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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
110/201

幕間 結婚の許しを得るのは男の責任

「全く、あの女ったら、無駄な戦いを仕掛けてきて!」



 レーヴァテインの艦橋で主計官を務めるルキアが、リメルダのことを(あの女)と言って怒っている。まあ、ルキアの怒る理由も分からなくはない。第1魔法艦隊戦に備えて準備していたのに、急遽、第2魔法艦隊と戦うことになったのだ。


出撃するにもお金がかかるのだ。第5魔法艦隊は最初の頃の小艦隊とは違い、今は第3魔法艦隊から奪い取った戦列艦を含む17隻を要する艦隊。動かすだけでも大金が吹き飛ぶ。燃料費も馬鹿にならないのだ。


ただ、今回、人員を十分に集めることができず、また、整備も追いつかなかったこともあって、出撃できるのは戦列艦2、巡洋艦3、駆逐艦5である。7隻が出撃できなかったのは痛いが、相手のリメルダは艦隊の再編途中であったので、それこそ旗艦ブルーピクシーの他は巡洋艦1、駆逐艦4である。戦列艦がないのと、数で第5魔法艦隊に戦力的に劣っていた。


「だけど、こちら側にもメリットはあるよ」


 ミート少尉がこの戦いの意義を話す。相手はこれまでと違い、こちらよりも戦力が少ない。第5魔法艦隊が圧倒的に有利である。戦えば、おそらく勝てるだろう。第2魔法艦隊と戦って勝てば、賞金は5万ダカットである。これは第1魔法艦隊と戦う前に嬉しいボーナスだ。それに急に増えた艦隊の運用を実戦形式で試せるのは大きなメリットだ。


今、ルキアとミート少尉は平四郎とパークレーン経由で合流し、フィンの生まれ故郷マグナカルタに到着した。馬車でフィンの家に向かっているところだ。正式に不正の疑いが晴れて、3人でフィンを迎えに行く途中である。フィンは未だにヴィンセント伯爵の私設ガードマンに監視されており、父親の許可も出てないので家から出られないのだ。それを3人で説得するのだ。

 

ガードマンが抵抗したら、それこそ合法的に平四郎はぶん殴る気でいた。でも、フィンのお父さんは殴るわけにはいかない。平四郎としてはフィンの父親をどう説得するかが、難しい課題ではあったが、避けては通れないものであった。


「それはそうだけど……。あたしが思うに、あの女は手ごわいよ」


 ルキアがぶすっと膨れて窓の外に視線を移す。ルキアの言う(あの女)とは、リメルダのことだ。彼女はリメルダとの戦いに思いを馳せている。ルキアはリメルダを毛嫌いしているようだが、その嫌いな理由が複雑である。フィンがいることで諦めた自分るきあとそれでも果敢にアタックする彼女りめるだ。自分と同じ気持ちなのに正反対の行動をすることにルキアは戸惑っていたのだ。


マグナカルタの町並と往来する人々が目に入る。ルキアの言葉を聞いて、平四郎は対第2魔法艦隊戦を想像した。リメルダの第2魔法艦隊は戦力こそ少ないが、彼女が指揮を取る以上、侮れないと思うのだ。


彼女の艦隊指揮は一流であり、その旗艦ブルーピクシーは巡洋艦ながら、デストリガー装備の最新鋭艦である。油断すれば負ける。


「もうすぐ、フィンの家よ」


 ミート少尉が告げるまでもなく、平四郎も忘れるはずがない。それに門のところにフィン自身が立って馬車を見ているのが見えた。平四郎は思わず窓から顔を出す。最後に会ってから2週間程しか間が空いていないのに、随分と会っていない感じがする。


(この娘ともう離れたくない……一日でも)


 平四郎は強く思った。馬車が止まる。平四郎は馬車から急いで降りた。フィンも駆け寄ってくる。


「へ、へいちろ……」

「フィンちゃん」


 お約束である。でも、そんなフィンが愛おしくて平四郎は思わず抱きしめてしまった。結婚するまで触れてはダメという約束を破ったが、フィンも抵抗しない。


平四郎はそんなフィンをギュッとした。二度と離さない気持ちを込めて。


「ご、ごほん……」


 無心で抱き合う二人は後ろで咳をする中年の男に気がついた。フィンの父親である。その後ろにはフィンの母親であるフォーリナさんが笑顔で立っている。


「フィン、その男から離れなさい」


 ひどく冷たい声だ。これだけでもジルドは平四郎との結婚を認めていないことが分かる。フォーリナとフィンはそんなジルドの態度に落胆の色を隠せない。


「あ、あなた……」

「お父様……」


「わしは反対だ。その男と行けば、その先には幸せなんかない。あるのは殺伐とした戦いだ。お前はヴィンセント伯爵と結婚し、伯爵夫人になるのが一番幸せだ」


「違います。お父様。わたしは平四郎くんのお嫁さんになるのが一番の幸せなんです」

 

 いつも興奮したり、慌てたりすると噛んでしまうフィンが噛まない。噛まずに一気にしゃべった。彼女の決意がジルドにも伝わる。だが、カチンコチン親父の気持ちを帰るまでにはいかなかった。


「馬鹿者! 父のいいつけが聞けないのか!」


 平四郎はフィンの父親、ジルドに力強く一歩踏み出し相対した。フィンを自分の背中に隠すようにする。フィンを守るというアピールだ。


「お父さん!」

「だ、誰がお父さんだ!」


 怒鳴るジルド。だが、平四郎はビビらない。ジルドの目を見つめてそらさない。

ここは正念場。男として退けない局面であることを自覚していた。大好きなフィンのためにも、この父親を説得し、認めさせるのだと強く思った。


「お話があります」

「……」


「フィンちゃんとの結婚を許してください!」

「な、ならん……わしは反対だ」


「どうしてですか! 僕は全力でフィンちゃんを幸せにします」

「な、ならん……。フィンはヴィンセント伯爵様に……」


  そうジルドは迷っていた。ジルドとて人の親である。平四郎との結婚に反対するのは、フィンのことを一番に思ってのことである。パンティオン・ジャッジなどという危ないことはやめて欲しい。そして、今後のことを考えると、王族とのつながりをもったほうが生き残れる確率は高くなるとジルドは思っていた。「竜の災厄」が始まれば、庶民などはみんな犠牲になるしかない。悲しいかな、力の弱いもの程、災害の被害を受けやすいのはどの世界でも同じであろう。


「ふふふふっ。はははっは……」


 平四郎とジルドのやり取りを制する聞きなれた嫌な笑い声が聞こえてきた。あの人を見下したような声である。


あの男か! 性懲りもなく現れる悪役1匹。

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