第19話 VS第2魔法艦隊 ~ローデンブルク湿地戦(1)
リメルダの家に行く平四郎。2回目です。
その頃、平四郎とリメルダはやっとの思いで、魔法王国メイフィアの首都に到着していた。アンドリュー公爵家の馬車(ユニコーン8頭が引く超豪華な馬車だ)に揺られて、先ほど敷地の門をくぐったのだが、15分経ってもまだ屋敷は見えてこない。以前、フィンと一緒に訪れたことはあるが、相変わらずの大金持ちぶりだ。聞けば、自分の屋敷の庭で狩りができるという。
(フィンちゃんの家は、日本でちょっと裕福な家というレベルだったけれど、こっちはワールドクラスのレベルだ。アラブの大富豪かヨーロッパの王族かというレベルだな)
馬車が近づけば近づくほど、平四郎の心の中は萎縮してしまう。リメルダとは友人で付き合っているわけでもなく、今日は仕事でやってきているにも関わらず、平四郎の心は穏やかでない。
(この異世界の馬の骨に娘をやれるわけがない!)
フィンちゃんの親父に怒鳴られたことを思い出して、平四郎の心は暗くなるのであった。
前回はリメルダの父であるアンドリュー公爵は、不在であったたし、リメルダの母親はボランティア活動で他の都市に出向いていていたために会うことはなかった。
「あ、お父様がいるわ!」
馬車の窓から屋敷を見ると多くの使用人と共に正装をした紳士が立っているのが遠目に見えた。平四郎も魔法艦隊旗艦艦長として、メイフィア軍少佐の正装をしている。リメルダは公爵令嬢にふさわしいドレス姿である。リメルダに言われてわざわざ、馬車に乗る前に着替えたのであった。
馬車が止まり、二人が降りるとその父親であるアンドリュー公爵が、そっとリメルダと抱擁をする。
「よく無事に帰ってきた。リメルダ、元気そうでなによりだ」
「お父様もお変わりなく」
「うむ。そして、こちらが平四郎くんか、よくぞ、我が家に来てくれた。先日はせっかくきたもらったのに私が不在で挨拶もできずにすまなかった。。リメルダの父、シャルル・ルイ・アンドリューです」
そう丁寧に話し、右手を差し出して握手を求めて来た。平四郎は恐縮して手を差し出すと、公爵はもう片方の手でギュっと平四郎の手を握った。見た目は中肉中背で銀髪の品のいいおじさんという感じだが、眼光はするどく、このメイフィアで元老院議員を務めている切れ者である。ちなみに年齢は43歳。メイフィア政界の若手のホープだ。
「さあ、どうぞ、お入りください。婿殿」
(え? 今なんていった?この公爵)
ドギマギしている平四郎にさらっと言葉をかけて、公爵は、平四郎を屋敷の中に案内する。案内されるとさらに美しい婦人が待っていた。リメルダの母親である。
「よくいらっしゃいました、平四郎くん。リメルダもお帰り」
「只今、帰りました、お母様」
(リメルダのお母さん? すげえ、美人……しかも、若い! いったい、いくつだよ)
心の中を見透かしたように、リメルダが、
「母は17歳で結婚して、20でわたしを生んだので今年37歳ですよ」
そう教えてくれた。とても37には見えない。
「私も今年に結婚すれば、お母様と同じ年で赤ちゃんを産めるわ。平四郎が望めばだけど……」
リメルダは小さな声で平四郎に言ったが、毎度のごとく聞いちゃいない。母親の後ろに隠れるように可愛い格好をした女の子と男の子、後ろに中学生くらいの男の子と小学生高学年くらいの女の子を見つけて手を振っている。小さい子たちも気さくな平四郎の態度に笑顔を見せた。
「もう! 肝心なところは全然聞いてない!」
「リメルダ、何怒ってるんだよ」
「もういいです! 平四郎、紹介します。こちらが母のアリシア、兄弟が上から弟のレオン15歳。妹のアンヌ12歳、7歳の双子の兄妹、カミーユとアデーレです」
「ヘえ、リメルダって兄妹がたくさんいるんだな」
「あと、お兄様がもうすぐ帰ってくるはずです。国軍に大尉として勤めています」
(ということは、ひい、ふう、みい…と6人? 子ども6人か!アンドリュー公爵家、子沢山だけど、分かるような気がする)
リメルダの母親の美人ぶりを見ていると、お父さんが頑張ってしまうのは分かるような気がする。アンドリュー公爵家は多産系ということか? 母親もリメルダも子供がたくさん産めるとは思えないくらいスレンダーなのであるが。
「お姉さま、この人が結婚する人?」
小さいアデーレがそう聞いてきた。
「お兄ちゃん、後で遊んでよ!」
と同じくカミーユ。
「結婚? お兄ちゃん…?」
(リメルダの奴、既成事実を着々と築き上げている)
「まあまあ、平四郎くんは疲れているのです。あなたたちは、部屋に戻りなさい。今日はお庭でバーベキューパーティをするから!」
そう母親に言われて「わーい!」と弟や妹が騒いで部屋に消えていく。
次に平四郎は部屋に通されて、アンドリュー公爵から事態の収拾について話を聞かされた。実はタウルンからリメルダが父親に事情を話していた。アンドリュー公爵は愛娘の懇願にすぐさま行動を起こし、軍への働きかけとマリアンヌ女王へ報告で一気に解決の方向に向かっているらしい。
マスコミも動いているらしく、ヴィンセント伯爵の陰謀は白日の元にさらされていた。既にマリー第1公女によって、彼は第1魔法艦隊旗艦艦長の職を剥奪されており、クロービスの屋敷に1ヶ月の禁足が命じらていた。
「フィン第5公女の軟禁は既に解かれており、現在は第5魔法艦隊司令部で演習航海の準備をしていると連絡があった。出航は1週間後だそうだ。それまで遠慮はいらない。ここを我が家だと思って、滞在してほしい」
そうアンドリュー公爵が平四郎に言った。
「いや、そんなにお世話には……それに、艦隊の整備がありますし」
レーヴァテインに積み替えるシャインデスプロエンジンの組立と調整作業がある。また、デストリガー用の砲台を設置する大改修も予定していた。半年では時間が足りないくらいだ。クリオに頼んだ対第1魔法艦隊用のパーツはまだ届いていないが、決戦はまだ半年先であるのでその他の艦についても整備をすることができそうだ。
それに、正直言って大貴族の邸宅は居心地が悪いと平四郎は思った。今は気さくに接してくれているが、この国の公爵であり、超上流階級である。同じ貴族といってもフィンの家とは格式が数倍も上である。
「いやいや、遠慮することはない。君はこの世界を守る救世主となる男だ。そんな男に娘を託せるなんて、父親としてこんな嬉しいことはない」
(だーっ!リメルダの奴、どう話せば、こんなに親の気に入るイメージを受け付けられるのだ)
「いや、そんな。僕なんて元いた世界では一般市民だし、自動車整備士で給料安いし、大学出てないし、家族はいないし……家柄なんて、全くないし……」
「確かに、我がアンドリュー家は、先祖代々、王家にお仕えする大貴族だ。だが、500年前は普通の庶民。ドラゴンとの戦いに身を置き、現王家であるノインバステン家を支えた人間に過ぎない。そして、もうすぐ全てがリセットされる時がくる。世界が滅びるかもしれない時に、家柄や地位などというものは意味がないだろう。私は娘の相手には、娘を最後まで守る力がある男と決めているのだ」
(それが自分だというのか?)
「ちょっと買いかぶり過ぎです。僕はフィンちゃ……いや、第5公女に召喚されたに過ぎません」
「だが、君の指揮した戦いは素晴らしいとしか言い様がない。1回戦は、地形を利用した作戦を完璧に指揮し、2回戦は相手の性格を読んだ一種の心理戦。あれを不意打ちだと指摘するものは、戦いが分かっていない素人だろうな。名将とは、戦う前から勝ちを決めることのできる者を言うのだ。君には名将の器がある」
「はあ……」
「リメルダを救ってくれた時から、これはと思っていたが、その後の第3魔法艦隊との戦いをテレビで見て、確信したよ。まあ、出立時間までくつろぎなさい。あ、そうそう。今晩、マリー様が記者会見をなさるそうだ」
「マリー王女が?」
平四郎がマリー王女の記者会見を目にするのは、アンドリュー公爵家の広大な庭でのバーベキューパーティであった。近隣の住民や貴族を呼んだ気さくなものであったが、人数は250人と庶民のバーベキューレベルを超えていたのは、仕方のないことであった。