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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
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第20話 VS第1魔法艦隊 ~サンビンセンテ空中戦(2)

 1ヶ月が経った。平四郎の驚異的な作業量と設計士アンナの能力で、レーヴァテインは強化された。高速巡洋艦の機動性は損なわず、火力は戦列艦並みの45インチバスター砲3門を装備。さらにデストリガーを撃てる砲門を装備した。


 大きさは戦列艦には劣るものの、ここまで勝ち上がってきた艦隊の旗艦にふさわしい性能になっていた。さらに平四郎はルキアとクリオがかき集めてきたパーツをフル活用し、これまで手にれた船の修理を完璧に終えることができた。第4、第3、第2魔法艦隊を吸収し、手にれた賞金によって買い足した中古の巡洋艦や駆逐艦を加えて23隻という大艦隊になっていた。


 現在、第5魔法艦隊は設定された戦場であるサンビンセンテ島沖を目指して航行している。パンティオン・ジャッジの決勝戦の戦場は双方が選べないのだ。信託によって古来から戦場として選ばれた77の場所から設定されるのだ。

 

 その戦場に向かっている第5魔法艦隊の陣容は次のようであった。


戦列艦 4隻

オーバーロード フレイア  ハースニール  カシナート


巡洋艦 6隻

レーヴァテイン(旗艦)ブルーピクシー コルネット ブラウニーズ ドライアド  ユグドラシル 


駆逐艦 13隻

ウルド スクルド ベルダンディ 以下10隻


 ちなみに、第2魔法艦隊を撃破したことで、第2魔法艦隊所属の乗組員が第5魔法艦隊に残ってくれたことで、ウルド、スクルド、ベルダンディ以外の艦船は有人艦となっている。フィンの命令で各艦の艦長が全力で戦うはずだ。艦隊運用もこの準備期間の間に演習を重ねてきたので十分とは言えないまでも、なんと艦隊として動かせるようになっていた。


 23隻もの艦隊を指揮する以上、提督であるフィンが座乗する旗艦を戦列艦にしてはどうかという意見も根強くあったが、フィンはかたくなにレーヴァテインにこだわり、今回もこの使い慣れた高速巡洋艦で指揮をとることになっていた。


 対する第1公女マリーが指揮する第1魔法艦隊は、戦列艦6隻を中心とした総数27隻と第5魔法艦隊を若干上回る数であった。内訳は、


戦列艦 6隻

コーデリアⅢ世(旗艦) オーフェリア ガートルード クローディアス

デスデモーナ オーベロン


巡洋艦 9隻

ナイトメア ヘブンズゲイト グリモア パンドラ メイズ ブルックシールズ

バルボア マルセーズ コーンウォール


駆逐艦 11隻

レイス ファントム F 以下11隻


 旗艦を守備する巡洋艦ナイトメアとレイス、ファントム、Fの4隻が無人艦であった。


 全体の数、特に戦列艦が多いマリーの艦隊が有利とみる者もいたが、マリーは旗艦のデストリガーを封印していた。これはかなりのハンディである。そうなると、これまで3個艦隊と戦い、激戦を制した上に今回の改造で旗艦がデストリガーを使用できるフィン艦隊を有利とする意見もあり、どちらが勝つかは神のみぞ知るという状況であった。


 戦場となるサンビンセンテ空域は、パンティオン・ジャッジ監視委員会が厳正な抽選によって設定した戦場で、どちらにも有利とはいえない正々堂々と戦える場所であった。この戦場の特徴は中央に周囲がおよそ600キロにも及ぶ浮遊島であるサンビンセンテを中心に広がっている空間である。サンビンセンテは、地表が硬い岩ばかりできた無人島であり、島の中央にある広大な山脈地帯が危険空域である腐食雲ディープクラウドに広く覆われており、浮遊島の上空を飛ぶことは不可能であった。さらにサンビンセンテの下にも分厚い腐食雲が覆っていた。


 フィンを中心とする第5魔法艦隊の幹部は、旗艦レーヴァテインに集まって軍議をしていた。提督のフィンに副官のミート少尉、艦長兼マイスターの平四郎に攻撃担当士官のナセル、平四郎の従者のトラ吉、友軍で参加しているリメルダとその副官のナアムである。


「つまり、この戦いは3Dではなくて2Dの戦いになるってわけですにゃ、平四郎の旦那」


 平四郎の作戦マップを見ながら、トラ吉が感想を述べた。上と下が使えないので立体的な戦いができないという意味だろう。


 サンビンセンテの南に布陣した第5魔法艦隊は、その1日後に北に布陣した第1魔法艦隊と相対した。戦場の特殊性と互いの距離がかなり離れているので、情報収集に手間取り、互いに動けないでいた。


 そして、マリーの艦隊とフィンの艦隊は、島をはさんでもう2日間にらみ合っていたのだ。平四郎としても、どうやって戦うか、実はまだ決断できないでいた。


「普通に考えるならば、全艦隊で右回りか、左回りをして戦いに突入という流れだろうが、こちらは若干、数が少ないからこちらから仕掛けるとなると不利だね」


 そう平四郎は一般的なことを話した。かといって、艦隊を二手に分けるのは戦力の分断という意味で下策であった。


「一番いい形が、敵艦隊の進行する方向を逆回りして、背後を襲う形で戦えればかなり有利になるな」


 そうナセルが指で艦隊を動かし、シミュレーションする。だが、そのためには、敵の動きを早めに察知し、気づかれないうちに行動することが求められる。


「では、索敵をしっかり行い、敵の動きをいち早く知ることです。平四郎くん、そのための案はあるですか?」


 フィンがめずらしく口を開いた。思えば、最初の戦いの時から平四郎に頼りきりだった


 けれど、3度の戦いを経て彼女もたくましくなったようだ。平四郎はそんなフィンを微笑ましく見ていた。フィンとは結婚の約束をしている。フィンの両親にも認められている。この決勝戦に勝てば、めでたく、結婚という流れに乗っている。


「リメルダのブルーピクシーは探知能力に優れているから、できるだけ、島の中央に移動して、敵艦隊の動きを広い範囲で調べて欲しい。護衛に駆逐艦を2隻付けるので、サンビンセンテのこのポイントに移動」


 そう平四郎は位置を示した。そこだと強力な魔法探知システムを搭載しているブルーピクシーの索敵範囲が妨害されないで、最大に活かすことができた。敵が時計回りだろうが、左周りだろうが、動けば情報が分かるのである。もちろん、それだけでは、十分ではないと思うので、武器屋のクリオが見つけてくれた小型のガンシップ(一人用)しかも、ケットシー専用の機体を確保していた。(もちろん、中古品だ。廃品をタダ同然でもらって平四郎が直した)それにトラ吉が乗り、敵艦隊の動きを直に探るのだ。


 いわゆる偵察用の飛行機である。大きさは全長4m、幅1.5m、高さ1.2mと超小型でアンチ魔法バリアまで搭載しているので、偵察にはもってこいであった。


「了解、平四郎。いい情報をもってくるわ」

「姫様、行きましょう。ジュラ……と、トラ吉も気をつけてよ」


「分かってるにゃ、ナアム。それじゃ、旦那、ちょっと行ってきますにゃ」

「3人とも頼む」


 リメルダとナアム、トラ吉がレーヴァテインからそれぞれの役割を果たしに出発した。リメルダのブルーピクシーと護衛の駆逐艦が移動する。トラ吉のガンシップも飛び立った。


「皆さん、行っちゃいましたね」


 ポツリとフィンがさみそうに言った。みんなと言っても、トラ吉とリメルダが出撃しただけで、後の乗組員は準備に忙殺されている。暇なのはフィンと平四郎くらいなものだ。命令する方は準備段階ではやることがない。


「フィンちゃん、いよいよ決勝戦だね」

「ハイです」

「これに勝てば、僕たちは結婚するんだよね」

「は、はい。平四郎くん、不束者ですがよろしくお願いします」

「フィンちゃん、その台詞はまだ早いよ」

「そ、そうですね。わたしったら、一体何を……」


 そんな会話をしていた平四郎に急にカップに入ったお茶が差し出された。思わず、湯気が立っているその湯呑を見る。


「提督閣下、艦長閣下、お茶でございます」


 平四郎はてっきり、アマンダさんだと思ったが、声に違和感があるでそのメイドの顔を見てぎょっとした。


「ロ、ローザさん?」


 フィンも驚いて、手にとったカップを少し傾けてお茶がツツツ……と一筋溢れている。ミート少尉は大きな口を開けているし、ナセルはお茶を吹き出していた。


 前回の戦いのお仕置きで、レーヴァテインのメイドになったローザ・ベルモントである。大財閥たる令嬢が地味なメイド服に身を包み、丁寧な口調で給仕をしているのだ。


 平四郎の問いにローザは答えず、フィンがこぼしたお茶を跪いてふいている。この2ヶ月間、アマンダさんにメイドの教育を受けていたと聞くが、あの傲慢で高飛車なローザが完全なご奉仕する側に変身している。

 

 アマンダさんと使いゼパルとベパルも他の乗組員にお茶を出している。アマンダさんは、給仕しつつ、ちらりとローザの仕事ぶりを見ている。昨日までアマンダさんの厳しい教育があり、今日から実地練習ということらしい。どうやったら、あのローザをここまで躾けられるのだ?


(ある意味、こわ~っ。アマンダさん)


 アマンダさんはニッコリと微笑んだ。無論、空気を読まず、フィンと平四郎の会話に割って入った形のローザは、後でアマンダさんに厳しい教育を受けることになるのだが。


アマンダさん、怖!

どんな鬼教官なんだ?

 

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