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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
111/201

幕間 悪い奴には土下座をさせるべし 

土下座というと思い出すのは「半沢直樹」

いけ好かない常務を土下座させたときの爽快感。

気持ちいい~っですうううううう。(プリム談)

「ヴィ、ヴィンセント!」

「庶民が軽々しく僕の名前を呼ぶな。下郎が!」


 ヴィンセント伯爵が私兵を1個小隊。50人程を率いてやってきた。ヴィンセント自身は馬に騎乗している。


「ヴィンセント伯爵。あなたは左遷されてクロービスに蟄居の身じゃないのですか?」


 ミート少尉がそう詰問する。蟄居とは一定期間、屋敷から出てはいけない処分だ。それを無視するとは反逆罪である。


「ふん。王族である僕には法など関係ない。法は君たち庶民を縛り付けるためにあるのだよ。低俗で低脳な連中には、やってはいけないことを教えないとな」


 馬から平四郎を見下ろす目は、まるで虫けらを見下す目であった。最初は1対1で敗れ、次はチンピラ10名で襲わせて返り討ちにあった。今は私設の兵ながら完全武装の1個小隊の兵士がいる。これで負けるわけがないという思いがヴィンセントの言動を尊大にした。


「きゃっ」


 フィンに付けていたボディーガードの男が隙を見て、フィンの腕を掴んだ。引っ張って平四郎から引き離す。ヴィンセントが馬から降りて、フィンの手を取った。


「フィン公女殿下。僕の未来の花嫁」


 そう言ってフィンの手の甲に口づけをしようとする。


バシッ!


 ムチのようにしなやかに手を振り払い、フィンはヴィンセントの頬を叩いた。思わぬ攻撃に1秒固まるヴィンセント。だが、すぐさま、狡猾な表情を浮かべてフィンの手首を掴むと今度はフィンの頬を叩いた。地面に倒れるフィン。ヴィンセントはハンカチを取り出すと、自分の頬に当てた。


「躾のなっていない女だ。結婚したら厳しく躾けないとな。ジルド子爵、娘の教育がなっていないぞ」


 そう言ってヴィンセントはジルドを見る。ジルドはその視線に耐えられず、地面に目を落とす。だが、心は穏やかではない。目の前で娘が殴られて平静でいられる父親はいない。だが、相手は王族に名を連ねる有力者である。兵士も50人も連れていた。これ以上、何かするのは返ってこの場の人間の安全を損ねると思ったのだ。


「は、はっ……ヴィンセント様。よくぞ、おいでになれました」


「うむ。フィンを連れに来た。今日からクロービスの僕の屋敷で行儀見習いをしてもらう」


「おい! てめえ」


 平四郎たちを無視して話を進めるヴィンセントに平四郎は怒りを表した。フィンを殴ったことに対してである。その前の自分を侮辱したこと以上に怒りが頂点に達していた。


「てめえだと! 平四郎、お前はどうやら今の状況が分かっていないようだな。僕が命令すれば50人の兵士が君たちに襲いかかるのだよ。そこの第5魔法艦隊の副官のネーチャンもパーツ屋の娘も危害が及ぶ。今はおとなしく、女がいなくなるのを見るのがお前の仕事だ」


「はあん?」

「平四郎、お前、まだ、この僕にそんなふざけたことを……」


「関係ないね」


 平四郎は両手を握ってポキポキと骨を鳴らした。平四郎の瞳は既に赤くなっている。「コネクト」が発動した状態である。


「この数で勝てると思うなよ。兵士どもこの男を捕えろ!」


「ヴィンセント、よくもフィンちゃんを叩いたな。その報い、土下座で謝罪してもらおう」


「何、ふざけたことを!」

「激アツ、行っとこうか!」


 平四郎が動いたかと思うと、50人の兵士が次々と殴り飛ばされる、銃を構える暇もなくの乱戦である。これでは銃が使えない。そして、一方的に平四郎が殴り倒す。兵士たちは銃で平四郎を殴ろうとするが、それは素早くかわされ、魔力を込めた拳で一発殴られると一撃で気を失うほどの威力なのである。紙細工のようにバタバタと倒される1個小隊。


 それを唖然と見つめるしかないヴィンセント。目の前に起こっていることは夢ではないかと思えるほど、でたらめな光景が映し出されている。そして、最期の兵士が殴り倒されるとヴィンセントはやっと我に返った。


「ば、ばかな……。チンピラじゃない……。プロの一個小隊が……全滅。ありえない。ありえない、こんなことは認めないぞ!」


「お前、現実を見た方がいいぞ。私兵もガードマンも地べたに這いつくばった。次はお前だよ」


 ぐいっとヴィンセント伯爵の襟首を掴むと高々と持ち上げる平四郎。そして、それを思い切っり地面に叩き伏せる。


「馬鹿な、馬鹿な……」


 まだ、うめいているヴィンセント伯爵。その頭を平四郎は踏みつける。


「フィンちゃんに謝れ、この外道が!」


「王族のこの僕に、こんな仕打ちを……」


「関係ないね」


 さらにグイグイと踏みつける平四郎。ヴィンセントの顔は泥に塗れる。そんな鬼のような平四郎の後ろのシャツをフィンが引っ張った。


「平四郎くん、もう許してあげて」

「フィンちゃん」


「私なら大丈夫です」

「だけど、コイツはムカつく。徹底的に痛めつけないと……」


 平四郎が振り返るとフィンが悲しそうな目で見上げた。


「今の平四郎くん……怖いです」

「フィンちゃん……」


 フィンに怖いと言われては平四郎もこれ以上の乱暴を続ける訳にはいかない。やむ無く平四郎はヴィンセントの頭に乗せていた足をどけた。ヴィンセントが転がるようにその場から逃れる。立ち上がり、服の土を払う。見るとまだ兵士どもは転がっている。急所を突かれて動けないのだ。


「ジルド子爵、言ってやれ、お前が言ってやれ。フィンはこの僕に嫁がせると。決定事項だと」


 ヴィンセントは諦めていない。この父親とは話がついている。メイフィアでは娘の結婚は父親の決定が不可欠なのだ。いくら平四郎が強くても父親がダメといえばダメなのだ。


 だが、ジルドは即答しない。ブルブルと体を震わせて葛藤している。だが、そんな彼の足元へ数十枚の写真をばらまいた者がいる。


「旦那、遅れたでにゃ」

「トラ吉!」


 トラ吉は平四郎たちとこのマグナカルタへやってきたのだが、平四郎に命じられてヴィンセント伯爵の監視をしていたのだ。彼がクロービスの屋敷を抜け出して、このマグナカルタへやってきたことも全部わかっていた。さらにトラ吉はラピス記者を通して、ヴィンセント伯爵の悪行の証拠を集めていた。王族の威厳をふりかざして、隠そうともしなかったからそ、それこそたくさんの証拠が手に入った。


 トラ吉がばらまいたのは、ヴィンセントのスキャンダル写真。都での派手な女性遊びの証拠である。ラピス記者がマスコミ各社から手にれたスクープ写真。これまでヴィンセントの圧力で表に出なかった写真である。


 トラ吉はマグナカルタの警察隊も連れてきていた。馬車3台と荷台を引いている馬車が数台ある。


「伯爵様……これはどういうことですか?」


 ジルドがそうヴィンセントに尋ねた。その言葉は冷静なだけにジルドの怒りが込められていることは一目瞭然であった。ジルドはヴィンセントが女性と浮名を流していることは噂では知っていたが、それは彼が独身だからでそれくらいはあるだろうと寛容な気持ちで思っていた。


 だが、フィンを娶りたいと申し出た日に撮された写真もある。その写真の日付を見てジルドは心を決めた。娘が目の前で殴られたことも彼の気持ちに大きな変化を与えた。





「フィンはあなた様の嫁にはしません」

「な、なんだと!」


「これで決まったにゃ……。警察諸君、こいつらを逮捕するにゃ。国法を破った犯罪者だにゃ」


 トラ吉が命令すると警察官たちが次々と逮捕して、荷馬車に乗せていく。ヴィンセントも逮捕された。罪状は蟄居命令違反である。


「覚えとけよ! この恨みは忘れないからな」


 そう捨て台詞を残してヴィンセントは馬車に押し込められた。このあと、クロービスに強制送還であろう。


いい気味だ。

(コイツも一発殴っておけばよかった)


「お父様、平四郎くんとの結婚、認めてくれるです?」

「認めてはいない。まだ、その男を完全に信用したわけじゃないからな」


「あらあら、まあまあ……。あなた、そこは素直に言わないとフィンが可愛そうです」


 そうフォーリナさんがジルドを促す。ジルドは平四郎と視線を合わせないが、それでも平四郎に言葉を発した。


「し、仕方がない。娘を……娘を守ってやって欲しい」

「もちろんです」

 

 平四郎はジルドの手を取った。力強いその手にジルドは視線を上げる。


「任せてください。お父さん」

「お、お父さんではないぞ」


「マリー様に勝つことができたら考えてもいいということだ。誤解するなよ」

「了解です」


「お父様、ありがとう。大好きです」


 ジルドは折れた。あの大人しいフィンがここまで真剣に言うのだ。いつかは嫁に出すつもりではいたが、こんなに早く……という思いはあったが、この世界は間もなく、とてつもない災厄に見舞われる。少しでも強い男に守ってもらうことが娘の幸せと考えるしかない。


 平四郎は無事にフィンを第5魔法艦隊基地のあるパークレーンに連れ帰った。先日から本格化しているレーヴァテインの大改修を行い、リメルダとの戦いに備えるのだ。


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