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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
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第21話 パンティオンの神託(5)

 神託によって、対戦相手が決まると次に、戦場とルールが決められる。ルールは国内予選とは少々違っている。各国の代表艦隊から7隻を選抜し、同数で戦うのだ。7隻はどんな艦種でもよい。旗艦を撃沈もしくは、戦闘不能にすればその時点で勝ち。戦闘が始まって72時間が経過したら、その時点での優越で判定することなどが決められた。これは国力の差を平等にするためのルールであった。そうでなかれば、それぞれの国が持てる戦力を全て投入しての総力戦になってしまう。

 

 決勝戦も同じルールで戦うが、艦船はセミファイナルで失った分は補充してよい

ことになっていた。国内と同様に戦闘不能になれば降伏も可ではあるが、当たり所が悪かったり、デストリガーのような一撃があれば、提督の戦死もありえる真剣勝負であった。無論、降伏した者への攻撃は固く禁止されており、これは7隻だけの参加というルールと相まって、後のドラゴンとの戦いを意識したものになっていた。


 それらのことを合意して、代表が署名をすると神殿に集った者たち全員がグラスに神聖なるりんご酒(このりんごはこの時のために大切に育てられた木から収穫されたものを使用している)を注ぎ、それを一口飲んでグラスをその場に落として割るという儀式の後、それぞれが国に帰り、決戦に備えることになるのだ。


「フィンちゃん、ご苦労さま」

「平四郎くん、わたしはとても疲れましたです」


 平四郎は祭壇に上がって、やっと解放されたフィンを値切らった。フィンもこの3日間の瞑想の儀式に相当疲れていたらしく、平四郎の顔を見るとへなへなと崩れ落ちてしまった。それを平四郎はさっと抱き上げ、お姫様だっこをする。


「へ、へいちろ……」

 フィンは両手を重ねて口に当てて恥ずかしそうにしている。

「平四郎くん、恥ずかしいです」

「なに、夫が妻を運ぶのです。恥ずかしくなんてないさ」

「つ、つみゃあ……」

 

 真っ赤な顔で頭から湯気が出つつあるフィンを軽々と抱えて、平四郎は祭壇を降りた。そこには対戦相手の人物が待っていた。


「おい、やっぱり、お前たちとあたったな!何だか、運命を感じたよ。あたった以上は、わたしは全力でお前たちと戦うからな。今度は本当に戦場で会おうな!」


 エヴェリーン少将がそう言って片手を上げた。この人、本当にいい人だ。戦いを無事に終えたら、どちらが勝つにしてもドラゴンとの共闘をしていける人だと平四郎は思った。


「お主たちとは決勝でしか会えぬぞよ、ケケッ!」


 怨情寺小夜がいつの間にか平四郎の背後にふっと姿を現した。耳元で急にそんなことを言われたので、平四郎は背中に冷たいものが走る。思わず、

「ぎゃっ!」


 っと奇妙な声を上げて、フィンを抱えたまま、危うく腰を抜かしてしまうところであった。全くもって心臓に悪い!


「ジュラルド伯爵、ジュラルド伯爵にナアム主席補佐官ではありませんか。メイフィア軍に加わっているという噂は本当でしたか?」


 妖精族女王シトレムカルルは、平四郎の傍らにいるトラ吉とリメルダと一緒にいるナアムに話かけてきた。ハイエルフ族なので、ほっそりとした体つきに白い肌。透き通るような金のロングヘア。耳がとんがっている以外は恐ろしいくらいの美形である。


「姫様、今のオイラは伯爵じゃないにゃ」

 

 トラ吉はそう妖精族の女王に首を振った。それでもこの美貌の女王は続ける。


「いえ、私の忠実なる部下、いえ、親友です。ジュラルド伯爵、国に戻ってはくれませんか。オージュロ一派は失脚し、前王弟派は一掃しました。対ドラゴンとの戦いの前に国を統一し、妖精族の手でこの世界を守るのが私の役目。どうか、手を貸してはもらえないでしょうか?」


「女王様。今回は妖精族は歴史に名を残すことはできないとオイラは考えるにゃ。妖精族にできることは、オイラが仕える東郷平四郎の旦那に力を貸すこと。そういう運命になっているんだにゃ」


「ケットシーの占いですか?」

「占いもあるけど、オイラの第六感にゃ」


 シトレムカルルは残念そうに視線を落とした。その顔にはどことなく疲れた表情が感じられ、トラ吉は心が傷んだ。それでも決心は変わらない。


「ジュラルド伯爵、残念です。妖精族は過去にドラゴンを倒したことにある種族。この危機に力を発揮できないことは、妖精族の代表として悲しいことです」


「女王陛下……」


 トラ吉はこの女王が幼少の時から知っていた。有力な貴族の娘で、その妖精力の強さから時期女王候補の一人として育てられていた。最も、候補としての順次は低く、有力でなかったことが幸いした。当時の王弟と現王の息女が争った内乱で国内の貴族が2つに割れて、血で血を洗う内乱に発展。両方共共倒れする中、候補としては傍流であったシトレムカルルの下に王冠が転がってきたのだ。

 

 もちろん、こんな状況での女王即位は、自殺行為であった。上に7人も候補がいたのに全て就任を拒否したために、継承権8番目のシトレカルルに王冠が回ってきたのだ。貧乏くじと思ってよいだろう。だが、シトレムカルルは敢えて、火中の栗を拾う覚悟で引き受けたのであった。


(かなわぬまでも、妖精族の誇りと意地を見せたい……)


 この真面目な女王はそう思っていた。


「女王陛下、トラ吉は僕の大事な従者です。彼がいないと困るのです」


 そうフィンを抱きかかえたままの平四郎がシトレムカルル女王に言った。トラ吉もナアムも大事な戦力なのである。


「キャプテントーゴー。どうやら、私の引き抜き作戦は失敗したようです。妖精族の者は妖精族で力を尽くすのが正しいとは思いますが、そういう種族間のわだかまりをなくす上でも、メイフィアの艦隊で妖精族が活躍することは悪いことではありません。キャプテントーゴー。妖精族は、今回、最弱と言われていますが、私も簡単に負けるつもりはありません。霊族を撃破し、きっとあなたたちと決勝戦で会えることを楽しみにしています」


 そう妖精族の若き女王は微笑んだ。ハイエルフ族は長生きの種族である。500年の寿命があるというから、この女王も実年齢は高いのかもしれない。それでもその笑いにはどことなく幼い匂いがした。


 平四郎はトラ吉を引き抜かれなくてよかったとは思ったが、この若き女王が気の毒に思った。内乱で多くの人材が四散し、失われ、人材不足の中、自分が中心となって戦う準備をしなくてはならないのだ。


 こうして4つの種族は、パンティオン神殿を後にして国へ帰る準備をした。平四郎たちはマリーが用意した巡洋艦に乗り組んだ。メイフィアに向かって帰国する途中で、セミファイナル戦に向けて、作戦会議をする予定なのだ。


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