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GIRLS FLEET ~竜を狩る公女(プリンセス)戦記~   作者: 九重七六八
2巻 パンティオン・ジャッジ メイフィア王国編 2
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第18話 タウルン共和国サザビー行き(5)

 ここは機械族の国タウルンの首都サザビーの武器見本市。大きなドーム型の建物に所狭しと業者のブースが解説され、最新兵器の売り込みや現兵器のセール、中古兵器の売買の商談が行われ大盛況であった。平四郎とリメルダは、ここに顔を出していた。

 

 クロービス行きの船がドラゴン出没の影響で一週間後になってしまったこともあるし、エヴェリーンにあんなことを言われて、二人とも変に意識してしまい、泊まるホテルの部屋は別々だし(当たり前だ)、一緒に行動はするが、会話もなんだかぎこちない。


 しかし、武器見本市をぶらぶらするカップルもおかしなものだ。リメルダは何か興味をもった物があるらしく、少し離れたブースで説明を聞いていた。平四郎は行き交う人をボーッと眺めていると、


「おっ! また会ったな」


 以前聞いたことのある声というより、ごく最近に聞いた声だ。タウルンの代表、エヴェリーン少将である。


(確か、次に会うのは戦場だって……言ったよね? この人)


 かっこいい別れ方をしたのに、当のエヴェリーンは忘れてしまったらしく、しかも、Tシャツに作業用のズボンというラフな格好。お付きの部下のおっさん達も派手な柄のシャツにサングラスとほぼチンピラとヤンキー娘の団体さんだ。この団体が人類の未来を担うパンティオン・ジャッジのタウルン代表だとは、誰も思わないだろう。


「エヴェリーンさん、なぜこんなところに……」


 平四郎はそう尋ねた。魔法族であるメイフィアの住人とは違い、タウルンの住人は魔力を持たないという。自分はここに来るまでは普通の人間であり、どちらかといえば親近感がわくのである。よく見れば、周りの人間は携帯電話らしきもので商談したり、写真撮影をしていたり、計算機を叩いて見積もりを出している。どこか懐かしいのだ。


「なぜって? そりゃ、補給さ……。アタシの艦隊は国軍とは違うからさ。パンティオン・ジャッジで勝ってからは、国軍のお偉いさんだとか、政府の役人がわんさかやって来て、やれ、戦列艦中心の艦隊編成にしろとか、うるさくてね。戦列艦中心の艦隊? ははっ……。笑わせるなっていうの?アタシの潜空艦に歯が立たなかったことを忘れてやがる。金は出してもらうが口は出すなっていうの! とうことで、兵器の買い足し。潜空艦の出物はないかなと思ってぶらついているのさ」


 一気にまくし立てるエヴェリーン。日頃から軍絡みでストレスが溜まっているらしい。


「はあ、そんなもんですか?」


 それにしても、何だか気楽な武器調達方法である。タウルン共和国代表がこんな適当でいいのだろうかと平四郎は思ったが、自分たちの第5魔法艦隊も似たようなものだ。国家の手厚い支援はなく、限られた予算でやりくりしている。もし、ルキアが格安で調達してくる修理パーツとそれを使って難なく修理できる平四郎がいなければ、コストがかさんで出撃できない状態なのだ。


「あんたたちは何、兵器の買い付けに来たの。その割にはボーッと見てるだけ?」


 確かに買いたいものがあってきたわけではない。


「そんなことで、マリー公女の艦隊に勝てるのか? Lクラスのドラゴンを新戦法で討伐したってもっぱらの噂だよ。旗艦のコーデリアⅢ世という戦列艦の防御力がやたら高くて、戦列艦の主砲でも撃ち抜けないというらしい。チートなお姫様だな」


「エヴェリーン少将なら、その第1魔法艦隊にどう戦いを挑みます?」


「おや、いきなりだね。そんなこと聞かれたからって、アタシが話すと思うかい?」


「いや、すいません」


「まあ、いいさ。アタシにはアタシなりの戦術があるのさ。ちょっと、ヒントをやろう。どんなに固い鎧を着ていても、中身は王女様の柔肌さ。ああ、これはエロい意味じゃないから。アタシがいつもセクハラお姉さんだと思ったら大きな間違いだ」


 このお姉さん。普段の言動をセクハラと認識している。一応、大雑把な態度のエヴェリーンもそれなりに考えて行動しているらしい。平四郎は心の中でつぶやいた。


(中身は柔肌か……)


 平四郎の心の中で第1魔法艦隊と戦う方法に小さな光が差した。それが勝利につながるかはまだまだ、か弱い光ではあったが。


「あと、お前らの必殺技……なんだっけ、そうそう、デストリガー。そんなのに頼っていると、足元救われるぞ。特にドラゴンの戦いには……なんてね。魔法族の兵器は少々うらやましくてね。デストリガーなんてチート過ぎるだろ! 普通。アタシたちにもチート兵器はあるけど、使えないんだなこれが……」


「使えないって?」


「ああ。なんだか原理は分からないけれど、一発で百万人が住む都市を一瞬で破壊できるミサイルもある。それなら、例え、Lクラスでも一撃だろうなあ」


「そんな武器があれば使えばいいじゃないか。こんな戦いをする必要なんかなくなる」


「話を聞いてないね。使えないんだよ」


「使えない?」


(あっ……)と平四郎は思った。


(そのミサイルって、核兵器みたいなものか…)


「使えば、ドラゴンは倒せるだろうよ。でも、我々の住処も汚染される。お前は地上を見ただろう。人が住めなくなった大地を。あれはドラゴンがやったことになっているが、アタシは違うと思うな。昔の人間が恐怖に駆られて最終兵器を使ってしまった結果じゃないかと思うんだ」


「……」

「だから、アタシはここで戦うんだ」


 そう言って、自分の頭をツンツンした。戦術で勝つということか……。


「参考になりました。エヴェリーン少将」


「お嬢、約束の時間が……。例の機雷、大量に仕入れた商人が待ってます」

「しーっ! だ。バカもの」


 エヴェリーンが坊主頭の黒サングラスを叱りつける。もしかしたら敵になるかもしれない平四郎に聞かせる話ではなさそうだ。


 平四郎が気を利かせて立ち去ろうとしたが、当のエヴェリーンが再度、呼び止めた。


「なあ、あんた。決勝戦で負けたら、アタシのところに来ないか? アタシのところじゃ、あんたの魔力は役に立たないけど」


「役に立たないのに誘うのですか?」


「このタウルンは、あんたのように異世界から召喚された人間や知らぬ間にここに来てしまった人間が作った国だ。あんたにふさわしい世界はこの機械でできた場所じゃないかなと思っただけさ」


 エヴェリーンのいうことは、平四郎は理解できた。街の様子、人々の様子など元の世界とそっくりであり、どこか懐かしいのはそのせいだろう。もちろん、平四郎のいた日本という国には、目の前のような武器市場などはないのだが。


 それに機械いじりが生きがいの平四郎にとっては、タウルンはその才能を伸ばせる場所に違いない。だが、平四郎には頼りにされている仲間がいる。(フィアンセもいる)


「ありがたい誘いですが……。今はその気にはなりません」

「あの貴族女か?」


「いや、リメルダじゃなくて……」


「なんだ、リメルダちゃんじゃないのか。あの美人を差し置いて、他の女を選ぶとはやるなお前。まあ、いいや。健闘を祈ってやるよ。あの完璧なお姫様マリーに一泡吹かせてくれよ」


 そう言って、エヴェリーンは右手をひらひらさせて去っていた。次に会うのは今度こそ、パンティオン・ジャッジのセミファイナルだろう。平四郎もそっと右手を上げて応えた。



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