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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第23話 フィンの告白(1)

嫌な奴、再登場。

こいつは内なる悪役。こう言う奴は物語では必要でしょう。


「平民が伯爵を呼び捨てにするとは、メイフィア王朝の品格も地に落ちたものだな。東郷平四郎、お前は一介の巡洋艦艦長に過ぎない。軍の階級も准将相当だろう。王国の伯爵の爵位を持ち、軍でも少将待遇、そして軍の評議委員たるこの僕に話しかけることすら、無礼極まりない」


 相変わらず、嫌な奴である。この前、吊るして強制土下座をさせたのに全く懲りていない男がそこにいた。正式の場ではこの男が言うように、メイフィアの身分では平四郎より上である。階級でも上官であることは間違いない。平四郎はやむを得ず、黙って目線を落とした。何もしていない男を殴るわけには行かない。


「ヴィンセント伯爵……。どうしてあなたがここにいるのですか」


 マリー王女が眉をひそめてそうヴィンセントに話しかけた。今、この場でそんな態度が取れるのは、マリーがヴィンセント伯爵より身分が上で、軍の階級も大将相当であった。ちなみにフィンはメイフィア代表となった時点で、4階級特進、上級大将相当という身分で誰よりも上であったが、それに伴う威厳は彼女にはない。

 

 マリーに話しかけられたヴィンセントは、不敵な笑いを浮かべた。前は第1魔法艦隊艦隊所属であったから、マリーの部下であったが今は違う。メイフィア国軍の代表として目の前に立っているのだ。


「マリー、元々、自分には糾弾されるべき罪状がない。唯一の罪は君の機嫌を損ねたということくらいだよ。フフフ……」


 マリーに更迭されたヴィンセントだったが、そのマリーが第5魔法艦隊に敗れたことで、逆にヴィンセントの株が上がったことは皮肉なことであった。ヴィンセントが更迭されなければ、第1魔法艦隊が負けるはずがないというのが、軍内の評価であったからだ。


 メイフィア軍としては、第1魔法艦隊に勝ってもらうシナリオを当初は描いていたが、御し易いとは言えないマリー王女のことを考えると、マリーの発言力を抑えつつ、御し易いと思われるフィン率いる第5魔法艦隊が代表になる方が都合がよかったとも言える。


「で、その伯爵様がなぜ、ここにいらっしゃるのですか?」


 マリーの次に身分が高いリメルダが後に続く。公爵令嬢なのだから、遠慮することはない。その言葉には多分に皮肉が込められている。第5魔法艦隊関係者で彼が好きな者は一人もいないだろう。嫌われ者のイケメン野郎がそれに答える。


「ふん。よく聞くがいい。今日付けで、僕は魔法艦隊に編入される最新鋭の戦列艦マクベスの艦長を拝命した」

「マクベスだって?」


 平四郎はその艦の名前を思い出した。メイフィア軍が建造していた最新鋭艦の名前である。フィンのために建造したというが、マリーのコーデリアⅢ世の姉妹艦らしく、現在の魔法王国メイフィアの魔法技術の粋を尽くした戦列艦であった。


「ちなみに僕はフィン提督の幕僚、監察官の肩書きももっている。君たちの作戦にも口出しをさせてもらう。いいか平四郎」


 そう言って、ヴィンセントはフィンの前にうやうやしく膝まづき、その左手を取ると薬指あたりに軽くキスをした。貴族の挨拶だが、何だかむかつく。


「フィン、僕が加わったからには、大船に乗った気持ちでいてください」

「は、はい……。ヴィンセント少将、よろしく頼みます」


 かつて平手打ちをした相手にフィンはそう言わざるを得ない。(フィンも平手打ちしたけど)艦隊編成は提督たるフィンの専権事項であるが、メイフィア王国の代表である以上、国家の支援は受けなければならない。今回も強引に軍が2隻の戦列艦を配備することに妥協せねばならなかったのだ。


 一応、魔法王国メイフィア代表艦隊の編成と人員配置はこうである。


旗艦 高速巡洋艦レーヴァテイン

第5公女 フィン・アクエリアス提督(第5公女・上級大将)

総参謀長 マリー・ノインバステン第1公女(メイフィア王国王女・大将)

副官   ミート・スザク大尉

艦長   東郷平四郎准将


2番艦 イージス艦(巡洋艦相当)ブルー・ピクシー

艦長 リメルダ・アンドリュー第2公女(中将)

副官 ナアム・ハスパルピ(少佐相当)


3番艦 駆逐艦ベルダンディ

艦長 ルイーズ・フランテ少将


4番艦 ウルド無人操作 5番艦 スクルド無人操作


6番艦 戦列艦マクベス

艦長 ヴィンセント・ノインバステン伯爵少将 メイフィア代表艦隊監察官


7番艦 戦列艦ヴァイオラ

艦長 ノグマ・レイナルト子爵大佐


 ちなみに7番艦ヴァイオラの艦長は、ヴィンセントの息のかかった人物であり、軍からの要請で派遣されていた。


 今回はマリーのコーデリアⅢ世は居残りということで、リメルダの兄のシャルルは待機ということになる。


「敵は所詮、潜空艦。負けるなんてことのないよう、平四郎、ちゃんと作戦考えておけよ」

 

 ヴィンセントはそう小馬鹿にしたような口調で平四郎に命令した。

(この野郎め。お前は考えないのか? なんもしないで幕僚とかいってんじゃねえ)


心の中で毒づく平四郎。毒づくだけでは我慢が出来なかったので皮肉を言ってみた。


「ヴィンセント伯、エヴェリーンさんの潜空艦部隊を軽く見ないほうがいい。タウルンの戦列艦が何隻も撃沈されているんだ。伯爵も最新鋭艦に乗って戦死しないよう願います」


「ふん。心配無用。君が潜空艦をディープクラウドから引きずり出してくれれば、僕が全て沈めてやるよ。巡洋艦や駆逐艦では、追い込むのが精一杯だろう。引きずり出せなきゃ、異世界からの勇者の名がすたるからな」


 そう言うとヴィンセントはフィンの両手を取った。


「提督、今晩、お食事でもどうでしょう。新しい部下との交流も提督の勤めですよ」


「ご、ごめんなさい。今日は先約があるのです。伯爵と新しく加わった方々とは、いずれ、親しくお話させていただきます」


 そう言って、フィンは平四郎の後ろにそっと隠れたのであった。それを見て、ヴィンセントは顔が一瞬不機嫌になったが、それでも薄笑いをして右手を上げてその場を去っていったのだった。


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