第20話 VS第1魔法艦隊 ~サンビンセンテ空中戦(10)
今晩、ついに決着。
長かったメイフィア王国編終了です。
マリーはコーデリアⅢ世の船内地図をスクリーンに映させる。2つの強襲揚陸カプセルから30体ずつの機械兵が解き放たれている。おそらく、指揮官が動かし、コーデリア三世の心臓部である、浮遊エネルギー動力室を占拠するつもりであろう。そこを抑えられたら、この船の生殺与奪権を奪われたも同然になる。
マリーは敵が機械国家タウルンの機械兵を使用したのもよく考えられていると思った。、まず、人間の兵士を用意する手間が省けること。白兵戦用の人材を雇えば、マリーの耳にも入ったけれど、密かに積み込んだ機械兵小隊では、それを掴むことはできなかった。
さらに魔法で動くゴーレム兵や、召喚する類のものは、艦内のマジックキャンセラーシステムを作動すれば無力化できる。人間の兵士でも催眠ガスを流せばそれで無力化もできるだろう。だが、機械兵ではそれもできなかった。
「やむを得ません。こちらは、魔法生物ゴーレム兵で対抗します。この第8通路及び、第3格納庫付近で迎え撃ちます。シャルル少佐は第8通路へゴーレム兵を指揮して急行しなさい。わたくしは、20体ほど率いて、第3格納庫へ移動します」
マリーは艦内マップを見て、そう命令をする。ゴーレム兵は魔力を持った術者が近くに行かないと有効に動かせないのだ。
「マリー様、マリー様が直接指揮するのは危険です。シャルロッテ少尉に任せては?」
そうシャルルが進言した。自分とシャルロットが現場で指揮し、マリーがここから全体を見て指示を出した方が敵に対抗できる。マリーは少し考えた。できれば、自分の手でこの状況を打破したかったのだ。敵がこのような手を打ってくるとは、自分の予想外であった。
白兵戦用のゴーレム兵は、魔力によって動き、その強さが戦闘能力となる。
ゴーレム兵の攻撃力を上げるためには、自分が指揮した方がよいとは思ったが、まだ、敵は何かをしてくるかもしれない。ここで状況を見守って方がよいだろう。
「分かりました。シャルロッテ、第3格納庫へ……。敵の足を止めるだけでいいわ。時間が経てば、螺旋の輪舞曲で第5魔法艦隊は全滅します。ルイーズが来れば、逆にレーヴァテインへ白兵戦を仕掛けることもできます」
「はい、マリー様」
「イエス、ユア、ハイネス」
シャルル少佐とシャルロッテ少尉が艦橋からゴーレム兵を率いて迎撃に向かった。
「旦那、第8通路はゴーレム兵20が行く手をふさいでいるにゃ」
「こちらの第3格納庫もだ。きれいな少尉さんが指揮するゴーレム兵が陣取っていやがる。ゴーレム兵なんて見たくもないのに……」
ナセルはいつぞや、レーヴァテインのデストリガーの封印を守っていた大きなゴーレムとの戦いを思い出した。まあ、死ぬ思いをしたけれど、結果的にはミートと恋人同士になれたので、ある意味、縁結びの神様でもあったのだが。
トラ吉とナセルは、平四郎とリメルダが機械国家タウルンで調達した機械兵兵士1個小隊セットを使って、コーデリアⅢ世の動力炉を占拠しに向かっていたのだ。タウルンの機械兵はよくできていて、文庫本サイズの画面の端末を指で操作することで、進み、攻撃も手に持った機関銃を連射することができる。格闘もプログラムされているらしく、近接戦闘エリアに入ると殴る、蹴るの動作でゴーレム兵と格闘している。
タウルンもメイフィアも人口が少なく、こういう兵士の役割を代用しているわけだが、一応、操る士官はいるわけで、トラ吉もナセルも壁の陰で端末を動かしている。
「ここは通さないよ」
シャルル少佐が立ちはだかる。トラ吉はそのゴーレム小隊に機械兵をぶつけるが、猛烈な肉弾攻撃に次々と機械兵はスクラップになってしまう。
「まずいにゃ、さすがリメルダのお兄さんだにゃ」
「ここを突破しないと動力炉にはたどり着けないぞ」
トラ吉とナセルが同時に平四郎に通信を送る。2方向から動力炉に向かったが、どうやら先に防戦体制を整えられてしまったようだ。両隊とも釘づけになってしまう。だが、これは予定通りであった。実は平四郎も一隊を率いて別の場所へ向かっていた。ナセルとトラ吉は陽動で、平四郎が率いる部隊が本命である。
「平四郎殿、敵の気配はないにゃ」
「行けるだわん」
ワン、ニャン、ワン、ニャンとうるさい。平四郎が行動しているのが、アマンダメイド長が率いる魔人形部隊。ゼパルとベパルがそれぞれ15体の30の魔人形たちである。手には20ミリアサルトライフルを持ち、それを乱射しながら突き進む。途中、第1魔法艦隊の乗組員と出くわしたが、銃で威嚇してあっという間に縛り上げて戦闘不能にしてしまう。
「トラ吉、ナセル。2人ともできるだけ時間稼ぎしてくれ。あと2、3分でこちらはターゲットに到着する」
「ち、ちょっと無理かも~」
ナセルの泣き言と共に爆破音が聞こえる。どうやら、ゴーレム部隊に撃破されてしまったようだ。タウルン製の機械兵の扱いに慣れていないことや、よく分からない敵戦艦の中での戦いだ。不利なことは間違いないが、きっと、ナセルのことだ。迎撃に来たシャルロッテ少尉に見とれていて、機械兵の操作をおろそかにしたに違いない。
トラ吉の方も善戦虚しく、こちらは優秀なシャルル少佐の前に完敗であった。機械兵はすべて壊されしまい、トラ吉も捕まってしまった。
「マリー様。我が艦に侵入した敵の部隊、撃破しました。指揮官のケットシーとナセル少尉は拘束しました」
シャルルはシャルロッテからの報告を受けて、そうマリーに報告した。マリーは艦内のマップを見ながら首をかしげた。
(こんなに簡単にやられるわけがないですわ……。それに先程から定時連絡のない乗組員がいることを考えると……まさか!)
「シャルル、すぐに艦橋に続く第1通路へ戻りなさい。シャルロッテも」
マリーはここへ来て、平四郎の作戦が読めた。彼の狙いはコーデリア3世の動力炉でも浮遊ユニットでもない。おそらく、艦橋にいる自分なのだ。そして、それはマリーに追い込まれたという強烈な意識を持たせた。
(もし、彼があの前夜祭で見せたとんでもない力を発揮したら……)
マリーは小さく呟いた。
「わたくしの負けが決まったようですね」
「ここからは行かせません!」
ゴーレム兵と共に慌てて戻ってきたシャルロッテは、突き進んでくる平四郎の前に立ちふさがった。艦内のことを熟知していたことでナセルの部隊を撃破し、彼を捕虜にしたあとでも間に合ったのだ。
平四郎が率いるのは魔人形の部隊。ひ弱な女の子のドールだ。いかついゴーレムの壁の前では先に進むのは難しいだろう。加えて、シャルロッテはナセルをロープで縛って連行していた。
「この方の命を守りたければ、ここで降伏しなさい」
シャルロッテはそうよく通る声で宣言する。縛られたナセルは悪びれた感じがない。むしろ、シャルロッテのような美人にロープで縛ってもらえて幸せそうな顔をしている。
「ほら、あなたも命乞いしなさいよ」
「え~。命乞い。僕は君のような美しい人に縛ってもらえて幸せです」
「はあ?」
「でも、まだ経験が浅いなあ。もうちょっと、きつく縛らないとダメだよ」
「な、なに言ってるんですか!」
「それとも今晩、僕がお姉さんを縛っちゃおうかな~」
「あなたね。自分の状況が分かっていないようね」
「分かってますよ。分かってないのはお姉さんの方」
ナセルがそう言ってシャルロッテと平四郎の方を交互に見る。
「平四郎は人質とっても関係ないよ~。あの状態の彼は破格だからね~」
(破格だからね)と言われてシャルロッテは、平四郎を見る。瞳は赤いどころか、金色に染まっている。コネクトの最終形態である。調査によれば、この状態の平四郎は300もの盗賊団を壊滅させたという。とんでもない力の持ち主なのだ。
「で……でも。こちらはゴーレム兵よ。20体はいるわ。こんな狭い艦内の通路でこの岩の壁は打ち破れない……はず……」
「関係ないね」
平四郎は大きなハンマーを携えていた。岩でできた魔法生物を破壊するには、これが一番の武器だ。普通の人間では振り回すどころか、持ち上げることすら難しい大型のハンマーだが、コネクト状態の平四郎は軽々とそれを肩に担いでいる。
「さあ、鬼アツの時間だ!」
シャルロッテはこの1分後に信じられない光景を見る。一人の男に20体ものゴーレムが粉々に破壊され、その後、突撃してきた魔人形に捕られられ、セクハラ男にギュウギュウに縛られてしまった自分だ。
「マリー様~。ごめんなさ~い。こんなでたらめな相手には勝てません~」
トラ吉を撃破したシャルル少佐が駆けつけた時には、既に勝敗が決していた。艦橋に続く分厚い扉も素手で破壊した平四郎は難なく、中へ侵入していた。
あのタウルンの軍人、エヴェリーンが言っていた言葉が頭に浮かんだ。
(どんなに固い鎧を着ていても、中身は王女様の柔肌さ……)
「中に侵入すれば、王女様の柔肌はすぐそこ!」
平四郎は艦橋に入る扉を蹴破った!
驚く女性乗組員の中から、一瞬で高貴な女性を見つけ出し、すぐさま、右の手首をつかみ、そして後ろ向きにして残る左手を固めることは難しくなかった。手には魔法銃を持ち、その女性のこめかみに当てている。
「マリー様、ジ・エンドです。すぐ、全艦隊に停船命令を……」
平四郎はそう勝利宣言をした。
パンティオンジャッジの勝利条件
(1)敵旗艦を撃沈したとき
(2)敵が降伏したとき
そして、3つ目。
(3)敵の指揮官を捕らえたとき
ナセルとトラ吉に指揮させた機械兵二個小隊は陽動に過ぎず、最初から狙いは第1魔法艦隊提督及び第1公女、マリー・ノインバステンその人であった。コネクト状態の平四郎がこの艦内に突入した時に、勝負は決していたといっていい。
マリーは目を閉じ、ほっと息をはくと、観念した。
「フフフ……。平四郎さん、わたしくしの負けです。まさか、こういう手を使ってくるとは」
「早く、停船命令をお願いします。これ以上、損害を出したくありません」
「分かりました。わたくしの名前、マリー・ド・ノインバステンの名のもとに第1魔法艦隊全艦に命令します。全艦停船しなさい。。パンティオン・ジャッジ、これにて終了です」
戦闘が終わった。
パンティオン・ジャッジは終わった。
この結果、魔法国家メイフィアの代表は、第5魔法艦隊とそれを指揮する第5公女フィン・アクエリアス提督となったのだ。
明日からはトリスタン編開始です。




