第3話 第5魔法艦隊はボンビーです(2)
「これだけの人数で動くんだ。レーヴァテインは空中武装艦の中で最大戦力を持つ戦列艦なんでしょ?」
この三ヶ月でバルト親方に教えられた知識を平四郎は披露した。もっとも攻撃力が高い空中武装艦が戦列艦と呼ばれるバトルシップ。35インチバスター砲を凌駕する45インチバスター砲三連装を最低でも3基は装備する充実した武装をしている船だ。全長も200m~300mを超す大型艦である。それがわずかここにいる7人で動かせるなんて。
「いいや。レーヴァテインは戦列艦級じゃないよ。その下のクラス。巡洋艦さ」
そうナセルが両手を上げてやれやれと言った口調で説明した。言外にそんなことも知らないでマイスターなのかという含みがある。
「仕方ない。平四郎は先程仲間に入ってもらったので、我が艦隊の陣容は知らせてないのだから」
そう言ってミート少尉が補足説明する。第5魔法艦隊は全部で3隻からなる艦隊である。艦隊にしては数が少ないが、その理由はさておいて、陣容は旗艦レーヴァテインが高速巡洋艦という種類の空中武装艦。全長は159m程で戦列艦よりも小さい。武装は35mmバスター砲二連装を2基装備している。戦列艦ほどではないが攻撃力はそこそこある。これに高速駆逐艦が2隻ある。これは護衛艦で無人で動くのだ。司令艦であるレーヴァテインから提督であるフィンが動かすという。旗艦は数隻程度の船は操作ができ、無人艦を指揮するのだ。無人艦は人が乗れば、それはそれで操縦できるのであるが、人員が少なくて船が動かせるのは利点ではある。
「平四郎の入隊で艦隊のメンテナンス等は万全。後はレーヴァテインを手足のように動かせる操舵手をスカウトするだけ。この町に来たのは平四郎のこともあったけど、その操舵手を口説くのも目的なんだ」
そう言うとミート少尉はテーブルの上に写真を置く。国軍の士官服を着た女性が写っている。狼ヘアをカチューシャで止めたワイルドな感じの女性だ。長身で170cmはあるだろう。名前はカレラ・シュテルン中尉という。
「彼女は現在、第8パトロール艦隊所属3番艦の副操舵手を勤めているって情報がありますううう。それで、今日、この町にやってくるですううう」
そう言ってプリムちゃんが調べてきたことを報告する。彼女の情報によると夕方に第8パトロール艦隊がこの町に寄港するらしい。クロービスの軍港がいっぱいでこちらに入港するとのことだ。
「カレラ中尉は士官学校でも操艦技術は伝説に残る腕前だったそうだ。現在は24歳でパトロール艦の副操舵手という地位に甘んじているけど、それは貴族出身ではないから。彼女の技術は私たち第5魔法艦隊にはどうしても欲しい人材」
「ふむ」
「って、平四郎。何だか冷めてるね。フィンの顔を見れるからって、心ここにあらずじゃ困るよ!」
ミート少尉にそうなじられて、平四郎は焦った。確かにフィンのことと船のことは興味があるが、第5魔法艦隊の人材となると興味付順位は低くなる。
「平四郎が整備する艦の能力を引き出すのも、操舵手次第よ」
「そ、そうですね」
平四郎はそう答えたが、現在のところ、自分は何の仕事もしていない。旗艦であるレーヴァテインもまだ見ていないのだ。
「カレラさんとの交渉に行く人員を決めます」
「おー。それはこのレディキラーのナセルにお任せを」
ドカッとミート少尉の蹴りが入る。瞬殺で黙らせる鬼の副官。大人しいフィンではしきれないだろうから、代わりに厳しく管理をしているのだろう。
「フィンは責任者だから来るとして、私とそうだね。平四郎。あなたが来なさい。フィン、平四郎が一緒だからといって今度は逃げないでよ。カレラさんを口説かないと私たちの勝利は絶対ないから」
「わ、わかってるです……」
フィンがそう自信なさげに答える。平四郎もか弱いフィンに魔法艦隊の提督なんて無理じゃないかと思い始めた。でも、誰が見ても無理な状況があっても彼女が提督ということは、やらなくちゃいけないワケがあるのであろう。特にフィンは小学生の頃からそれが運命づけられていたみたいだからだ。
「あの。カレラさんと会うのは夕方からだろ。それまでに船を見に行っていい?」
平四郎はそうミート少尉とフィンに尋ねた。フィンはこの艦隊では一番偉い人だろうし、ミート少尉が実質仕切っているということがこの数十分で理解できた。了解を得るならこの二人だろう。ミート少尉はしばし考える。アマンダの後ろでフィンがモジモジしているのが目に入る。平四郎と一緒に行きたいけど、恥ずかしくて言い出せない雰囲気ありありだ。
(あ~っ! 全くメンドくさい!)
「フィンは付いていかなくていいから。あなたがいないと交渉ができなくなる」
(きゅううううっ……)
ミート少尉に言われて落胆するフィン。一緒に行けと言われれば言われたでどうしようかとモジモジ、ウジウジするに違いないが。そんなことは置いておいて、ミート少尉は腕組みをした。
「う~ん。かといって、プリムとパリムちゃんじゃ平四郎に説明不足になるし……」
「ホイホイ……。では、このナセルにお任せを」
「仕方ないか」
「ミート、仕方ないはひどいんじゃない?」
「うるさい。あんた、平四郎に変なこと教えんなよ。彼は真面目でいい人みたいだから。フィンの理想の男によからぬこと吹き込むなよ~っ」
ミート少尉はナセルの胸ぐらを掴んで顔を接近させた。本人は凄んで見せているつもりだろうが、ミート少尉に心を寄せるナセルの顔はふにゃけている。
「はい、しません、話しません、連れて行きません」
「ふん。どこへ連れて行くんだか! 夕方4時までに中央通りのホテル「クロマニヨン」に連れてくるように。あと、平四郎は制服用意したから、それに着替えるように。アマンダさんに部屋に用意させたから」
平四郎とナセルはそうミート少尉に一方的に命令されて、いそいそと出かける用意をする。まるで口うるさい姉に送り出されるワンパクな弟という役回りだ。