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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
139/201

幕間 それぞれの思惑(1)エヴェリーン艦隊の場合

「しかし、お嬢、仕入れていた機雷、役に立ちそうでよかったでやす」


 エヴェリーンがドラゴンハンターをやっていた時からの仕入れ担当の部下がそう話しかけた。パンティオンの神託からタウルンの基地に戻ったエヴェリーンに注文の品が納品されたことを報告したのだ。父親の代からエヴェリーン艦隊の台所を預かる男だ。武器の目利きに関しては、全幅の信頼をおける人物である。エヴェリーンは整備が進む自分の潜空艦を見ながら、満足そうに頷いた。赤毛の狼カットの髪に巻いたハチマキが風でかすかに揺れている。

 

 エヴェリィーンは、タウルンの女性士官の制服がよく似合う長身である。元々、軍人ではないエヴェリーンだったが、着るものに悩む必要がないとタウルン軍の服を愛用していた。プライベートではともかく、戦場に出るときはこの制服である。員数外とはいえ、少将の階級章で大概の軍人は頭を下げるので、軍人嫌いなエヴェリーンには気持ちがいいというのも愛用する理由である。


「うむ。霊族の小夜には無駄だったが、シトレムカルルとフィンには有効なぶつだ。あたしは運がいいよ」


 パンティオン・ジャッジのセミファイナルをするにあたって、敵国の戦力分析はかなりできている。通常の艦隊編成であろうローエングリーンとメイフィアについては、エヴェリーンからすると戦いやすい相手である。霊族カロンについては、情報が少ないことと、どうやら要塞のような巨大な空中武装艦によるアウトレンジ攻撃してくるらしいということから、戦い方が難しいと判断していた。先にフィンと当たり、これを撃破。妖精国との戦いで小夜の手の内を見ることができるから、エヴェリーンとしてはくじ運がよいと思うことは間違ってはいなかった。


 エヴェリーンは、部下が仕入れてきたという物に目をやった。ブルーシートがかぶさっているものの、その下からチラチラと鋼鉄製のいかつい姿を見ることができた。仕入れた機雷はかなり大きいもので、1つが直径15mもある球体である。浮遊石によるシステムで自力で浮かぶものであるが、接触タイプの旧式のものであった。それを長い鎖で3つ連結し、潜空艦で引っ張るのだ。3つ連結すれば、50mほどになり、潜空艦と同じような大きさになるのだ。


 ディープクラウドの中でも耐えられるように機雷の表面には特別なコーティングがしてある。これは潜空艦も同様で、このコーティングが攻撃で傷つけられると、そこからディープクラウドの瘴気で金属が溶かされてしまうのだ。潜空艦が今ひとつ、トリスタンで使われていないのは、このディープクラウドという厄介な空間が敵からの盾にもなれるし、自らを蝕む剣にもなるからだ。


 この中を自由に航行することは、大変難しく操艦には特別な技能が必要であった。さらにディープクラウド内は視界がほぼ0であり、クラウド内に浮かんでいる浮遊岩にぶつからないように航行しなければならないのだ。


 だが、戦列艦の主砲のような通常攻撃はディープクラウド内では有効ではなく、その破壊エネルギーはほとんど失われしまう。ドラゴンブレスですらディープクラウド内ではその威力が失われるのだ。この死の雲の中には潜空艦以外は入ってこれない、デンジャラスゾーンなのだ。


「選抜する潜空艦は、一番艦から七番艦まで。今回は八番艦~十番艦はオフだ。乗組員は十分休んで決勝に備えるがいい」


 エヴェリーンはこのセミファイナルに特にベテランの艦長が指揮する船を7隻選抜した。全て、父親の代からの部下であり、潜空艦の扱いに関しては信頼がおける者たちであった。潜空艦が潜むディープクラウド内では、通信が不能であり、お互いに連絡も取れない。エヴェリーンの命令がなくても旗艦の動きを察知して、それぞれの艦長が動くことが要求されるのだ。


「お嬢、メイフィアの艦隊には勝てますかい?」


「今回はあっしの艦は外されましたが、決勝戦は是非、参加させてくださいよ」


 エヴェリーンの部下のほとんどはドラゴンハンターであった父親の部下である。ドラゴンによって死んだ父の跡を継いだエヴェリーンに忠誠を誓う頼もしい男たちである。特に軍から出向してきた一部の士官を除くと、幹部級はほとんどそうであった。よって、アットホームな雰囲気が彼女の艦隊にはある。


「だが、心配の種はある」

「お嬢が心配するなんて柄じゃねえですな」

「お嬢は楽観的に考えるからお嬢であって、心配するなんてお嬢じゃねえ」


 お頭のエヴェリーンに冗談が言えるのも、彼女が幼児だった頃から、知っているからだろう。部下の中には、父に命じられてエヴェリーンのおしめを取り替えていた者もいる。彼らからすると、この女頭目は娘同然でもあるのだ。


「うるさい! あたしだって頭を使うときは使うよ」

「異世界の男ですな……」


「ああ。あの男だ。あの男は侮れない。油断は禁物だ。だが、メイフィアのお偉いさんに押し切られて鈍重な戦列艦なんかに編成し直したら、こっちは楽勝かな?」


 タウルンの国内予選では、戦列艦を実に10隻も沈めて圧勝であったエヴェリーンは(戦列艦殺し)と呼ばれていた。ディープクラウドに潜んでいれば、戦列艦の主砲による攻撃は一切受けることはない。対潜空艦用の攻撃方法である爆雷攻撃もディープクラウド内ではその威力は半減以下で、よほど、直撃を受けなければ怖くなかった。特にディープクラウド内で高速で動けるエヴェリーン艦隊には、従来の攻め方では通用しないのだ。


(さあ、平四郎。どうやってあたしを捕まえる? 捕まえる方法がなければ、一方的に駆らせてもらうよ)


 先程、副官に持ってこさせたパンティオンの神殿で設定された戦場のデータを見て、エヴェリーンはにやりと笑った。自分の持ち味が十分発揮できる戦場だ。この戦場で自分が負けるとは思えなかった。


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