないと効果は期待できなかった。だが、艦隊に潜空艦を近づけさせないために、この攻撃は有効であった。


 スクリーンに爆雷の爆発エリアが赤く示された、艦隊の上下に赤い膜が覆われている感じだ。理論上、このエリアに潜空艦は侵入できない。ディープクラウドは金属腐食性の性質があり、通常の空中戦艦は侵入できない。


 特殊な形状と大きさ、そして腐食から艦体を守る特殊コーティングのおかげで潜空艦は航行できるのだが、爆雷の爆風でこのコーティングに損傷を受ければ、ディープクラウド内にいられないのだ。


「爆雷は5分おきに投下。潜空艦を近づけさせるな!」


 平四郎はそう命令する。爆発音と共にディープクラウドがところどころ明るくなる。これを繰り返していれば、潜空艦は近づけないはずである。そうこうするうちにブルーピクシーより敵の詳しい位置がもたらされた。


「北東17度3、速力18、敵の予想進路をリアルタイムで送信されたですううう」

「よし、各艦、対潜空艦魚雷発射準備。フィン提督、命令を」

「はいです。全艦、対潜空魚雷撃つです」


 フィンの命令の元、レーヴァテイン、ベルダンディ、ウルド、スクルドからそれぞれ、2本ずつが発射された。対潜空艦魚雷は、ディープクラウド内でも移動できるように特殊コーティングされたものである。航続距離は4キロほどだ。魔力の効果が制限されるディープクラウド内では追尾ができず、あらかじめ計算された進路で自分で勝手に進んで爆破するのだ。


「対潜空艦魚雷、敵艦に近づきます。5、4、3、2、1……全弾命中ですううう」


 プリムちゃんの報告と共に、3つの爆発音がして、上空の雲から潜空艦の破片が落ちてくるのが見えた。


「3隻、撃沈したもよう。さらに、ブルーピクシーより入電。3隻発見。南西19、速力17。こちらから離れていきます」


「飛んで火にいる夏の虫とは、このことだね!」


 ミート大尉がつぶやいた。すかさず、フィンの攻撃命令がされる。


「魚雷発射!」


 ほどなくして、3つの存在が消えた。


「ヤッター」


 艦橋内が喜びに湧いた。開戦からわずか1時間弱で敵7隻中、6隻を沈めたのだ。まだ、敵旗艦撃沈の報告がないため、完全勝利ではないが、大半の戦力は奪ったと言える。


 だが、喜んでいない人物がいる。


(おかしい。いくらなんでも脆すぎる)

(こんなにあっさり終わるわけがありませんわ)

(……)


 平四郎はそう思った。あのエヴェリーン少将がこんなに簡単に負けるはずがない。参謀長のマリーも提督のフィンもそう考えている表情であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ