第20話 VS第1魔法艦隊 ~サンビンセンテ空中戦(8)
いよいよ、クライマックス!
マリー様のチートな能力にどう対抗する……平四郎。
「ルイーズはよくやっています。このまま、彼女に任せても勝つでしょうが、ここはわたくしが最後の締めをするべきでしょうね。シャルル艦長、敵艦隊先頭のレーヴァテイン、デストリガーは使う気配はありますか?」
「ないようですね。使わないで散るつもりでしょう。さすが、妹が惚れる男だけのことはある」
「わたくし的には残念です。使ってくれれば、100%勝ちは決定でしたのに……」
マリーには第1公女としての特殊な力があった。一つは全戦域を大局的に見る能力。(サテライト・アイ)宇宙に浮かぶ静止衛星から監視できるように戦場全体を把握することができるのだ。戦争が情報線であることは昔も今も変わらない。戦場で起こる一挙手一投足を知ることができるのはある意味最強だ。リメルダの座乗するイージス艦ブルーピクシーは船の力でこれを狙ったが、情報分析して提督に知らせるまでにタイムラグがあった。マリーの(サテライト・アイ)は瞬時であり、そこから得られる情報とマリーの知略が合わされば、敵が何をしてくるかがほぼ分かるのである。もはや、戦闘にならないチートさである。
さらにマリーにはデストリガーを無効化する手段があった。マリーだけが使える特殊魔法(ディサーマメント=武装解除)。これは主砲から撃ち出すことで発動する。術式が複雑であり、魔力も大幅消費するので連射はできないが、発射と同時に前方に強大な攻撃力吸収空間を一定時間作り出すのだ。この空間は魔力弾も物理的攻撃も取り込む。強大な魔力の塊であるデストリガーすらそれは取り込む。無論、敵見方の魔法弾もすべて飲み込む。この魔法の発生中は、一切の攻撃ができないのだ。
そしてこの攻撃がかなり凶悪なのはそうやって、全ての艦艇の攻撃力を奪っておいて、発動したコーデリア3世だけが攻撃可能なのである。いわば、反撃の機会を全て奪っておいて一方的に殴るのに等しい。魔力シールドも吸収されるから、攻撃される方は装甲のみの耐久力で防ぐしかないのだ。
さすがにそれだと、無敵すぎるのでその効果はほんの数十秒に過ぎないけれども、デストリガーの無効化についてはなんの問題もない。これだと、平四郎のコネクトすら無効化できるのである。
(まあ、使わなくても99%、わたくしの勝ちですが……)
マリーもデストリガーが使えれば、100%勝利確実であるのだが、あいにく封印中で、代わりに主砲の集中砲火で代用するつもりだ。まず、最初の一撃でレーヴァテインの装甲を吹き飛ばし、二回目でその船体に致命的な打撃を与え、最後に沈めるのだ。
そして、その瞬間が近づいてきた。
「マリー様。第5魔法艦隊の戦力はほぼ失われました。第4公女リリム様の巡洋艦コルネット戦闘不能で降伏。第2公女リメルダ様のブルーピクシーも被害大でサンビンセンテに不時着後、投降」
副官のシャルロッテ少尉が状況を報告する。サテライトアイをもつマリーには確認の意味でしかないが、それでも完璧なマリーは報告させることで確実に次の一手を打つことにしていた。彼女には油断という文字はない。
「マリー様、レーヴァテインが出てきます」
「いよいよ、フィナーレ。粛々と行いなさい」
そうマリーは冷静に命じた。無論マリーを補佐するシャルル少佐も有能な青年だ。最後まで手を抜かない。もはやレーヴァテインに起死回生の手段はないと思いつつも、着実に考えられることは全て行っていた。
レーヴァテインとそれを護衛する駆逐艦が、苦し紛れに螺旋の輪舞曲から抜け出てきた。待ち構えている戦列艦コーデリアの前にである。コーデリアの有効射程距離内である。これまで3度のパンティオン・ジャッジを勝ち抜き、奇跡を起こしてきた高速巡洋艦が視界に入る。流麗で美しいシルエットと巡洋艦の性能をはるかに凌駕した性能は、異世界から来たマイスターによるものである。
「レーヴァテインのデストリガー発射準備を確認」
オペレーターがそう叫ぶ。起死回生を狙ってきたと思ったのだ。だが、マリーもシャルルもそれは想定内であった。
「やはり、それしかないでしょう。わたくしがフィンでもデストリガーを使います」
マリーはある意味ほっとしていた。自分が道義的責任を取ってデストリガーを使わないと宣言したことで、第5魔法艦隊もそれを気にして使わないのでは本末転倒であったからだ。勝利のためにはベストを尽くすのがマリーの心情だったが、アンフェアだからといって使わないという心情も理解はできた。幼少の頃、フィンと一緒に異世界に留学した時に知った「武士道」という概念に通じるものだ。
「レーヴァテイン、デストリガー発射を確認。バーニングストライク、来ます!」
「これで終わりです!」
「全主砲、目標第5魔法艦隊旗艦レーヴァテイン」
艦長のシャルルがそう鋭く命じる。マリーの魔力を借りて発射するトドメにつながる重要な一手を放つのだ。
「魔法弾、ディサーマメント撃て!」
マリーは艦橋から見える敵旗艦、レーヴァテインを遠くに見た。これを破壊すれば、パンティオン・ジャッジの勝者、この魔法王国メイフィアの代表となる。コーデリア3世から発射された攻撃無効空間が、強大なエネルギーであるデストリガーをかき消した。
「ジ・エンド!」
マリーの命令と共に、コーデリア3世から一斉に撃たれた魔法弾は、レーヴァテインに向かっていく。魔法シールドさえ奪われたレーヴァテインは、最初の着弾で装甲が破壊される。それでも天才マイスターの平四郎が持てる力をすべて使って強化していたため、コーデリアの強力な攻撃を一度だけ耐えることができた。だが、艦内にはすさまじい振動と大きな揺れで、艦橋のフィン以下の乗組員は、必死にしがみついて体を支えないといけなかった。主砲も副砲も吹き飛び、攻撃手段は全て奪われた。
「レーヴァテイン、沈黙しました」
「シャルル艦長、降伏の白旗は上がっていますか?」
「いえ、確認できません」
「一度だけ、猶予します。降伏勧告しなさい」
マリーは一度だけ、レーヴァテインへ降伏を勧める通信を送った。これは油断ではない。想定内の行動である。第5魔法艦隊はレーヴァテイン以外の戦力はほぼ壊滅であり、大勢は決していた。旗艦レーヴァテインを撃沈するか、降伏させれば完勝が決定する。
「レーヴァテイン出ます」
「フィン、もう十分でしょう。降伏しなさい。あなたがたはよく戦いました。これからは、わたくしの下で戦いなさい」
マリーはモニターに出たフィンにそう告げた。これまでの第5魔法艦隊の戦いぶりは見事であった。特に異世界の勇者である東郷平四郎の力は今後の他国とのパンティオン・ジャッジやドラゴンとの戦いには不可欠である。是非、自分のモノにしたいとマリーは思っていた。
だが、マリーはフィンの表情が明るいことに違和感をもった。戦いに負けた提督の顔ではない。艦橋は煙が上がって、フィンの美しい顔もススでちょっと黒かったけれども、その目の輝きは敗者のものではななかった。
「マリー様。わたしたちは降伏しませんです」
「残念ね。では、こちらも手は抜きません」
マリーは異変に気づいた。フィンと副官のミート少尉は艦橋に映っていたが、もっとも興味ある異世界の男がいないのだ。
「マリー様。平四郎くんからの伝言です」
「フィン、何ですか?」
「激アツ行っとこうかだそうです」
プチっと映像が切れた。レーヴァテインの通信システムが壊れたのであろう。マリーはため息をついたが、情に流されることはなかった。
「激アツ? 何ですの? まあ、いいでしょう。本当にこれで終りね。よく頑張りました。次で仕留めます。全砲門、よく狙いなさい!」
「ターゲット、敵旗艦レーヴァテイン。全砲門ロック完了」
「よし、撃ててええええええっ……」
マリーの勝利への命令がなされた。




