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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
3巻 パンティオン・ジャッジ トリスタン決勝トーナメント編
132/201

第21話 パンティオンの神託(1)

 

 オレンジ島……。魔法王国メイフィアのある第一浮遊大陸の南にある島。半径10キロの大きさの浮遊島である、表面は緑で覆われ、また、中央には直径4キロの湖が豊富な水量を誇り、2方向に川が流れている。川の終着は滝になっており、浮遊大陸から地上に向かって水が白い糸のように流れていく。風光明媚で古くから観光名所として有名なこの島は、王女マリーによって公女艦隊の基地として整備が進められていた。

 

 パンティオン・ジャッジの国内予選を勝ち抜き、メイフィア王国の代表になった第5魔法艦隊は、正式にメイフィア王国魔法艦隊、名称を変えて本拠地をこのオレンジ島の軍港に置いていた。フィンも平四郎も元の基地があったパークレーンが好きであったが、パンティオン・ジャッジで勝利したことにより、手に入れた艦艇全てを停泊させるにはパークレーンは、手狭であったからマリーからオレンジ島への移転を提案された時には、それを受け入れるしかなかった。

 

 オレンジ島には艦隊に属する軍人の生活の場である居住区も整備されており、巨大なコンドミニアムにそれぞれが部屋を与えられていた。平四郎が与えられた部屋は1階が大理石床のリビングが30畳もある部屋でメゾネット。2階は3室もあって一人では広すぎる部屋であった。今までの広さ3畳の貧乏旅館の一室とはえらい違いだ。コンドミニアムにはプールにジムも併設されており、気分は南国のリゾートホテルといった感じだ。 他の第5魔法艦隊の乗組員もそれぞれ、同じコンドミニアムに部屋を与えられていた。


 今はそのコンドミニアムの1階にあるボールルームに一同は集められて軽食を取りながら、第1公女マリーの説明を聞いている。このコンドミニアムに住んでいるのは公女艦隊の関係者だけで、ここがプライベートな司令部でもあった。


「それでは、女王陛下より辞令が出ていますので、わたくしが代理で任命します」


 マリーがそう宣言する。第1公女としての仕事ではなく、メイフィア王国王女としての立場である。


「フィン・アクエリアス准将」

「はいです」

「あなたは上級大将に昇進します」


 4階級特進である。一艦隊撃破ごとに一階級上がると考えると、第4、第3、第2、第1魔法艦隊と4つの戦いに勝ったわけででたらめな昇進ではない。むしろ、ここは勝つごとにこまめに上げるべきだろっとツッコミを入れたい。


「東郷平四郎少佐」

「はい」


「あなたは准将となります。引き続き、艦隊のマイスターとレーヴァテインの艦長職を委嘱します」


 次々とマリー王女によって人事が発表されていく、ミート少尉は大尉に。フィンの副官はそのまま。ナセルも同じく大尉。パリム&プリムちゃんは少尉。カレラ中尉は少佐に上がった。少佐になると駆逐艦艦長になれる資格はあるが、彼女はレーヴァテインの操舵手にこだわり、職務はそのままとなっている。トラ吉は軍属待遇で平四郎の従者はそのまま。第4公女のリリムやローザ、リメルダは階級はそのままで、それぞれが分艦隊の提督として組み込まれていた。


 ただ、ローザはレーヴァテインのメイド業が気に入ったらしく、アマンダさんと一緒に今しばらくメイドを続けるらしい。(どんな心境の変化だ!)


「で、マリー様はどういう役割をするのですか?」


 リメルダはちょっと不機嫌な表情でそうマリーに告げた。マリーとは幼少の頃から公女候補として切磋琢磨してきた間柄であるが、不機嫌な理由はマリーの立ち位置。中央のフィンの右隣に位置する平四郎の横。今にも触れんばかりの距離だ。


(マリー様。そこは私の席なんだから……)


 ここへ来て、今ままでフィンが味わってきた気持ちをリメルダが味わっているとは皮肉なことだ。リメルダの問いに(完璧なマリー)と異名をとる才女はすました顔でこう述べた。


「わたくしはこの艦隊の総参謀長として奉職します」

「総参謀長ですって?」

「総参謀長にゃ?」


 リメルダとトラ吉がそう思わず声を出したが、このテーブルに着席している人間はそう思っただろう。総参謀長は要職である。艦隊の戦略、戦術、作戦の全てを取り仕切るナンバー2。第5魔法艦隊に負けたマリーがいつの間にか第5魔法艦隊の中枢を乗っとった感じである。だが、一同は思い直した。そんな役を務めることのできる人間がマリーの他にいるだろうか。


(いない)


 平四郎はそう思う。リメルダもトラ吉もそれを思うと何も言えない。国軍との調整、資金集め、人事、作戦の立案、他国との交渉。提督のフィンには絶対無理だ。メカおたくで、チート魔力の平四郎もそこまでやりたくない。ミート大尉はフィンの世話で精一杯だ。


「マリー総参謀長に拍手するです」


 フィンが珍しく噛まずに立ち上がって拍手をする。みんなも立ち上がって拍手する。マリーは片手を上げてそれに応える。


「それともう一つあります」

「な、なんでしょう?」


 平四郎はドキッとした。隣のマリーが自分の腕に絡んできたのだ。マリーの弾力ある双丘が平四郎の右腕を挟み込む。


 フィンとリメルダが(じとー)っと平四郎を見る。視線が痛い。


「わたくしは平四郎様をわたくしの夫と認めます」

「へ?」

 

 平四郎は固まった。


「当然でしょう。あなたは勝者となったフィンのパートナー。負けた公女は全員、あなたの言いなりのなるのが古来からの決まり」


「そ、そんな決まり……」

 リメルダが黒い髪を揺らして、立ち上がったが、マリーにいなされる。


「リメルダ、あなたも平四郎様の妻になれるのですよ。わたくしが第一夫人なら」


 このトリスタンでは、平等に接することができれば妻は複数持てる。もちろん、それを充分養える経済力と第一夫人が許可するという条件が付くが。フィンが第一夫人だと許可をもらえないかもしれないとリメルダはちょとだけ思った。マリーとフィンを見比べる。女の器はマリーの方が上だろう。


(いやいや……)


 リメルダは首を振った。自分が第2夫人でいいと思ってしまった自分が恥ずかしくなった。平四郎が好きならTOPに立つつもりでアタックするべきだろう。


「つ、妻は、わたしでちゅ……」


 1秒間時が止まった。


「妻はわたしです。わたしが平四郎くんの妻です」


 言い直したフィン。パンティオン・ジャッジが終了したら結婚する約束をしている。平四郎から直接プロポーズされたのはフィンだけなのだ。


「あらあ。フィンさん。大丈夫ですよ。わたくしが第1夫人なら、あなたも平四郎様の妻として認めますわよ」


「け、けっきょう……」

「結構です! わたしが第1夫人です。マリー様とリメルダさんはだい2、3夫人です」


「フ、フィンちゃん」


 平四郎は大人しいフィンの大胆な宣言。頭のネジが外れたのではないかと思った。


「パンティオン・ジャッジで負けた公女はみんな平四郎くんの妻です。リリムちゃんもローザさんも……みんな認めます。わたしは第一夫人として平四郎くんにふさわしい器の大きい妻です」


 パチパチ……

 

 思わず拍手をしてしまうリメルダ。クスクスと笑っているマリー。他の乗組員はあっけにとられている。


「フィンちゃん、そんなこと勝手に宣言されても……」


 平四郎は困った。自分の意思は無視かいとも思ったが、マリー王女もリメルダもフィンもとびっきりの美少女である。思わず天国の世界を想像したのは男の性かもしれない。これをハーレムというのだろうが、そんなファンタジーな世界は平四郎の趣味ではない。


「よく言いました。フィン・アクエリアス。それでは、第一夫人の許可が出ましたのでわたくしも正式な妻ですわね」


 マリーは事も無げに言った。最初からフィンにそれを言わせる気だったのだろう。まんまとフィンはいっぱい食わされた。


「今晩から平四郎様の夜伽は順番に努めましょう。ああ、フィン提督はダメですよ。メイフィアの代表提督に赤ちゃんができたら困るでしょう?」


「あ、赤ちゃん!」


 マリーがますます平四郎の体を密着させて、平四郎の胸に人差し指で文字を書く。ハート文字だゆっくりと描かれていく。


「マ、マリー様。そ、総参謀長も赤ちゃん出来たら困るんじゃ……」


 平四郎の言葉がビビリ声である。マリーは19歳。平四郎より年下なのに小悪魔である。


「ふふん……。それもそうだわ。なんて、冗談よ。ちょっとからかっただけ」


 マリーは茶目っ気たっぷりにウインクした。上品なお姫様がこんな冗談を言うなんてと一同は思ったが、マリーには十分な目的があった。会議が終わって執務室に戻ると副官のシャルロッテ少尉がこう尋ねた。


「マリー様。先ほどの冗談、まさか本気じゃないでしょうね」

「フフフ……。本気だとしたら……」


「確かに平四郎様は異世界から来た勇者かもしれないですけど、マリー様の夫ということはメイフィアの次期国王ですよね。彼にそんな器があるでしょうか」


「コネクト……報告にもあったわね」


 マリーは第5魔法艦隊との戦いで集めた情報を整理していた。「コネクト」平四郎が持つ特殊能力。魔力無限大にブーストする技。これはフィンとの間で発揮された技だ。これによって、最弱と言われた第5魔法艦隊が勝ち抜いたのだ。「コネクト」はリメルダとの間にも成立した。


「どうやら、コネクトの発動条件は平四郎様と女の子との間の複雑な心情が必要」


「愛情ですか?」

「そうかもね。わたくしにもあの力は必要。ドラゴンどもを倒すためにもね」


「それで夜伽などという言葉を?」

「男性は女性に……その、あの……。ベッドでエ、エッチなことをすると聞いています」


「はあ」

「シャルロッテ。それをすれば平四郎様もわたくしに愛情を注いでくれるのでしょう?」


「あ、あの。マリー様?」

「なんです? シャルロッテ」


「マリー様はトリスタンを救うために平四郎様に……。あの、だ、抱かれるとおっしゃっているのですか?」


「そうです。わたくしの目的はそこ以外にはありません」


 シャルロッテ少尉はマリーの真面目な顔を見た。そして、「完璧なマリー」と呼ばれる才能の塊の王女が男女の関係ではただのおぼっこい女の子であることを改めて思った。マリーは19歳なのだ。知らなくて当然だ。その面では先輩のシャルロッテは、マリーの心の奥底で平四郎に惹かれている恋する気持ちが眠っていることに気づいた。


(マリー様。あなた様の目的のコネクトは計算だけでは発動しませんよ。相思相愛にならないとダメなんですよ。たぶん。それにはマリー様だけでなく、平四郎様の心を動かさなければいけませんよ)


 トントン……。ドアが叩かれよく知っている人物の声が聞こえた。


「マリー様。パンティオン神殿より使者が参りました。正式な招集です。明日にでも出航できるよう準備をします」


 シャルル大佐が執務室に入ってきた。リメルダの兄であるこのエリート将校は、引き続き、マリーの旗艦コーデリア3世の艦長としてマリーを支えることになっていた。


「出発する船は?」

「巡洋艦ユグドラシルが整備が終わっています」


「いいでしょう。フィンさんと平四郎様にも知らせなさい」

「了解」


 マリーは思考は次の作戦に移っていた。メイフィアの代表は決まった。次はセミファイナル。トリスタンの代表を決めるパンティオン・ジャッジである。


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