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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
129/201

第20話 VS第1魔法艦隊 ~サンビンセンテ空中戦(9)

マリー様の最終命令の5分前。

起死回生の相談がレーヴァテインの艦橋で行われていました。

10分前のレーヴァテイン艦橋。


「え? デストリガーを使う?」


 平四郎の申し出にフィンもミート少尉もトラ吉もみんな驚いた。デストリガーを使わないと言っていた男が手のひらを返したように使うというのだ。


「そりゃ、この状況だ。せっかくアンナさんの協力でデストリガーを装備したからなあ。使うのは賛成だけどな」


 攻撃担当のナセルがそう訝しげに平四郎に言った。ミート少尉もナセルの意見に頷く。それで勝てるとは思わないが、今は何でも試したいという心境であった。それでも、平四郎の心変わりについて聞く。


「この状況では使うしかないけど、マリー様にはデストリガーへの対抗手段があるって言ったのは平四郎だよ。それについてはどうなのよ」


「そうだにゃ。完璧なマリー様が、デストリガーについて対抗手段がないわけないにゃ」


「ああ。分かっているよ。できれば使いたくなかったけど、この状況じゃ使わざるを得ないよ。この状況はマリー様に使わされるといっていい」


「じゃあ、なおさらだめじゃ……」


「だからこそだよ。相手の思考に乗っかって、相手に100%勝利を確信させないと逆転の目はない。マリー様は完璧だよ。油断なんて絶対しない。でも、自分が思った通りと思った時が、唯一隙ができる瞬間。そこを狙うしかない。おそらく、その時間は10秒もない」


「なるほどにゃ。わざと相手の思惑に乗っかって油断させると言うわけにゃ」


 トラ吉が感心したように腕組みをしてうんうんと頷く。平四郎はさらに続ける。


「それで、デストリガーを撃った後に……」

「え?」

「えええええっ!」

「マジかよ」

「旦那の発想力には驚くにゃ」

 

 平四郎の作戦。それはデストリガーは起死回生の一発ではなく、ただの陽動に使うというのだ。デストリガーは空中武装艦がもつ最大の攻撃方法。人類がドラゴンに対抗する武器。それを囮にするというのだ。


 平四郎から作戦の詳細を聞いた後、レーヴァテインの各乗組員は勝利への希望がわずかに見えた。この作戦が成功すれば、まさに起死回生。完璧なマリーが完璧でなくなると誰もが思った。もちろん、楽ではない。一つでも手順を間違えればそれで終わり。99.9%の負けが確定している中での、小さな小さな勝利への光が差している。


「……わかりましたです。平四郎くん、ヤルです」


 黙って聞いていたフィンがそう判断した。平四郎に対して全面的な信頼を寄せるフィンだ。ここが正念場だと思うといつもぽや~んとしているフィンではなくなる。


 平四郎とフィンのハートから赤い糸が伸びてそれがギュッと結ばれる。平四郎の瞳が赤く変化し、コネクト状態となる。


「さあ、みんな激アツの時間だ!」

「おおおう!」


 パンティオン・ジャッジ。メイフィア王国の決勝戦が今、ファイナルに向かって動き出す。それは意外な結末であった。




「撃てええええっ……」


 マリー命令と同時にコーデリア3世からの一斉射撃と背後からのルイーズ艦隊からの一斉砲撃。これでレーヴァテインは粉々になるはずであった。マリーのデストリガー「アブソリュート・ゼロ」ならさらに確実であったが、今回は封印をしている。それでもこの攻撃は勝利を確実にもたらせる第1魔法艦隊の最大の攻撃であった。


 だが、このタイミングを待っていたのは、フィンの方であった。平四郎に教えられ、このタイミングで、あるものを射撃するように言われたのだ。ちなみに、平四郎とナセルとトラ吉はいない。3人とも作戦の第2段階の準備に出て行ったのだ。



「照明弾改、撃つです!」


 フィンの命令でレーヴァテインの主砲、副砲から放たれたモノは、煙を出しながら放物線を描き、コーデリアⅢ世とレーヴァテインの間で破裂した。


 その光は、戦列艦コーデリアⅢ世を押し包み、敵味方関係なく、見ているものの視覚を一時的に奪った。マリーも光をまともに見てしまい、しばらく目が開けられない。


 両手のひらをクロスさせて顔を隠し、これ以上、光を見ないようにしたマリーは、艦長のシャルル少佐に確認を求めた。


「どうしたのですか?」    (いち)

「レーヴァテインが照明弾を放ったもようです」(に)

「こちらの砲撃は?」     (さん)

「それが、照明弾の影響か、魔力がかき消されています!」(し)

(そんな、魔力を無効化する新兵器?) (ご)


 そんなものを隠しもっていたとしたら、最後の悪あがきに使ったのであろうか?

マリーは第5魔法艦隊の意図が理解し兼ねた。例え、魔力無効にしたところで、その時間は限られたものだろう。わずかな時間稼ぎをするだけとは思わなかった。


 やがて、光りが収まり始めた。


「魔法無効化、効力がなくなりつつあります」

「最後の悪あがきだったのかしら?」


 そうマリーがつぶやいた瞬間、大きな横揺れで体がふらついた。シャルルが慌ててマリーの体を支える。


「何が起こったのですか?」

「何かがぶつかったようです。どうした、状況を報告せよ」


 シャルルがそう叫んだが、その答えを聞くまでもなかった。艦橋から見える光景。そう、いつの間にか、レーヴァテインが横付けしているのだ。船首と船尾から錨をコーデリアの船体に撃ち込み、完全に密着している。


「ど、どういうつもりかしら?いえ、それより、この距離を数秒で進んでくるのは、いくら高速巡洋艦でもありえない速さだわ……」


 レーヴァテインが先代の遺跡から発掘した超高速エンジン「シャインデスプロエンジン」を積んでいることは承知していた。あれで艦隊運動をされたらかなり厄介である、現にここまでレーヴァテインが生き残れたのも機動力と操舵手の名人芸とコネクトによる魔力無限大とフィンのマルチ能力のおかげである。


 その機動性をもってしてでも、こんなに早く接近して来れるわけがない。だが、マリーは横付けしたレーヴァテインの艦底にスピード10倍アップのロケットブースターが取り付けられているのを見て納得した。


「あれで瞬間加速したのね。無茶なことをするわ。急激な加速は船体を痛めるのに」


「平四郎君の腕による整備のおかげでしょう。普通ならあの急加速で方向が定まらないはず。艦を安定させるよう調整したのでしょうね」


「シャルル少佐は異世界の勇者を随分と褒めますわね」

「はい。妹の思い人ですからね」


「リメルダの? そうですか。あのリメルダがね」


 マリーは戦闘とはかけ離れた情報につい興味が移ったが、慌てて戦闘モードに入った。レーヴァテインのこの行動の狙いが読めない。


(これからどうするの? 至近距離で0距離射撃? そんな無駄なこと。この距離で撃ち合えば、戦列艦と巡洋艦のキャパシティの差で、そちらが破壊されるだけですわ)


「全主砲でレーヴァテインを撃ち、破壊しなさい!」

「マリー様、それはできません!」


 シャルルがそう言うと同時に、またもや衝撃が走る。


 ガシン、ガシン、ガシンと鈍い音が3回鳴り響いた。先程のような振動はなかったが、何かがコーデリア3世にぶつかった音だ。艦橋から確認すると、なんと、レーヴァテインの護衛駆逐艦3隻が同じようにコーデリアⅢ世とレーヴァテインに錨を撃ち込み、固定した来たのだ。フィンが操る無人駆逐艦である。これでシャルルもマリーも第5魔法艦隊が一か八かの相打ちに出たのではないと理解した。


「レーヴァテインを撃てば、駆逐艦3隻も巻き込んでの大爆発が起きます。さすがにこの距離では、こちらも巻き込まれて破壊されてしまうでしょう」


「相打ちを狙うのでしょうか?」

「敵の主砲はこちらを向いていません」


(どういうことでしょうか……。あっ!)


 マリーは平四郎の作戦が分かった。


 だが、同時に、また、衝撃が立て続けに2つ起きた。今度はズガーンという抉られる音がして、さらにグキュルグキュルとねじ込まれる音が響く。


「マリー様、レーヴァテインから、強襲揚陸カプセルが射出、コーデリアⅢ世の船体を突き破りました。艦内に侵入してきます。中から機械兵30、船内に侵入」

「白兵戦を挑む気ですか? 敵の目標は?」


「おそらく、コーデリア3世の推進システムと浮遊石ユニットの破壊でしょう。彼らが勝つにはこの第1魔法艦隊旗艦コーデリア3世を戦闘不能にすることですから」


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