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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第23話 フィンの告白(2)

「フィンちゃん、先約って……?」


 平四郎はフィンの耳下でそっと尋ねた。


「平四郎くん、今晩、暇です?」

「え、暇じゃないけど、時間は取れるよ」

「じゃあ、7時に私の宿舎へ来てください」


(え、えええええっ。夜にフィンちゃんの部屋へ。超ラッキー……というか、何? もしかして進展?)


 平四郎の心臓がドキドキした。彼女には告白し、結婚の約束までしているのだ。パンティオン・ジャッジに勝ったら結婚という約束はマリーのおかげで延期させられているが、いずれ結婚することは規定事項なのだ。


(もしかしたら)

(キスぐらいはOKなんだろうか?)と思いつつ、フィンが


「結婚するまでエッチなことははダメです!」


 とはっきりと言ったセリフを思い出した。


(はあ~。期待しちゃいけないんだろうな……)


 何を期待するのかは、平四郎に聞いてみないと分からないが。


「フィンさんと夜に約束なら、今からはフリーよね?」


 リメルダが平四郎に話しかけてきた。この娘、ツンデレ気味だったのに、最近はデレが強くて積極的である。


「お兄様の昇進祝いの品を買いたいのだけど、平四郎はお兄様と年齢が似ているから、ちょっとアドバスしてくれないかしら?」


 そうさりげなく誘うが、お兄様のことは口実であるというくらい、賢い人間なら見抜いているだろう。


「リメルダ、そういうプライベートごとは後回しです。総参謀長としてわたくしが平四郎さんに相談があります。この後、お茶しながら、作戦案を一緒に練りましょう」

 

 なんと、マリー王女が誘ってきた。(マジ?)


「マリー様、作戦案を立てるのでしたら、みんなと一緒にお茶すればよいのです」


 そう言って、リメルダが平四郎の左腕を取る。


(まさか? マリー様も平四郎狙い? 王女様は王女様でそれ相応の男を相手にしなさいよ!)


 リメルダは自分が公爵令嬢であることを棚に上げて、そう心の中で敵愾心をむき出しにするが、さすがに王女に向かっては表面上ニコニコするしかない。マリーはそんなリメルダの気持ちを知ってか、知らないでか、平四郎の右腕を取ると自分の豊かな胸にさりげなく押し付ける。


(王女様もやる~)


「極秘の作戦案ですから、わたくしと平四郎さんだけで話す必要があります」


 顔はにこやかに笑っている。さすがはパーフェクトマリーである。


「うううう……」


 リメルダは言い返せないが、マリーが明らかに作戦ではなく、平四郎と一緒にいたいだけということは見抜いていた。なんでマリーまでが平四郎にアプローチするのか腹ただしいのだが、自分が好きな男がモテるのは悪い気はしない。だが、フィンに加えてマリーまでもがライバルではリメルダもうかうかとしてられない。


(なんとかしないと……)という思いでリメルダは、つかんだ平四郎の左腕をギュッと体に押し付ける。はたから見ると美少女二人に迫られる超美味しい状態だが、肝心の平四郎はフィンの視線に固まって、この美味しい状況を認識していない。


「(-_-)じとー」


 フィンが冷ややかな表情で見ているので、平四郎は固まっていた状態から、事態を解決するために慌てて目を泳がせた。作戦会議中でレーヴァテインの関係者が平四郎を見ている。その中でも武器商人の息子クリオが何か言いたげに平四郎の顔を見ているのに気がついた。


「クリオ、何か?」

「あ、いや、実は平四郎さんに見てもらいたい装備があるんですが……」


(おおお! クリオくん、ナイス!)


 平四郎は(コホン)と咳を一つした。


「ちょっと、クリオくんと打ち合わせがあるんだ。トラ吉、お前、リメルダの買い物に付き合いなさい!」


「にゃああ! 旦那、猫じゃ、アドバイスできないにゃ」


「ナアムも行くんだろう。たまには幼馴染と一緒に過ごせよ。マリー様、作戦会議は明日の午前中にレーヴァテインの会議室で……」


「え~」


 リメルダは頬をふくらませて残念がり、マリーは返事の代わりに微笑を浮かべた。この場はなんとかしのげたようだ。ちなみに、ナセルの奴はミート大尉とデートするとウキウキ顔だったので、奴のポケットに綺麗なお姉さんがいっぱいいるお店の名刺を入れておいた。


(あとでミート大尉に言い訳しろや)


 美少女二人の誘いを断り、まさかの商人の少年と行動することになった平四郎だが、みんなと別れてクリオに連れてこられたのは、レーヴァテインの艦橋であった。先程はつい気づかなかったのだが、通信、索敵、攻撃、防御の各担当席に1つ追加されていた。アンナ・ハメルがその新しい席に座っている。彼女は空中武装艦の設計士である。赤毛でボーイッシュな髪に2本アホ毛が飛び出している。


 見た目幼女だが、この人、年齢は26歳。平四郎よりお姉さんである。その小さなお姉さんが、ヘッドフォンを付けて鼻歌を歌っている。その横でルキアがゴソゴソと配線の調整をしていた。


「ルキアにアンナさん、その席はなんです?」

「あ、平にい」


 ルキアは作業の手を止めて平四郎の方を見た。アンナは気配を感じてヘッドフォンを外す。彼女も音楽を聞いてサボっていたわけでなく、何やら調整を手伝っていたようだ。平四郎に自慢げに話しだした。


「ふふん。ルキアちゃんのオファーに応えて作った席よ。対潜空艦対策席よ」

「対潜空艦対策?」


「そうだよ、平にい。索敵システムのバージョンアップ版。実はアンナさんに音で敵の位置を知る集音マイクタイプの索敵集音管の話をしたら、それは面白いって言ってレーヴァテインに装備することにしたんだよ」


 ルキアが作業しながら得意げにそう話した。


(索敵集音管?)聞きなれない言葉に平四郎は戸惑う。元々はクリオが武器市場で見かけたパーツにルキアが食いついたそうだ。平四郎を無視するかのように、今度はアンナが補足説明をする。


「今回の戦い、敵の潜空艦を発見することが勝利への鍵って言いましたよね」

「ああ、理解している」


「今のわたしたちの敵を発見する能力は、ブルーピクシーのソナーシステムのみです」


 アンナの説明はこうだ。潜空艦を見つけるために、ブルーピクシーに装備されたソナーシステムは、ディープクラウド内に打ち込んだソナーから音を出し、それが潜空艦に当たって返ってくることで、その位置を割り出す。ディープクラウド内では、音波は複雑に妨害されて帰ってくるので、それを補正する計算ができるイージス艦でないと無理。よって、ブルーピクシーのみに装備されているのだが、それはエヴェリーンには当然、バレているわけで、戦いが始まれば、ブルーピクシー撃破が一番の目標になる。


 万が一、ブルーピクシーに何かあれば、メイフィア艦隊は目を失ったも同然になる。そこで、異なるタイプの敵発見システムを導入する必要があった。


「そこでレーヴァテインに採用したのが、クリオくんが手に入れてきたこの索敵集音管、(地獄耳13号)」


「地獄耳13号? なんて分かりやすい名前」


 この装備は、まるで糸電話のように集音するパーツとそれを伝える金属のワーヤーからなるもので、それを3つ、ディープクラウド内に漂わせ、その中を航行する潜空艦の位置を割り出すのだ。


「但し、これを使いこなすには、かなりの聴力の持ち主が必要なんだ」


 ルキアがそう言った。


「アンナさんがその任に付くということですか?」


 平四郎はアンナが席に座っているので、そう解釈した。だが、アンナはクスクスと笑い始めた。

「え? 私が? 冗談、私はそんなに地獄耳じゃないわよ」

「だ、だって、席に座っているから……」


「ああ、これは機器の最終調整をしていただけよ。それにこの機器を使いこなすのは普通じゃない聴覚能力が必要よ」


 クリオがパラパラとカタログをめくった。


「カタログデータだと、100m先で木の床に落としたスプーンの音を聞き分けるぐらいの力が必要です」


「クリオ、そんな人間、メイフィアにはいるのか? 自分がいた日本じゃ、そんな耳のいい人間、まずいないよ。ウサギ並だよ、そりゃ」


「そうですね。メイフィアにもまずいません。これは魔力で聴力をアップしたとしてもさすがにそこまでは、無理でしょうね」


「つ、使えねえ~」

「あと、そういう人間がいたとしても、この機器を使うにはレーヴェテインの動力を止めるしかないです。動力の音が邪魔しますから……」


「ますます、使えねえ~」


 クリオの持ってくる武器というのは、大抵使えないのだが、それでもこれまでにその使えなさを逆手にとって勝ってきたのだ。今回も(もしかして……)と思わんでもないが、そんな不確定なものを装備してしまうアンナの考えていることが分からない。アンナ曰く、


「何だか、面白そうだったから付けてみました~」


 この天才設計士の考えていることが分からない。


 ウサギ並みの聴力をもつ人物……。

(あれ? なんか心当たりあるような……)

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