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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
135/201

第21話 パンティオンの神託(4)

 やがて、夕方になり。神託が行われる時間になる。


 神託が行われるパンティオン神殿大広間には、各国の関係者が集まり、対戦相手の結果待ちをしていた。と、同時に対ドラゴン戦における意見交換や協力関係の構築に費やされていた。パンティオン・ジャッジの結果は代表者を決めることになるが、決まった後は、この世界の存亡をかけての戦いになるのだ。


 代表者をトリスタン連合艦隊司令長官にいただき、その代表者が属する種族が主力艦隊として、他国の艦隊まで指揮するのだから、最終的には、4種族の協力体制が築かれることになるのだ。

 

 パンティオン・ジャッジは、切磋琢磨することによるレベル上げが目的だけでなく、各国家の統合も目的であった。人類の存続をかけた戦いですら、各国の利害関係が対立してしまい、効果的な迎撃ができないことを避ける利点がある。連合艦隊司令長官の命令は絶対なのだ。

 

 広間には平四郎たち、第5魔法艦隊の関係者、メイフィアの政治家、国軍の軍人も多くいた。平四郎たちに敗れたマリーも総参謀長という立場とメイフィア女王の名代として参加していた。マリーは戦いに破れた後、第1魔法艦隊を解体して、フィンの艦隊に組み込むと同時に、自分が参謀役としていろいろと準備をしていた。このパンティオン・ジャッジで見事、フィンがトリスタン連合艦隊司令長官になったら、そのまま、参謀長として戦いに参加するつもりであった。

 

 マリーの配下で活躍したルイーズ少将は、そのまま、第5魔法艦隊に入隊し、現在、メイフィアで艦隊の編成に奔走していた。リメルダの兄のシャルル少佐は、マリーと共にこの会場に来ていた。リメルダとは久々に兄妹対面である。


(リメルダは、サンビンセンテの戦いに兄が参加しているとは夢にも思わなく、後でそれを聞いてちょっと複雑な思いをもったようだった)


 神殿の鐘が鳴った。神殿の神官長と4人の代表が厳かに現れた。


 魔法王国メイフィア代表 フィン・アクエリアス 第5公女

 妖精国ローエングリーン代表 ストレムカルル・ローエングリーン女王

 機械族タウルン代表 エヴェリーン・クルル員数外少将

 霊族カロン代表 怨情寺小夜えんじょうじさよ霊族族長 怨情寺家息女


 エヴェリーンと小夜はこっそりと戻ったようで、何食わぬ顔をしている。


 (このサボリ魔が~)


 平四郎の傍にマリーがツツ……っと近づいてきた。


「平四郎さん、いよいよ始まりますわ」

「マリー様。ここへ来ていろいろと忙しい思いをさせてすみません」


「それは構いませんわ。わたくしは敗れたのですから、勝者のために働くのは当然です。わたくしが勝っていれば、今頃、あなたが第1魔法艦隊の総参謀長として同じ仕事をしていますわよ。ホホッホ……」


 コロコロと右手の甲を口に当てて笑うが、平四郎は(勝ってよかった~)と思った。でないと、マリー王女にとことん働かされてしまうところだ。


(マリー株式会社はブラック企業、間違いなしだ)


「しかし、この神託、正直言うと、セミファイナルは妖精国とあたって欲しいですわ」

 マリーは急に真面目な顔をしてそう言った。その目は険しく、視線は神託が行われ祭壇に注がれる。4カ国の代表が集まっているところだ。


「なぜ?」


 平四郎が問うとマリーは軽快に答えた。妖精族の艦隊運用はメイフィアとよく似ており、今までの戦いのやり方となんら変わりがないことを上げた。いわゆる戦列艦クラスの空中武装艦による砲撃戦である。


 それに妖精族は国の内乱でゴタゴタがあり、パンティオン・ジャッジをすることができず、即位したばかりの妖精女王が代表になっている。4代表中、最弱と見るべきだ。さらにタウルンは潜空艦による戦いだし、霊族はアウトレンジからの機動戦らしく、メイフィアの国内予選とは大きく戦いのやり方が変わってくるのだ。


 平四郎にとってパンティオン・ジャッジで勝利することは、大好きなフィンとの約束でしかなかったが、マリーや他のメイフィアの住人にとっては大きな意味があった。


 パンティオン・ジャッジを制して連合艦隊の中心となれば、優先的にドラゴンからの攻撃に対処できるのだ。メイフィアの土地が比較的安全となる。そういう場合には他国家から難民としてメイフィアに移動して来ることになる。誰も、住み慣れた土地を捨てて移住はしたくない。それに他国の艦隊は連合艦隊の指揮官命令に従わなくてはいけない誓約になっている。これも長年に渡るドラゴンとの戦いの結果、生まれた慣習的な決まりであった。4つの国がバラバラに戦っては、滅びてしまうという理由からである。これまでも、このルールを守ったことでかろうじて生き延びていたのだ。


(なるほど……。どうりで国軍のお偉いさん方の力が入っているわけだ)


 この会場にもメイフィアの軍人やタウルンの軍人がうろうろしている。自分の軍が指揮する立場か、指揮される方になるかは大変な違いとなる。このパンティオン・ジャッジでの勝利は死活問題でもあるのだ。先程から、メイフィア国軍の将軍がやたら平四郎を励ます理由がよく分かった。


 一際大きな鐘の音が鳴った。神殿に仕える100名を超える少年少女が、神を称える歌を合唱した。神殿前の広場に集まった人々は、黙祷をしながらそれを聴く。過去にトリスタン連合艦隊が失われたゴリアテの悲劇に対する黙祷だ。そして、歌が終わるとパンティオン神殿の神官大祭司が登場し、厳かに宣言文を読み上げた。


「これより、パンティオン・ジャッジのトリスタン代表を決める戦いの始まりを宣言する。すべての国家及び人民は、このパンティオン・ジャッジの結果を受け止め、人類が生き残るためにいかなる犠牲を厭わず、誠心誠意をもってこれに従うなり」


 そして4人が順番に祭壇前に置かれた大きな壺に入れられた巨大な棒を引き抜く。まずは、タウルン代表のエヴェリーン。両手でがっしりとその棒を握ると壺から引き抜き、それを高々と上げた。先端には「2」という数字を型どった金属の飾りが取り付けられていた。


「タウルン共和国は第2戦」


 そう告げられた。タウルンとしては、一番最初に引くだけにこれは一番良い結果ではあった。何しろ、第1戦を引けば、1週間後に戦わないといけないのだ。第2戦なら2週間後で、準備期間がそれだけ多くなる。さらに第1戦で勝った相手が分かるので、それに備えた作戦も取ることができるのだ。エヴェリーンはタウルン国軍の中では煙たがられていたが、このくじ引きの結果に対しては、タウルンの軍人たちから「オオオッ……」というどよめきと賞賛の拍手が贈られた。

 

 次は妖精国女王シトレムカルル。この人はハイウエルフの一族で、先の内乱の結果、新たに女王に祭り上げられた女性だ。うす青色の皮膚で緑色の長い髪を垂らしていた。顔はほりが深く、長いまつげと切れ長の目で、じっと見ると魅了されてしまいそうな恐ろしい程の美形だ。エルフだから耳はとんがっている。いや、その耳は毛の生えたトンガリ耳でキツネリスを思わせた。

 

 そのシトレムカルルが棒を引き抜く。3カ国の関係者が息を呑む。なぜなら、タウルンもメイフィアもカロンもできれば一回戦は彼女と当たりたいからだ。ストレムカルルは棒を高々と上げた。


「1」を型どった金属が取り付けられている。


「おおおっ……」「ああああ……」


 明るい声とため息のような声が交錯する。メイフィアとカロンの者は喜び、タウルンの者は落胆した。


「いよいよですね……」


 リメルダが平四郎の腕に両手を添えて傍に並んだ。平四郎の右隣はマリーがいるので、両手に花状態である。フィンが見たら、「(-_-)」とにらまれる光景だったが、肝心のフィンは三番目にくじを引くことに集中していて、とても会場を見渡す余裕がないようであった。


「うんしょ……うんしょ……」


 重い棒を引き抜くのは、華奢なフィンには一苦労であったが、それでもなんとか棒を引き抜いた。引き抜いた勢いでフラフラと体のバランスを崩し、思わず尻餅をついてしまった。


「きゃん!」


 棒がゴロゴロと祭壇下の階段を転がり落ちる。みんなそれに集中する。階段下でそれは止まった。


「2」の数字があった。


「おおおっ!」「あああっ!」


 多くの声が交錯する。


 この結果、パンティオン・ジャッジセミファイナルは、


妖精国家ローエングリーン国代表 シトレムカルル VS 霊族カロン首長国代表 小夜


機械国家タウルン共和国代表 エヴェリーン VS 魔法国家メイフィア代表 フィン


と決まった。


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