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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第22話 霊族VS妖精族(1)~カンタベリー空域の戦い

 前回、好評だった霊族小夜VS妖精族シトレムカルル女王との戦い。幽霊少女対ハイエルフお姉さまの激戦です。下馬評じゃ、小夜が圧勝ですけど、薄幸の若き女王も負けないです。

「敵艦との距離は?」

「距離変わらず……。こちらの速度に合わせて後退を続けています!」


 妖精族の女王シトレムカルルは、旗艦アウグストゥスで指揮を取っていた。このカンタベリー砂漠上空で戦端が開かれてから、すでに3時間が経過している。戦場は直径5000kmにも及ぶ死の砂漠上空で雲一つない場所である。見渡す限り、青い空が広がるが、敵艦の姿は全く見えないのである。

 

 それもそのはず。敵ははるか80km先にいるのである。当然、射程距離範囲外であり、開戦してから妖精族艦隊は何もできないでいた。


 それなのに、霊族の代表である怨情寺小夜の艦隊はは長距離ミサイル戦艦によるアウトレンジ攻撃をし続け、突然、飛来して攻撃してくる霊子ミサイルに妖精族の艦隊は無傷な空中武装艦は1隻もなかった。

 妖精族の女王シトレムカルルは、この戦いに向けて作戦は十分練っていたつもりであったが、小夜の攻撃方法は予想を上回っていたのだ。旗艦アウグストゥスの指揮をする女王の透き通るような白い顔が憂いを帯び、被害を受けている味方艦の乗組員の無事を祈る気持ちで胸がいっぱいであった。


 当初は、シトレムカルルは、霊族の射程距離よりもはるか遠いところからのミサイル攻撃に対して、足の速い高速戦艦、巡洋艦を中心とした艦隊編成にし、攻撃を交わしながら接近戦を挑むつもりであった。だが、そのアウトレンジ攻撃が強烈であった。また、妖精族艦隊が内戦で十分な訓練をすることができず、国内のパンティオン・ジャッジを経て来ていないことが致命傷であった。熟練した軍人不足に加えて、準備不足が作戦の足を引っ張っていた。


「女王陛下、本艦の3時の方向、10時の方向にミサイル発見!」

「対空防御! 一発も撃ち漏らさないで!」


 薄幸の若き女王の命令に、乗組員も必死に任務を果たす。戦列艦アウグストゥスの対空砲がうなりを上げて、突然、空間に現れたミサイルを撃ち落とす。それをすり抜けてくるのは、展開する妖精力シールドで防ぐが、そのシールド強度もかなり削り取られてしまい、もう保つことはできないだろうと思われた。


 妖精族の船もメイフィア王国のように提督の魔力に依存する。正確には魔力ではなく、妖精力ではあるが。女王シトレムカルルの妖精力は大きいが、それも無限ではない。徐々に失われていた。

 女王は艦橋から味方の艦隊を見る。青い空に黒い煙を巻き上げて、燃えている船がいくつも見えた。

 

 僚艦の高速戦艦ジークムントは煙を幾筋も出して、降下しつつあるし、高速巡洋艦ハミルトンもミサイルが着弾し、爆発と共に火災が発生している。


(霊族のミサイル……。霊子弾頭弾っていうの? 威力は弱いけれど、突然出現するのは勘弁して欲しいわ)


 シトレムカルルが苦戦を強いられているのは、アウトレンジから発射された霊族のミサイルは、発射された直後から姿が消え、突然、目標である妖精族艦隊の至近距離に現れるという反則技のような攻撃だからだ。現れれば、レーダーにとらえられるのだが、それまでは一切、感知できないのだ。


「あと、航行できるのは何隻? 被害状況を報告しなさい」


 シトレムカルルは、混乱する乗組員に毅然と報告を求める。この状況でも落ち着いて指揮をすることで、なんとか妖精族の艦隊は秩序を保っていたのだ。だが、そんな女王を支える幕僚が不足していた。シトレムカルルはパンティオン神殿でトラ吉ことジェラルド伯爵に戻ってきて欲しいと懇願したが叶わなかった。トラ吉がいれば、参謀として意見を求めることができただろう。ナアムも自分の副官として支えてくれたはずだ。だが、2人とも彼女の側にはいない。忠実であるが能力はない側近はよくやってくれるが、この状況を打破するアイデアは出せない。


「高速戦艦ジークムント大破、戦線離脱。同じくベルスコーニ撃沈。高速巡洋艦ハミルトン火災発生、航行不能状態です。同じく高速巡洋艦アウグスタ、エルヴィン撃沈。このアウグストゥスと駆逐艦ベルン、コルネだけが航行可能です」


 この戦い、下馬評では、圧倒的に霊族の小夜が上であった。だが、アウトレンジ攻撃をかけてくる小夜の旗艦は動きが鈍く、さらに至近距離での砲撃戦に持ち込めば、大量のミサイルを保管しているだけに、誘爆を誘って仕留めることも可能であった。それで足の速い艦編成で臨んだのだが、どういうわけか霊族艦隊は、同じスピードで後退して距離を詰めさせないのだ。


「このままでは負ける。でも、簡単には負けないわ。妖精族、ローエングリーンの誇りにかけても一矢報いる」 


 女王にも考えはあった。完全に追いつけないまでも、ある程度の距離を詰めれば、彼女にはまだ逆転する奥の手があったのだ。


「航行できる艦はすべて最大戦速。少しでも距離を縮めなさい!」


 シトレムカルルは、腹をくくった。エネルギー、妖精力をつぎ込んでスピードを上げ、距離を縮める策に打って出たのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ううむ。意外と粘るな、妖精族の女王。ケケッ」


 小夜は指揮する旗艦大黒天の指揮席に正座をしている。指揮席といっても高座に設けられた3畳ほどの畳である。霊族なので足は見えないのだが、正座で指揮しながら、湯呑で熱いお茶を飲んでいた。先程まで指揮座に敷かれた羽毛ふとんでスヤスヤと眠っていた小夜であったが、突然、目を開けるとガバっと起き上がったのだ。


「小夜様、お目覚めですか?」


 艦長の吉備津きびつ大佐がそう小夜に声をかけた。彼女は作戦開始前に事細かに作戦を告げる。吉備津大佐はそれを忠実に実行するだけでこれまで圧勝していた。軍人歴30年を誇るベテランの吉備津には、小夜が未来を見ることができ、それに基づいた作戦が立てられるのだと信じていた。霊族はトリスタンの中でも珍しい種族であるが、もちろん、未来を見る力などない。魔法国家メイフィアや妖精族ローエングリーンの妖精力に匹敵する霊力があるが、万全ではないのだ。むしろ、魔力や妖精力に比べるとできることは限られる。


 だが、小夜だけは別である。彼女には未来が見える。だから、敵の作戦は全てお見通しでそれに完全に対応できるのだ。怨情寺小夜は事細かに指示した後に布団で寝てしまうことから、スリーピングビューティとあだ名される姫なのである。


 旗艦大黒天は、攻撃機能だけに特化した巨大ミサイル戦艦で、まるで要塞であった。当然、スピードは出ない。霊族の予選では、長距離攻撃の波状攻撃で他部族の艦隊を退けたのだが、さすがにセミファイナルはそんなに甘くないと小夜は考えていた。今回、最弱だと言われる妖精族の女王が簡単に勝たせてくれるわけがない。


「小夜さま。敵の旗艦、最大戦速で近づいてきます」

 冷静な声で吉備津大佐は小夜にそう報告した。珍しく、小夜は目を輝かした。表情に笑が浮かんでいる。彼女の付き人になって長い吉備津は、それがとても機嫌の良い証拠だと承知していた。


「ケケッ……。開き直ったぞやか? いいぞや、いいぞや。それでないと面白くないぞよ」


「小夜様、面白いとは不謹慎ですぞ」


「うむ。わかっておる。われの攻撃で妖精族の兵士がたくさん命を落としている。ドラゴンどもとの戦いに勝つためとは言え、その死は無駄にはしないぞよ。だがな、吉備津よ」


「小夜様」 


「敵の健闘はそれだけ、われの艦隊の練度を上げる。それによって、ドラゴンどもとの死闘に臨めるぞよ。ケケケッ」

 

 吉備津は深く頷いた。これこそ、パンティオン・ジャッジの意味なのである。このトリスタンで長く行われた神聖な戦いなのだ。今、その神聖な戦いを勝ち抜く霊族の指揮官にこれから取るべき作戦を尋ねることにした。それはおそらく、吉備津も満足のいく命令であろう。


「その通りです。小夜様、敵の動きにどう対処しますか?」


「高速艦と言っても、われの艦隊に攻撃するには、まだ30分以上もかかるぞや?招き猫どもに連絡。全力で後退しつつ、霊子弾をお見舞いしてやれ!」


「はい。小夜さま。霊子弾頭弾、200発射!」


(したたかで、手堅い。さすがは姫様だ)

 予想した通りの100点満点の回答に吉備津は満足した。ここは奇をてらわない確実な作戦を実行するのみだろう。敵の距離を詰められないアウトレンジ戦法を取る限り、こちらの被害は皆無なのだ。


 旗艦大黒天から、耳をつんざくようにミサイルが放たれる。それは飛び出してある程度飛行すると突然、姿を消した。そして、大黒天を6隻のタグボートが全力で引っ張っていく。


 招き猫と名付けられたタグボート。1号から6号までの6隻は、この戦いに新たに導入した新兵器であった。ものを引っ張るだけに特化した空中船で攻撃力も防御力もなかった。あるのは巨大なエンジンで重いものを運ぶこと。これが6隻も束になってミサイル戦艦大黒天を引っ張って後退させていくのだ。足の遅い大黒天が高速戦艦に追いつかれない理由はこれであった。


「シトレムカルル、ここで終わりぞや! ケケッ……」


 開き直って全能力を前進することに振り向けた妖精族艦隊も、この霊子弾の雨あられには耐えられないだろう。これで、ジ・エンドだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「女王陛下! 霊子弾、多数接近、2時、11時、7時、5時の方向の出現、もうダメです!」


「防御は無視しなさい、最大戦速であと少し距離を縮めなさい!」


 霊子弾の雨の中、猛然と突き進むアウグストゥス。護衛の2隻の駆逐艦が楯となり爆沈していくが、それにに構わず突き進む。


グワーン、ドドド、ドカーン……。何発か着弾するがその衝撃も無視して突き進む。


「敵までの距離、40、35、30km。女王陛下、25kmに達します」


「よし、今です! 妖精の環を発動しなさい!」


 シトレムカルルの命令が絶望的な状況を覆すかのような凛とした響きで、妖精族旗艦アウグストゥスの艦橋に響いた。


 妖精族女王の起死回生の反撃が……始まる!



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