第19話 VS第2魔法艦隊 ~ローデンブルク湿地戦(5)
第2魔法艦隊戦終結。オリジナルの話で疲れたびいいいっ。
明日からはストックがあるので楽になるかなあ?
「姫様、第5魔法艦隊、所在不明」
「イージス艦の索敵能力すらゼロにするの? ミラーとステルス、確かに侮れないわね。普通に使われたら幽霊みたいで不気味だわ。だけど、私はそれを魔法の力だと知っている。船全体を鏡にして、空に溶け込むことで視覚から逃れるただのまやかし。私の幻惑も同じだけど、ひとつだけ違うことがある」
リメルダは指を差した。第5魔法艦隊がいると思われるエリア全体にだ。リメルダは機械の国タウルン共和国の武器市場で、あの中古空中武装艦ディーラーの跡取り息子クリオに購入依頼をした武装を使うように命じた。旗艦ブルーピクシー以下、3隻の駆逐艦にそれは積まれていた。
「これでミラーの効果は失われる。ペイント弾、スプレッド発射!」
リメルダがそう命じると全艦艇の砲門からペイント弾が撃たれる。それは撃ち出されると散弾の如く広がり、細かい粒がシャワーのように降り注ぐ。かなりの範囲のエリアを覆うペイント弾の雨。これには破壊効果はない。だが、わずかでも当たると弾が潰れて着色されるのだ。
「大変でおじゃる! ミラーの効果がなくなるでおじゃる!」
パリムちゃんがそう報告する。彼女の報告を待つまでもなく、レーヴァテインの傍にいる護衛駆逐艦がペイントされて、ところどころに目印が付けられてしまった。ミラーは艦体すべてを鏡面化し、周りの景色を映すことで視覚効果を失わせるのである。その鏡面部分に不自然な色が付けられれば、そこに船が飛んでいることが分かってしまう。細かい着色の粒を受けて、どの艦艇も不自然な色のマーカーを付けられてしまった。これでは、いくらレーダーを阻害するステル効果があっても意味がない。
「大変ですううううう。第2魔法艦隊の攻撃で駆逐艦1隻炎上ですうううう」
「平四郎、これでは作戦が実行できないよ」
「プリムちゃん、ミート少尉落ち着いて」
平四郎はそう2人を落ち着かせる。リメルダの幻惑攻撃によって、次々と被害を受けている第5魔法艦隊であるが、平四郎には奥の手があった。
「フィンちゃん、駆逐艦の操作できるよね」
「ハイです」
「2隻を下降させて例のものを散布して」
「分かりましたです」
「旦那、ここでやるだにゃか」
「ああ……。リメルダはさすがだよ。使わなくても勝てればよいと思ったけれど、僕は負けるわけにはいかない」
「あの貴族のお姫様。驚くにゃ」
フィンは見えない第2魔法艦隊と交戦する中、2隻の駆逐艦を下降させた。ローデンベルク湿地帯の表面近くである。この2艦は平四郎によって特別に改造されていた。艦内に大きな燃料タンクを抱えさせ、そこに可燃の液体を満載したのだ。動くガソリンタンク状態なのだ。その2艦はそれを地面に撒き散らす。
「戦列艦オーバーロード戦闘不可能。健在なのはレーヴァテインを含めて、駆逐艦2、リリム提督の巡洋艦コルネットは反撃していますが、徐々に押されています。このままでは……」
第5魔法艦隊は見えないリメルダ艦隊に対して、全方向に弾幕を張り、近づけさせないようにしているが、その間隙をぬってリメルダは忍び寄り、次々とアシッドバブルを命中させていく。もし、彼女に強力な火力をもつ戦列艦があったら、もっと早くに勝負がついただろう。火力が低い船でチマチマと防御力を削った上で破壊するしかないため、時間がかかった。そこに第5魔法艦隊の付け入る隙があったのだ。
「平四郎くん、駆逐艦2隻、準備完了」
「旦那、こっちのターンだにゃ」
「ああ……行くよ、フィンちゃん!」
「ハイです」
「さあ、激アツ行っとこうか!」
平四郎とフィンの間に再び、コネクトが成立する。平四郎の瞳が金色に変化する。
「ナセルさん、下降に向けてナパームボムレベル10連続発射です」
フィンの命令が艦内に響く。ナセルがためらわず、ボタンを押す。レーヴァテインから地面に向かって火炎系のナパームボムという魔法弾が放たれた。これは着弾後、火炎が広範囲に広がり、相手にダメージを与えるものだ。今の場合、地面に当たって燃え広がる。
地面には広範囲に可燃燃料がまかれていた。それに当然、引火する。
「姫様、レーヴァテインまであと10秒で射程距離です」
「ふふふ……。これで終わりよ。平四郎、ここで私に負けなさい。ナアム、アシッドバブルレベル10。レーヴァテインにぶつけるわよ」
ブルーピクシーの艦橋でリメルダが勝利を確信したとき、不意に艦が大きく揺れた。幻惑の魔法でレーヴァテインに近づいてきた第2魔法艦隊全艦艇が揺れた。
「レーヴァテイン、地面にナパームボムを発射した模様」
(な、なんで、地面なんかに?)
リメルダが不思議に思った瞬間に地面がオレンジ色に変わった。大爆発とともに、火炎が空中の自分たちのところまで登ってくる。地面から吹き出すガスは難燃性であったが、温度が上がると火がつく。引火したガスが炎の柱となって燃え上がる。
「はははん……。考えたわね。炎の柱で攻撃するとか考えたんでしょうけど……」
炎の柱があちらこちらで上がる。自分たちが見えないのでガスに引火させて攻撃しようと思ったのだろうが、そんな攻撃は当たらないとリメルダは思った。
(でも……。平四郎がそんな運に任せたようなことするだろうか?)
「姫様、気流が!」
「気流ですって!」
ものすごい上昇気流が発生した。熱によって空気が温められ上昇する。小学校の理科で習う現象だ。今、それが大規模に再現されている。
船が揺れる。まるで荒れ狂う海の中に浮かぶ一枚の葉っぱのように。それでもブルーピクシーは立て直した。リメルダがお金と人脈で集めた優れたスタッフのおかげであろう。だが、リメルダが操作していた残りの駆逐艦2隻は制御不能になって上空に巻き上げられて、ディープクラウド内に突っ込んで失われてしまった。
だが、平四郎の狙いは他にあった。それをリメルダはすぐ知ることになる。
「姫様! ガスが消えました」
「な、なんですって!」
そうローデンブルク湿地帯にまとわりついていた霧状のガスが吹き飛び、視界がクリアになった。それはリメルダの幻惑の効果が著しく低下した。リメルダの魔法効果によるミラー効果はこの視界が悪い戦場だからこそだ。
「姫様、レーヴァテイン目の前です」
「全砲門撃て!」
リメルダはそう命令した。ブルーピクシーの主砲から魔法弾が放たれる。だが、元々、ブルーピクシーは巡洋艦であり、武装も弱かった。それに比べてレーヴァテインは同じ巡洋艦でも主砲は戦列艦クラスのものに変えられており、その攻撃力はブルーピクシーをはるかに超えていた。
そしてレーヴァテインは平四郎とフィンのコネクト効果で強力な防御シールドを構築していた。いくら至近距離でも巡洋艦の主砲では撃ちぬけない。逆にレーヴァテインの攻撃は、リメルダが必死で防ぐ防御バリアを打ち破り、次々にヒットする。2隻の駆逐艦は爆発して落ちていく。
「姫様、このままでは……。使いますか?」
ナアムがそう放心状態のリメルダに尋ねた。何を使うのかは言わなくても分かっていた。ブルーピクシーに備わる最大の攻撃。デストリガー。リメルダのそれは、ドラゴン相手の場合はハートブレイカー。艦隊に対しては強力な毒攻撃。「バイオ・エレメンタル」腐食ガス弾で相手の船を溶かし破壊する。
だが、ナアムは分かっていた。リメルダは絶対に使わないと……。
「トラ吉、あれを使うぞ!」
「分かったにゃ。ポチッとにゃ」
レーヴァテインに平四郎が取り付けたヘンテコな装備。それは捕鯨に使うモリと鎖がつながれたもの。それが二対。トラ吉が押したボタンで2本のモリがブルーピクシーに突き刺さる。そして、一気に鎖を巻き取ってブルーピクシーを引き寄せる。それは女の子の手首を捕まえて強引に引き寄せ、がっしりと抱きしめる姿に似ていた。
レーヴァテインに捕らえられた格好のリメルダは、レーヴァテインに動画通信を送る。
「さすがね。平四郎、フィンさん」
「リメルダ、君の能力にも驚いたよ。君は強かったよ」
「過去形で言って良いのかしら? なんか私に勝った気でいるようですけど」
「この状態でまだ抵抗するの?」
(ぐっ……)
リメルダは平四郎が意地悪だと感じた。リメルダの口から言わせたいらしい。いつも強気のリメルダにはそれがとても屈辱的に感じるが、平四郎にならいいと思ってしまう自分がいるのにも気づいていた。それでもリメルダは精一杯、健気に抵抗する。
「私がこの距離でデストリガーを使ったらどうするのです?」
「相打ちだね。その場合は僕も君も死ぬ」
(卑怯だ……。この男、卑怯だ……)
プルプルとリメルダは体が震えてくる。モジモジと体を動かす。
(そんなこと私ができないこと……わかってるくせに……)
「リメルダ、やってみる?」
「んん……んんっ…。ぐすっ……。へ、へいしろうの……」
「リメルダ、言ってご覧よ」
リメルダは画面中央の平四郎を見る。レーヴァテインの艦橋が見える。平四郎の後ろにフィンが足を揃えて座り、艦隊の指揮を取っている姿も目に入る。
(私はあそこに座りたかったよ。平四郎と一緒に戦いたかった……)
「へ、へいしろうの~おおおおおおおお」
「ばかあああああああっ~」
リメルダは右手でボタンを叩いた。ブルーピクシーから旗が上がる。白い旗。降伏の印である。
「私の負けです」
リメルダはそう素直に言った。心の中は平四郎でいっぱいである。彼を忘れようと思って仕掛けた戦いだったが、返って忘れられなくなってしまった。
(平四郎のバカ……。やっぱり、私は好き。大好き。寝ても覚めてもあなたが好き)
涙が止まらなくてリメルダは両手で顔を隠して泣いた。優しくナアムがハンカチを差し出し、リメルダの頭を優しく撫でたのだった。




