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あさごはん。

「あの?」

叫ばなかったけど、食い入る様に見つめてしまった俺を不思議そうに見る彼女。

慌てて右手を……着ているTシャツに掌を擦りつけてなんとなく綺麗にしてから……差し出して、もう一度謝った。

「ごめんね? 怪我はない?」

「あ、はい。ありがとうございます」

ほっそりとした指を差し出した俺の掌に載せた彼女のその手を掴んで、ゆっくりと立ち上がらせた。

そんなに地面が濡れていなかったことが幸いしたのか、制服はそこまで汚れていないようだ。


「私こそすみません、前をよく見ていなくて」


申し訳なさそうに手を前に揃えて綺麗に頭を下げる彼女に、両手を前で振ってそれを制する。

「いや、俺も慌てて走ってたから! 怪我がないならよかった」


どもるな俺! 年上らしい余裕を見せろ俺!

赤くなりそうな顔を隠す為に、目についた傘を手に取ろうと一歩足を進めた……ら。


「……食パン?」


彼女の尻餅をついていた場所のすぐ傍に、齧りかけの食パンが一枚。

思わず呟いた俺の言葉に、彼女は慌ててそれを拾って後ろに隠した。


食パン齧りながら登校……?

見た目すげぇ好みなんだけど、リアルでそんなことする子が……



俺の驚いている雰囲気に、彼女は見上げるように視線を寄越して恥ずかしそうに肩を竦めた。

「ちょっと、寝坊しちゃって……」

擬音が付くなら“てへ”だな。

そんな感じで恥ずかしがるその姿に、一瞬脳裏に浮かんだ“不思議ちゃん”の言葉は吹っ飛んだ。

ゆっくりと傘を拾って、彼女に差しかける。


「そっか、……ごめんね。朝飯駄目にしちゃって。よければ俺に奢らせてもらえないかな」

俺的“優しげなおにーさん”風な笑顔。



好みドストライクで天然っぽくて、眼鏡外したら美少女で、性格も可愛い感じで……ってここまで王道続きで来たなら、きっと恋愛フラグが立ったはず!

てか、立たなくても俺が立てる!

ヒマラヤ登頂の勢いで、でっけーフラグ立ててやる!!



なんて内心雄叫びをあげている俺に気が付くはずもなく、彼女はあわあわと視線を彷徨わせている。

「え、でも……それは悪いです。ぶつかったのは私にも責任が……っ」

慌てて否定する彼女の手が当たって、俺が持っていた傘がふわりと地面に落ちる。

それに慌てる彼女に、もう一度傘をさしかけてふわりと笑った。

「ね、お願い」


ダメ押しのようにそう伝えれば、真っ赤になった彼女は小さくこくりと頷いた。



……よっしゃ、王道! っーか、夢じゃねーのこれ!



見えない所で拳を握って、内心喜んでいた俺。

既にこの時、頭の中からバイトの三文字は消え去っていた。




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