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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
107/201

幕間 ヴィンセント伯爵、更迭される

ヴィンセント伯爵クビ!

でも、この男は懲りない。

「マリー様。ご依頼の件、調査が終わりました。これが詳しい報告書です」


 そう言って第1公女マリー付きの副官の一人、シャルロッテ少尉が調査ファイルをマリーに手渡した。マリーは現在、母親に願い出て、許可をもらったドラゴン退治を続けている最中であった。その目的は、パンティオン・ジャッジの決勝戦が行われる日まで、十分な経験と修練を積むためであった。


 L級ドラゴンを倒し、一旦、首都クロービスに戻った時に、マリーは自分の腹心であるシャルロッテ少尉に命じて、ある調査をさせていたのだ。


「第5魔法艦隊への妨害工作はやはり、本当のようです。東郷平四郎少佐は現在、逃亡中で行方知れず。第5魔法艦隊の乗組員は監視体制に置かれています。そのため、人員が集まらず、戦いの準備が進んでいません」


 ファイルを受け取ったマリーは、それをじっくり見て、顔を曇らせた。


「せこいというか、あざといというか……。ヴィンセント伯爵のしたことは、パンティオン・ジャッジを汚す行為です。そして、わたくしに対する侮辱とわたくしたち第1魔法艦隊の全体の名誉を汚す行為です」


「はい。その通りです、マリー様」


「何より、許しがたいことは、彼が第1魔法艦隊が敗れると少しでも思っているということです。それにしても、ヴィンセントは軽い男ですが、女性ひとりを手に入れるためにこんな見え見えの無様な行動を取るほど頭は悪くはなかったはずです」


 確かに、マリーの勝利を信じていればやらなくていい工作だ。マリーが勝てば、フィンはヴィンセントのものにすることは合法的に進められることなのだ。まあ、同じ女性であるマリーはその制度自体には賛同できなかったけれど。


「そうなんです。あの男はあれで、カッコつけだけは一人前ですから、あからさまに妨害するのは彼のポリシーには反します。多分、平四郎少佐にぶん殴られて恥をかかされたことを根に持っているのでしょう。そうでなければ、フィン公女にあそこまで執着しません」


「……シャルロッテ少尉。あなた、ずいぶん彼のことを分かっているようね」


「はい、マリー様。あの男には散々もて……じゃなくて」


「はあーっ。どうやらあの男、わたくしの周りの女性もみんなつまみ食いしているようですね。それだけでもわたくしは許しがたいと思っていたのです」


 マリーが真剣な顔でそう言うので、シャルロッテ少尉は慌てた。


「ヴィンセント伯爵がすべての妨害をしたわけではありませんが、彼の意を組んで勝手に妨害をしていた者が何人かいるようです。彼は国軍の中でも発言力がある評議員を兼ねていますから、ご機嫌取りに暴走したということでしょうか」


 そうフォローした。一応、昔の男だからかばったのであるが。


「これから来る未曾有の危機の前に、メイフィア軍の腐敗したところを一掃しないといけないわね。シャルロッテ、すぐ、東郷平四郎少佐の逮捕命令を反故にしなさい」


「はい。しかし、既にアンドリュー公爵様が女王陛下に訴えられまして、今頃は正常に戻っていると思われます」


「リメルダのお父上ね。娘の窮状を知って、動いたのでしょう。彼らも馬鹿ではありません。しかし、準備が遅れてしまったことは事実です。第5魔法艦隊に償う必要がありますね。あと、まだ報告があるのでしょう?」


「はい、実はもう一つ。非常に厄介なことが」


 そう言ってシャルロッテ少尉は新聞の切り抜きを差し出した。大きな見出しが目に入る。


第1魔法艦隊にスキャンダル! 神聖な叩きを汚す悪しき黒幕


現在、パンティオン・ジャッジを勝ち抜いている第5魔法艦隊が思わぬ妨害を受けている。

フィン・アクエリアス提督の軟禁により、訓練のための出航が一度も行われていない。さらに艦隊マイスターである異世界からの勇者、東郷平四郎少佐の逮捕命令。これにより、少佐は行方が分かっていない。さらに補給物資の滞り、人材の確保が妨害されているなど、戦う前からハンディキャップを背負わされているのだ。

その黒幕は第1魔法艦隊の高官であるといわれ、捜査当局が内定を進めている。もし、事実であれば、第1公女であるマリー王女にも疑惑の目が向けられる。


メイフィア・タイムス ラピス・ラズリ記者



「マスコミが動いているのですね。この方、第5魔法艦隊の番記者ですね。確か、第5魔法艦隊の観戦記事を書いて注目されている人ですね」


「マリー様、これは内務省に指示して、止めさせましょうか? メイフィア・タイムスの社長を呼びつけて一言言えば済む問題です」


「シャルロッテ少尉」

「はい」


「あなたはこれ以上、わたくしに恥をかかせるつもりですか?」

「いえ。そんな」


「この件は、マスコミには全てを話して、このわたくし自身が謝罪をします。現実に第5魔法艦隊が迷惑を被っているのは事実ですから。ヴィンセント伯爵を呼んできなさい」


「はっ! 分かりました」



 シャルロッテ少尉が部屋から出ていくと、マリーは小さくつぶやいた。


「ドラゴン退治はこれで終わり。もう少し戦いたかったけれど、クロービスに帰る時が来たようね」


 マリーは提督室に置かれた紙を見る。それにはこう書かれていた。


ドラゴン10番勝負

討伐数7 L級1 M級2 S級4

(志半ばで帰国は残念でなりませんが……)


「マリー様、ヴィンセント艦長をお連れしました」


 シャルロッテ少尉がヴィンセントを伴ってきた。


「シャルロッテ少尉、ご苦労さま。ついでにヴィンセント伯爵の武器を取り上げなさい」


「穏やかじゃないね? マリー」


 ヴィンセントは後ろからシャルロッテに魔法銃を突きつけられて、両手を上げるしかなかった。


「これを見なさい」


 そう言って、マリーはシャルロッテがまとめたファイルをヴィンセントに投げた。ヴィンセントはそれをパラパラとめくる。


「なるほど……。君はフィンちゃんの件を怒っているのか?」


「そうです。この件でわたくしこと、マリー・ノインバステン第1魔法艦隊提督は、ヴィンセント・ノインバステンを旗艦コーデリアⅢ世の艦長を罷免します」


「僕を、この僕をクビだって? この局面で?」

「そうです」


「おーっ! 信じられない」

「当然です」


 マリーが取り付く島もない態度なので、ヴィンセントはマリーの本気度をの高さを感じざるを得ない。


「だが、僕を更迭する理由はなんだ? 何か法を犯したとでもいうのか?」


 と開き直った。


「確かに、あなたがやったことは、フィンの父親に結婚の承諾を得に行ったこと。その時に、国軍や警察、マグナ・カルタ市当局に協力を要請したこと」


「ほら、マリー。僕は何もしていないよ」


「あなたは(僕が勝てるように力を貸してくれ)としか言わなかったと主張したいのでしょう? 上手ですわね。あからさまに第5魔法艦隊を妨害しろと言わないところがあなたらしいけれど、それを聞いた者がどういう態度を取るか、あなたは知っているでしょう!」


「さあね?」

「そしてあなたの最大の罪は、第1魔法艦隊を侮辱した罪」


「侮辱した? 僕が?」


「そう。あなたが直接でないにしろ、圧力をかけて第5魔法艦隊を妨害したことは、第1魔法艦隊全体の品位を貶めました。あなたは第1魔法艦隊が敗れるかもしれないと思ったのでしょう」


「ふふふ……。さすが、完璧なマリーと国民に言われる君らしいや。僕が君の第1魔法艦隊が負けると思って工作したことが罪というわけか」


「正確には、上官及び自軍への侮辱。士気を失わせた罪」


 ヴィンセントは右手を顔に当てて、天井を見上げ、高らかに笑い始めた。


「フハハッハ……。確かに、僕は第1魔法艦隊がひょっとしたら負けると思っている。だってそうだろう。圧倒的な戦力をもっていた2個艦隊が負けたんだ。君の第1魔法艦隊が負けると思うのは不思議じゃない。異世界の男の力も馬鹿にできない。フィン第5公女も侮れない。嫌な予感がするんだよな」


「例え、そうだとしても、あなたをこのまま今の職務に付けることは道義的に許されません。クロービスの屋敷で少し頭を冷やし、ドラゴンとの戦いでは少しでも役に立てるよう精進しておきなさい」


「はいはい」


「シャルロッテ、ヴィンセント艦長はたった今、その職務を失いました。自室に軟禁しなさい」


「はい。マリー様」


 こうしてヴィンセント伯爵は直接の上司である従兄妹のマリー王女によって、職務を解かれ、第1魔法艦隊から追放されることとなったのだ。


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