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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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幕間 それぞれの思惑(2)メイフィア公女艦隊の場合

「レーヴァテインの改造にあたっては、潜空艦との戦いを想定して、いくつかの新設備を装備しました」


 公女艦隊の基地であるオレンジ島のプトレマイオス港で、改修作業の手伝いをしているアンナ・ハメルは、軍港を訪れたフィンと平四郎、リメルダ、マリー等に説明をしていた。


 公女艦隊の整備は艦隊マイスターである平四郎が全てを取り仕切っているが、これだけの艦艇を整備するにはさすがに平四郎でも厳しい。ルキアにも手伝ってもらっているが、やはり専門家の手も借りないと回っていかないのだ。そういった意味では、空中武装艦の設計士で、レーヴァテインの設計者であるアンナの加勢は助かった。パンティオンの神託を受けに平四郎たちが不在時には、平四郎の代わりに艦隊の整備を取り仕切ってくれていたのだ。


 パンティオン神殿より帰国後、真っ直ぐにこちらに来た幹部たちにアンナは得意げに説明する。


「まずは爆雷連続発射システム。潜空艦に対するオーソドックスな攻め方は爆雷による攻撃ですから、これは外せないでしょう。レーヴァテインを護衛する高速駆逐艦にも装備しました」


「爆雷による攻撃は、通常の雲海ならともかく、ディープクラウド内では攻撃有効範囲がかなり限られるはずです。その攻撃で仕留められるとは思いませんが……」


 マリーがまず疑問点を述べる。マリーの意見は、タウルン国内のパンティオンジャッジの記録を丹念に分析した結果から導き出されたものである。他にも、潜空艦と戦うには、ディープクラウド内に打ち込める特別なコーティングを施した魚雷を打ち込むという方法がある。ただ、相手の位置をかなり正確につかめないと、効果はない。ディープクラウド内では追尾装置が働かないからだ。

 

 だが、そんな質問はアンナには想定内である。これは平四郎とも相談していたことで、既に対策済みであった。


「搭載する爆雷は、通常よりもディープクラウド内で破壊力が維持できるようにした特注品です。これについては、そこの武器商人の少年の方が詳しいでしょうね」


 アンナがそう指を差した方向には、あの中古武器屋の跡取り息子クリオが控えていた。この少年、ルキアによって公女艦隊に取り込まれたみたいである。ルキアが発注担当なら、彼は買い付け担当というべきだろう。


 ちなみにルキアはこのオレンジ島にバルド商会2号店をオープンさせて、公女艦隊専属ショップにしていた。国からの補助金でウハウハ状態であったから、随分と機嫌がよい。そんなクリオが十分豊富な資金で買い付けてきた武器だ。これまでの彼の実績から十分期待できるだろう。クリオはその期待に応えるように説明を始めた。


「このR型爆雷は、ディープクラウド内での耐久力を増加させ、爆発力を高めた特注品です。従来型より20%破壊力が高くなっています」


「クリオ、ちょっと聞きたいのだが……」


 平四郎は疑問に思った。そんなものがあれば、当然、タウルン国軍が使用したはずである。国内予選でエヴェリーンが出くわした武器なら、対抗手段があるはずだ。


「タウルン製ということは、当然、タウルン国軍御用達なんだよね?」

「いいえ。国軍には採用されなかったものです」


 そうクリオは自信ありげに答えた。これは買うときに調査したから正しい情報だ。


(おいおい、いつもの中古不良品か?)


 不良品なら国軍が採用しないことに納得がいく。これまでも不良品の逆手を取って戦術に組み込んできたから、平四郎には落胆の色はない。それでも一応、確認の意味でクリオに質問をする。


「なぜ、国軍が採用しなかったのだ? 少しでも攻撃力が大きいほうがいいだろうに」


「たぶん、重さだと思います。攻撃力は20%増しですが、重さも50%増しですから、掲載量で通常型の方が火力は高くなります」


「なるほどにゃ。こんなの大量に載せたら船の機動力が落ちるにゃ」


 黙って聞いていたトラ吉が口をはさむ。ただでさえ、鈍重な戦列艦に積んだら、余計に鈍重になってしまうだろう。


「それじゃあ、トータルで考えると使えないじゃないか?」


 これまでの第5魔法艦隊の戦いは機動力を生かした戦法であった。それが奪われるのは得策ではない。


「いえ、この場合、一発の威力が高い方がよいかもしれません。この武器は潜空艦を撃沈するというより、こちらの船に近づけさせないという発想なら」


 そうマリーが言った。完璧のマリーというあだ名を持つ、この総参謀長が言うと説得力がる。


「マリー王女殿下のおっしゃる通りです。これを定期的に艦周辺のディープクラウドに使えば、潜空艦は簡単には近づけません。威力が大きいということは、それだけカバーできる範囲が広いのですから」


 アンナがそう補足する。


「数は? レーヴァテインにどれだけ積めるんだ」


 眼鏡をクイッと上げたナセルだ。コイツにしては、なかなかよい質問をする。


「レーヴァテインで35個。駆逐艦はこれだけを攻撃方法として積めば、50個は積めます。動きは鈍くなりますが。合計で185個」


「アンナさん? 今の話だとエヴェリーンさんとの戦いにはレーヴァテインと高速駆逐艦3隻は戦力に入っているということですよね?」


 平四郎はそうアンナに尋ねた。その言葉に彼女は意外な顔をする。


「あれ? フィンさんの要望でそうなったと聞いたけれど?」


 同時にフィンがこっくりと頷いた。みんな(えっ!)という表情でフィンの顔を見る。


「ごめんなさいです。みんなには話していないけれど、今回の戦いに参加する船は私が独断で決めたです」


 この発言には平四郎を含め、みんな驚いた。フィンがいつの間にか提督の決断をしている。


「フィンちゃん、どう決めたの?」

「ごめんなさい。平四郎くん、みなさん。早いうちにみなさんに話すと軍の人たちに分かってしまうです」


 そう言うとフィンは声を潜めた。


(盗聴?)

 どうやら、メイフィア軍に監視をされているようだ。この作戦室は検査済みではあるが、あらゆるところに盗聴器が仕掛けられていても不思議ではない。これはマリーからも警告されていたことで、平四郎たちも気をつけていることであった。


「参加する軍艦は、高速巡洋艦レーヴァテイン、駆逐艦ウルド、スクルド、ベルダンディ。ベルダンディには、ルイーズ少将に乗っていただき、駆逐艦の指揮をお任せします。これに加えて、リメルダさんのブルーピクシーを加えます」


「なるほどね」


 平四郎はフィンの考えていることが読めた。そしてそれは平四郎が考えていたことと一致しており、そう言った意味でも未来の嫁の決断が素晴らしいものであると思った。


「よし、作戦はこれでいく。元々、この戦いは敵の潜空艦を確実に発見し、そこへ正確に対潜空艦魚雷を撃ち込むことしか、勝ち目はない。ディープクラウド内では潜空艦もこちらの位置がつかみにくいけど、これまでの戦いを分析すると敵はこちらの位置を確実にとらえることができるようだ」


 確かにタウルン国内戦では、エヴェリーンは一方的に戦列艦への攻撃を行っている。国軍は潜空艦の位置がつかめず、おおよそに位置に火力をブチ込むだけで、ほとんどディープクラウドに阻まれている。


「リメルダのブルーピクシーにディープクラウド用のセンサーシステムを搭載して敵の位置を探ってもらう。戦いではこのセンサーをディープクラウド内に侵入させ、そこから魔力音波を出して敵の位置を割り出す。これは情報分析能力が高いイージス艦のブルーピクシーしかできない」


「分かったわ。平四郎、今回はわたしが活躍できそうだわ」


 リメルダがにっこりと微笑んだ。ブルーピクシーは、情報収集能力にかけては優秀なイージス艦なのである。これは対潜空艦戦にとって重要な存在になるだろう。


「レーヴァテインに駆逐艦3隻とブルーピクシーあとと2隻選べるけど、どうする?」


 平四郎がそう聞いてみた。マリーのコーデリアⅢ世とリリムのコルネットを選ぶのが定石だろうが、今回はマリーは総参謀長としてレーヴァテインに乗りたいという意向だ。そして、マリーも平四郎もコーデリアⅢ世は決勝戦用に温存することを考えていた。リリムについては、今回はお休みだろう。本人からもコンサートが忙しいので参加は無理という申し出があるから、無理に動員するつもりは平四郎にはなかった。


(どうしようか……)


 平四郎はテーブルを囲む公女艦隊の幕僚の顔を見る。フィンに聞くととんでもないこと言いそうだ。ここは良識派のリメルダに意見を求めて、マリーに助言してもらうのが一番だろうと考えたが、そのナイスアイデアは実行前に中断された。


パチパチ……。


 不意に手を叩く者がいる。何だか嫌味な音だ。手を叩いた主はテーブルに座っているメンバーではない。ここはオレンジ島の司令部の作戦会議室である。入口には警備の兵士が2名立っており、ここにいる者以外は簡単に入れないはずである。


「フフフ……それはもう決まっているよ。平四郎くん!」


 手を叩いて扉から入ってきた人物。長身で長髪、マリーと同じ金髪だが、コイツだとイヤミにしか見えない。


「ヴィンセント」


 思わず、平四郎は叫んだ。


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