第3話 第5魔法艦隊はボンビーです(3)
ナセルに案内させて平四郎は空中艦ドックで第5魔法艦隊旗艦レーヴァテインを見た。攻撃重視の戦列艦ではなくて、スピードを生かした高速巡洋艦ということでサイズは一回り小さいとのことだが、平四郎には大きな船に見えた。
「これがフィンちゃんの旗艦……」
「どうだ? マイスターとしての意見は?」
感心して眺める平四郎を見てナセルがそう尋ねた。ここへ来て3ヶ月。いつもドラゴンハンターの小さな砲艦や駆逐艦クラスの船しか見たことのない平四郎には、この船がとても強く見えた。
「普通、パンティオン・ジャッジに出る公女様の旗艦は普通は戦列艦クラスって決まっているらしい。現に他の4艦隊の旗艦は戦列艦だ。しかも最新鋭の」
「フィンちゃん艦隊の他に4つあるのか?」
「ああ、4艦隊ある。知らないのか?」
「うん。僕はこの世界に来てから3ヶ月しか経っていない。バルト親方の工場で籠っていたから、この世界のこともパンティオン・ジャッジのこともそんなに知らないんだ」
「なるほどね。じゃあ、俺が船見ながら少しレクチャーしてやるよ」
そう言ってナセルは他の公女艦隊とパンティオン・ジャッジについて解説した。
パンティオン・ジャッジとは、来るドラゴンとの戦いで指揮するアドミラル(提督)を決める戦いのこと。メイフィアの代表を決めるのが国内予選。勝ち抜くと他の3国家の代表と戦い、勝てばトリスタン代表となる。いわゆる対ドラゴン戦に出場する艦隊を決めるというものなのだ。出場できるのは選ばれし5公女による魔法艦隊である。5人の公女が率いる魔法艦隊が戦うのだ。
人類を滅ぼすという巨大なドラゴンに立ち向かうなら、そんな身内で潰し合いをしていないで、協力して戦えばいいのに……と平四郎は思ったがそんな単純なものではないらしい。ナセルはパンティオン・ジャッジの仕組みをそう例えた。
「いいか、平四郎。レベル1の戦士が100人、ドラゴンに立ち向かっても所詮はレベル1。経験値のない者は屍を晒す。だが、100人の中から戦い勝ち残った者はレベルが上がっている。100人のレベル1より、一人のレベル100が世界を救うものさ」
(そんなものか?)
やはり協力して戦った方がいいのではと思ったが、よくよく考えれば人類の存亡がかかっている戦いだ。だからこそ、国家間の間の主導権争いというのは熾烈を極めるのではないかと思った。大人の事情で協力できないこともあろう。パンティオン・ジャッジというシステムで勝者が世界のリーダーという決まりがあるなら、それがそれで理にかなっているのかもしれない。
このメイフィアでは現在、フィンの第5魔法艦隊の他に第1から第4魔法艦隊が組織され、それぞれ公女が提督として艦隊を率いていることもナセルから聞いた。
「第1公女、マリー・ノインバステン王女だけが生粋の王族で、後の方々は魔力の大きさで国中から選抜された4人の女の子が公女になるんだ。フィンは一応下級貴族のお姫様、まあ、姫というよりお嬢さんだな。お父さんは大学教授というし、5人いる公女様の中じゃ一番のボンビーガールさ」
「ボンビーガール?」
「公女様には一応、艦隊を維持する手当が国から支給されるけど、その額は一律でね。艦隊の規模を大きくするにも優秀な人員を集めるにもお金が必要なのさ。それは公女様の持ち出しということになる」
「持ち出し?」
「貴族のお嬢様とは言え、普通の中流家庭に過ぎないフィン公女にはこの状況は辛い。よって、第5魔法艦隊の司令部はあのボロ旅館で、母港はこの田舎町。人員もフィンの学友ばかりの素人軍団というわけさ。他の艦隊は国軍の軍人をスカウトして配置しているのにな」
「そ、そうなのか」
「これでパンティオン・ジャッジを勝とうなんて絶対無理だと俺は思うけどね」
そう言ってナセルはレーヴァテインを眺める。エアドックに係留されている高速巡洋艦は美しく輝いている。公女に国が旗艦として支給する最新鋭艦である。
「パンティオン・ジャッジは競技的要素が強いとは言え、実戦形式の戦闘だよね」
「ああ。魔法弾が飛び交う戦争さ」
「当たり所が悪ければ死ぬこともあるって聞くけど?」
「ああ。死ぬ危険はある。適わないと思えばさっさと白旗上げればいいけど、直撃喰らえば死ぬだろうね。一応、緊急脱出ポッドで脱出できるけど」
「君たちはフィンちゃんの学友って聞いたけど、そんな命をかけるなんてすごい友情だな」
「うむ。ミートはフィンの親友だからな。幼少の頃から一緒にいる幼馴染だ。あいつは姉さん気質だからな。頼りないフィンを何とかしてやりたい一心だろ」
「確かに。ほとんど、艦隊仕切ってるのあの人だよね」
「あのダイナマイトボディが揺れるたびに、我が艦隊の底力が湧き出るのだ~」
「はいはい。今ので君がこの艦隊に入った理由が分かったよ」
「分かちゃった?」
「要するにミート少尉目的で参加したのが君」
「失敬な! ミート目的じゃねえ。俺はミートにスカウトされたんだ」
「スカウト?」
「ああ。スカウトさ。こう見えても俺は士官学校でも射撃の腕はナンバー1だったんだぜ」
「ふーん」
「何だ、その反応」
「士官学校でナンバー1といったって、実戦経験はあまり豊富じゃなさそうだけど」
「まあ、そうだが、射撃の腕だけは負けないね」
ナセルが説明しだした。親友のフィンが第5公女になることが正式となり、彼女の親友であるミートは力になりたいと士官学校の空中武装艦科に入学したのが15歳の時。その時、3コ上の先輩がナセル。ナセルはミートを一目見て惚れてしまった。まあ、女好きのナセルだから、あっちこっちに目をやりながらのアプローチだから、当然、ミートには思いは伝わらず、何かと殴られるだけだったが。