第4話 処女航海とドラゴン討伐(1)
青い空を3隻の空中武装艦がデルタ隊形で飛んでいる。高速巡洋艦と護衛の高速駆逐艦2隻である。平四郎は先頭を行く高速巡洋艦レーヴェテインの技師長席に座って青い空と雲を眺めて、時折、雲の隙間から見えるどす黒い海と灰色のガスに覆われた陸地を眺めている。
「このトリスタンという世界。みんな空中で暮らしているのか?」
平四郎は誰に言うでもなく、そう問いかけた。ブリッジには艦の操縦に従事している人間が5人いる。まずは副官のミート・スザク少尉。制服がはじけそうなダイナマイトな人である。フィンの同級生で超世話焼きの有能な副官だ。
副官といってもリーダー性が皆無にフィンに代わって、実質この第5魔法艦隊をとりしきっている。なんでもハキハキしゃべる明るい女の子だ。ただ、一言多いのと少々、おせっかいなところがある。今朝も旅館で寝ていた平四郎を起こしに来たのだが、顔を洗えとか歯を磨けとか、朝食はよく噛んで食べなさい……等とまるで母親のような感じであった。
操舵手として舵を預かるのがカレラ・シュテルン中尉。ショートカットのウルフスタイル。髪は赤色。船を動かしたら右に出るものはいないという才能の持ち主。昨日、口説いて第8パトロール艦隊から引き抜いた。現在のところ、その腕前のとおり、船を確実に運行している。
さらに通信担当のプリム・ケイマンちゃん、防御担当のパリム・ケイマンちゃん。双子の姉妹。一卵性なので見分けがつかない。二人共、長い金髪の髪をツインテールにしている。背が低く、まるで小学生みたいだが年齢も15歳ということだ。一応、髪を止めているリボンが赤いのがプリムちゃんで、白いのがパリムちゃんとのことだ。髪のリボン以外で見た目は見分けがつかないが、喋れば分かる。プリムちゃんはおっとりとした口調であり、パリムちゃんは「おじゃる」が語尾につく不思議ちゃんなのだ。
攻撃担当が平四郎以外では唯一の男、ナセル・エンデバーク。年齢も平四郎と同じ21歳。金髪の髪を無造作に伸ばした長身細身の男だ。メガネをかけて時折、それを中指で上げながらしゃべる癖がある。それは少々キザだが、気さくな性格で平四郎にいろいろと軽い口調で話しかけてくる。あと、ここにはいないが艦内の生活面のサポートをしてくれるメイド長のアマンダさんという20代半ばくらいの女性がいる。フィンの家に仕えている侍女という人だ。
この第5魔法艦隊旗艦レーヴァテインの乗組員は異様に女子率が高い。これはこの艦隊の最終目標が巨大なドラゴンであり、それが「メンズキル」という男だけを殺す特殊な音波攻撃があることが理由だ。音波攻撃をしてこないMクラス以下のドラゴンを狩るパトロール艦隊や打撃艦隊では、乗組員の大半は男であるが、それ以上を相手にする魔法艦隊は女子率が高いのだ。何はともあれ、職場に可愛くて美人な女性がいるのは悪くない。
平四郎の独り言のような問いに答えたのはやはり、気さくなナセル。
「何だ? 平四郎は居候した商会でこの世界のレクチャーしてもらわなかったのか?」
「……教えてもらっていない。というか、空中艦のことばかりで聞かなかったというのが正解だ。断片的に知識はあるけど、正式には聞いてないから」
「平四郎は異世界から召喚されたというのに適当だな~。じゃあ、この機会に俺が少しレクチャーしてやるよ」
「ナセル! 役割がおろそかになっていませんこと?」
そう副官のミート少尉が割って入る。
「ミート、俺の役割は攻撃担当。現在、第5魔法艦隊は巡航中で敵影はなし。つまり、今は暇ということで。マイスターに有益な情報を伝える任務を遂行します」
「もう緊張感ないんだから」
渋々、ミート少尉はナセルの行動を黙認する。
「平四郎、この世界トリスタンは4つの浮遊大陸と無数の浮遊島から成り立つ。全部、空中に浮いていて、人間はそこで暮らしている。俺らの魔法王国メイフィアは、魔法族の人間が住む第1大陸に位置する国だ。第2大陸、第3大陸と別の種族の人間が住んでいる。ちなみに同盟を結んでいて、この世界には戦争が起きたことはない」
「地上にはだれも住んでいないのか?」
「分厚い雲の下に広がるのは、酸の海だ。生物など存在しない。希に人が住める島があるって話だが、基本的には死の世界さ」
「酸の海?」
「ああ。突っ込めば、この船もあっという間に溶けてドカンさ」
そう言ってナセルは両手で弾けるジェスチャーをした。この男、話すときはボディランゲージをするから話が分かりやすい。
「君たちは昔っから、空中で暮らしていたのか?」
「遠い昔は地上に住んでいたという話だけど、それは千年も二千年も前の話しってことだ。500年に一度、このトリスタンに現れるエターナルドラゴンが地上を全て破壊し、海を酸の海に変えたと言われている。本当かどうかは知らないが……。ありえない話じゃない」
「エターナルドラゴン?」
平四郎はナセルの話からもいろいろと聞きたいことが出てきたが、探知魔法による索敵で前方から近づいてくる船があるとプリムちゃんが告げるので、話を中断せねばならなかった。