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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第21話 パンティオンの神託(6)

「フィン提督、国軍の作戦案としては、火力重視の戦列艦を7隻並べて、力押しにすればよいと考えます。これは軍事の専門家としての意見です。君、データを述べたまえ」


 そうメイフィア国軍参謀長が自慢の顎ひげを右手でなで上げて、部下の参謀に説明をさせる。


 メイフィアの士官学校を5年前に主席で卒業した参謀の大尉の青年は、ここぞとばかりに潜空艦と戦列艦の火力の違い、防御力の違いを写真付きで説明をする。その説明は破綻がなく、理にかなったように聞こえた。あこがれのマリー王女の前でのプレゼンなので、大尉は余計に力が入り、弁舌にも熱がこもった。


「よって、メイフィアの代表艦隊、すなわち旧第5魔法艦隊は速やかにその編成を変更します。旗艦は戦列艦コーデリアⅢ世、あとはオーフェリア、デスデモーナ、クローディアス、オーベロン、ガートルード全て、戦列艦です。後、新造中の戦列艦マクベスが間に合いそうです」


「マクベスは、メイフィアのパンティオン・ジャッジ優勝者たるフィン提督のために新造されたといっても過言ではありません。いっそ、旗艦をこれにするのもよいかもしれませんな」


 メイフィア国軍の艦隊司令長官がそう発言した。メイフィアの大貴族出身の司令長官だが、ドラゴン退治についての経験はなかった。


「……」


 フィンは黙って聞いている。職業軍人のおじさんたちの意見にうなずくでもなく、拒否するわけでもなく黙っている。こういう時に、フィンの性格は得だなと平四郎は思った。まったく考えていることが読めないのだ。軍人たちもフィンの態度から彼女が何を考えているか図りかねた。


 代わりに公女艦隊総参謀長のマリーが発言をする。


「戦列艦で編成するですって? タウルン国軍の候補者は全て、戦列艦編成でエヴェリーン少将に敗れたと聞いています。我が軍はそれと同じ轍を踏めとおっしゃるのですか?」


「マリー王女殿下。タウルンの奴らは戦が下手だということですよ」


「潜空艦は装甲が極めて薄い。それに攻撃はせいぜい、巡航ミサイルか魚雷による攻撃。戦列艦の装甲を敗れるとは思えませんな!」


「潜空艦の姿が見えないと言っても、恐るるに足りません。雲の中に潜んでいたところで、主砲を撃ちまくれば、あぶりだされてくるというもの……」


 軍人たちはそう口々に持論を展開する。それを聞いていて、平四郎は(楽観的過ぎる……)と感じていた。


(このおっさん達、本当にプロなのか? 空中武装艦同士の戦場を知らないんじゃないのか?)


 そんな風に心の中で思っていた。そう思うのもパンティオン・ジャッジで激しい艦隊戦を勝ち抜いたからこそであろう。この会議に出席しているメイフィア国軍の重鎮たちは、実際に戦闘で艦隊を動かしたことは一度もなく、ドラゴン退治すらやってこなかった連中であった。大貴族であり、理論だけ学んだ士官学校でテストは優秀な成績をとり、机上演習ではセオリー通りの攻めを忠実に行うことには長けていた。


(だが、あの人は違う……)


 タウルンのエヴェリーンはドラゴンハンター出身で、ドラゴンを倒すことにかけての経験は豊富であり、その能力がタウルンのプロの軍人をはるかに超えた結果が現在なのである。


(この人たちはそのことを考えていない)


 平四郎はそっとマリーの顔を見た。この聡明な王女の顔色からは、自分と同じ考えであることが読み取れた。ただ、それを口に出さないところを見ると、ここで不用意な発言はするべきではないと考えているのであろう。今後のことを考えると軍の上層部の機嫌を損ねるのはマズイことである。


「そもそも、タウルンの奴ら、この世界を救う気はあるのか。全く、のんきな奴らだ。あんな潜空艦でドラゴンを……エターナルを倒せるわけがない。ドラゴンを倒すには戦列艦によるデストリガーの集中砲火。これしかないだろう」


「どうですか? フィン提督」


 そう老司令長官が結論をフィンに求めた。フィンはここでにっこりと微笑んだ。



「そうですね。皆さん、プロの方の意見はとても貴重です。でも、レーヴァテインを改造しているのはわたしのマイスター。東郷平四郎准将です。今、対潜空艦の装備を取り付けかなりの戦力アップができる予定です。結論はクロービスに帰って、その結果を待ってからでも遅くはないです」


「平四郎……異世界の勇者か……」


 平四郎のことは軍人たちも一目置いている。第5魔法艦隊が圧倒的に不利な状況を覆せたのも、この男の力があってこそである。対潜空艦装備による改造については、誰もが興味をもったのであった。


「まあ、いくら改造したところで、所詮は巡洋艦。フィン提督、判断を誤ってはいけませんぞ」


 軍人たちは満足そうに会議室から退出していった。フィンが御し易い小娘と誰もが思ったからであろう。口々にこれから始まるタウルンとの戦いや霊族と妖精族の戦いの予想を話題にしていた。


「フィンさん、うまくかわしましたわね。あの場合、100点満点の対応でしたわ」

 

 そうマリーがフィンに言った。フィンはコクリとうなずいた。


「フィンちゃんはメイフィアの代表なんだから、ガツンと言いたいことを言ったほうがよかったんじゃないか?」


 平四郎としては、最初は全く無視しておいて、メイフィア代表になったとたんにいろいろと言ってくる国軍のおっさんたちの態度にちょっと腹が立ったが、大人とはそういうものである。


「平四郎さん、それでは国軍の中に敵を作るだけですよ。あからさまにはやらないでしょうが、この先の協力関係を作っていくには、多少の妥協は必要でしょうね」


 マリーの言うことはもっともだが、旗艦をレーヴァテインから変えられると平四郎としてはちょっと困る。実はもうすでにレーヴァテインの改造計画は進んでおり、パーツもルキアに発注済みであったからだ。それにしても……。


 これまでは自分たちだけで進めることができたのに、いろいろとメンドくさい状況である。何でもそうだが、組織が大きくなるに連れて、個人の自由度は少なくなり、いろいろと配慮しなかればならないことが多くなってくる。メイフィア代表になってみるとメイフィア国軍という大きな組織の中に組み込まれてしまった感じだ。


「勝って組織が大きくなればなるほど、制御することが難しくなるものですよ。これは艦隊、軍全体、国全体と広がるに連れて顕著になりますわ」


 そういうマリーの口調からは、今まで散々苦労してきた感が漂っている。彼女が率いた第1魔法艦隊は、最初から軍との関係が深かったので、いろいろとあったのだろう。


「平四郎くん……旗艦は変えません。わたしの乗る船は平四郎くんのレーヴァテインです」


「あらあら、ごちそうさま……」


 マリーはそう言って微笑んだ。平四郎の隣で黙っていたリメルダは下を向いてギュッと両手を握った。


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