第3話 第5魔法艦隊はボンビーです(4)
前回の100人のレベル1より、一人の100レベルの方が上だと書きましたが、アドミラルでは感想で「100人の方が強い」と言われました。そうなのかなあ? ストーム系の攻撃魔法で100人一瞬のような気がするのですが。
ご意見お待ちしてます。(本編とは関係ありませんがw)
2年が経ったある時、ミートがため息をついて歩いているのを見つけたナセルはいつもの通り、声をかけた。士官学校の廊下である。
「何か悩みでもあるのかな? 俺のおっぱいたん」
ドカッっとパンチが腹にめり込む。
「おっぱいゆーな!」
「うっ……。子猫ちゃんというつもりだったんだよ」
「ふう……」
「また、ため息を……」
「先輩には関係ない」
「関係なくないよ~。可愛い後輩のためなら俺は死ねる」
「はあ? 冗談は顔だけにしてよ」
「そんなことないよ~」
ミートはナセルの顔をちらりと見たが、全く期待していない顔だった。それでも、このチャラい男に話してみようと思ったのは、よほど困っていたのであろう。彼女からしてみれば、誰かに話してストレスを発散させようと思った程度の気まぐれでしかなかった。
「第5魔法艦隊」
「は?」
「第5魔法艦隊に所属する人材を探しているのよ」
「第5魔法艦隊って、公女様の艦隊」
「そうよ。だから、男のあんたにゃ関係ない。それとも死ぬ覚悟で参加する?あんたの射撃能力だけは認めるけどね。死にたくないでしょ?」
「は、はい!」
「はい。これでおしまい。とっと帰った」
だが、ナセルは行こうとするミートの右上腕を掴んだ。ナセルの方が上背はあるし、いくら強気とはいえ、ミートは女の子だ。男の力に体の自由が奪われた。
ドン! っとナセルはミートを壁に押し付けた。
「(はい)というのは、(死ぬ覚悟で参加する?)に対して。俺は参加するぞ」
「冗談でしょ?」
「冗談じゃないぜ。ミート、お前のためならこの命、いつでも捧げる」
「あんた、ドラゴンのメンズキル怖くないの?」
「こ、怖くない……」
正直、ちょっとだけナセルはビビっていた。ドラゴンでもLクラスと呼ばれる巨大なものはメンズキルという特殊な攻撃を行う。これは人間種の男に対して効果がある音波攻撃で、結構な確率で心臓を止めるというのだ。そのために将来、ドラゴンの巨大種を倒す任務が与えられる公女率いる魔法艦隊の乗組員は女性が務めるのが常識とされた。
「ビビってるわね。強がりは言わないの。シャレにならないわよ」
「いや! 俺はやる。ミートにスカウトされて断るわけにはいかない」
「スカウトしてないよ」
「(死ぬ覚悟で参加する?)と問われた。これは俺に対するスカウトだ」
「先輩のことだから、学校がつまらないから艦隊に参加したいとかでしょ」
「俺を見くびるな! ミート!」
ナセルはミートの目を射抜くように見つめる。ナセルの方が背が高いから、必然的に見下ろす形になる。それをキッと上目遣いでにらむミート。
「この世界を守るためさ。今は平和のように見えるこの世界が悪夢に変わることを俺も理解している。この世界に暮らす人々のために俺はこの命を差し出す覚悟がある」
(決まった!)とナセルは思った。これでミートはメロメロになる。ナンパ師を自称するナセルはそう確信した。ナンパ師といってもこれまで成功したことがないのだが。
「ふーん。先輩にしちゃいいこというじゃない。それで本音は?」
「本音?」
ミートはさりげなく制服の上ボタンを外した。ゆさっと胸が下がり、魅惑の谷間が顕になる。思わず目がクギ付けになるナセル。
「艦隊に入って、勝利の暁にはそのおっぱいに顔をうずめたい~っ!」
ドカッ! ミートの太ももがナセルの股間に直撃した。思わず身悶えてその場に崩れるナセル。
「それが本音か~っ!」
「ナセル。君、スカウトされてないじゃん。その話を聞くと」
「そうかなあ。まあ、それでも粘り勝ちで今の地位を確保してるわけだ。俺は簡単にはあきらめないのだ」
「しかし、メンズキルか……。恐ろしい攻撃だね。魔法艦隊が女性だけという理由が分かったよ」
「まあ、それを恐れない俺のような男もいるから、全くいないわけじゃないが。Lクラス以上と戦う艦隊は女だけということになる。ああ、ちなみにお前は心配しなくてもいい。異世界から来た勇者にはメンズキルは効かないらしいから」
「そうなのか?」
「……そう言われているって聞いたけど。どうだったかなあ?」
(おいおい、そこが大事だろ!)
後の乗組員については、プリムちゃんとパリムちゃんはフィンの学校の後輩で部活つながりで入隊したそうだし、アマンダさんは先祖代々、フィンの家に仕えるメイドさんとのことであった。フィンの家はそんなに裕福ではないのだが、そこは伝統ある貴族階級。メイドさんの一人や二人くらいは雇う余裕はあるようだ。
そうこうするうちに、二人はパークレーンのエアドックに到着した。そこには平四郎が大好きな空中武装艦が係留されている。平四郎は息をするのも忘れくるくらい、第5魔法艦隊の旗艦を見つめた。流線型の船体は通常の帆船型の武装艦とは違い、船というよりロケットのような形状だ。
「レーヴァテイン……いい船だ」
ナセルと一通り見て回った平四郎はそう感想を持った。装備された武装は平凡で他の艦隊と比べれば火力不足は明らかであったが、平四郎が注目したのはその機動力とカスタマイズしやすい構造をもっている点であった。武装はパーツごとに着脱が容易で、攻撃パターンにバリエーションを持たせることが可能であった。それは対する敵の特性に合わせることができるということである。既に完成された戦列艦に比べて成長が期待できる船だといっていい。
主要武装は主砲の35インチバスター砲であるが、一応、改造を加えられていて魔法レベルはレベル7まで撃てるようにはなっていた。
「そんなものかな。火力で押し切ったほうが楽だけどなあ」
ナセルは平四郎がベタ褒めするので、意外そうな顔でそう言った。ナセルは攻撃担当士官であるから、火力の弱さは不満であった。だが、平四郎はそんなナセルの不満を解消するように解説していく。
「火力に頼る船は魔力エネルギーコストの問題に直面する。火力が大きいイコール燃費が悪いのさ。すぐに撃てなくなる。それにいくら火力があっても当たらなきゃ意味ないさ。正確な射撃は射手の腕もあるけど、船の整備状況にも関わってくるから。狙っても精密さに欠ければあたらない」
「まあ、それは分かるけどな」
「えーっと。とりあえず、明日の試験飛行用に軽くカスタマイズしておこう。装備を載せ替えるだけならいいだろう?」
「ああ。マイスターのお前がそういえば、ミートやフィン提督の許可は後でいいだろう」
「よーし。ルキアに連絡っと……」
平四郎は端末を取り出した。魔力バッテリーを搭載したいわゆる携帯電話である。平四郎のように魔力が0の人間でも使える便利グッズだ。
「ああ、もしもし? ルキア? 平四郎だけど。至急、エアドックに機雷ユニット2基。ミサイルポッド1基。あと、加速用ウィンドセイル、ああ、折りたたみ用の奴。廃艦の部品の中にあったろう。多少修理が必要だけど使える」
てきぱきと指示を出す平四郎。やがて、ルキアがパーツを持ってくると早速、取り付け作業に移る。エアドックの作業員に命じてあれよあれよという間に取り付けてしまった。自分も工具を持って自ら作業に取り掛かる。わずか二時間ほどで軽い改造と称する作業が終わる。
軽いと言っても火力は改造前よりも20%は上がっており、これは攻撃担当のナセルにとっては嬉しいことであった。だが、平四郎は全く満足していない。次から次へとアイデアが浮かんでくる。レーヴァテインは平四郎のマイスターとしての魂を揺さぶる船であった。
「これはイジリがいがある。ナセル、いいねえ……。実にいい」
まだ、設計図に赤鉛筆で改造プランを書きまくる平四郎をナセルが無理やり止めさせなかったら、約束の4時に遅れるところであった。