ぶつかる。
「マジで遅刻……っ」
慌てて飛び出した、アパート。
地面は濡れてるけど、霧雨程度なら傘なんていらない。
むしろ邪魔。
腕時計をつけてるのに、つい携帯で時間を確認してしまうのはある意味癖。
ズボンのポケットから、ストラップを指でひっかけて引き出した携帯に目を落とそうとしたその時。
ドンッ
身体に感じる軽い衝撃に、全身から血の気が引いた。
ふわりと空に飛んだ、淡い色の傘。
小さく聞こえた、悲鳴。
地面に尻餅をつく、制服の女の子。
かたや、全くと言っていいほどなんの被害もない、俺。
思わず周囲を視線だけで確認してしまった小心者。
俺が走ってたのは、大通り。
彼女は横道から出てきたらしい。
で、衝突。
「……」
俺か! 悪いの俺か!!?
って、状況判断してる場合じゃないと気が付いたのは、地面に座り込んでいる女の子の声が聞こえたから。
「いたた……」
まずっ! 自分の心配してる場合じゃなかったっ。
慌てて目線を合わせるようにしゃがみこむと、彼女は伏せていた顔をふっと上げた。
「……っ!」
さらりと流れる、長い黒髪。
対照的に、透き通るほど真白な肌。
微かに染まる、桜色の頬。
ずれた眼鏡が、かろうじて鼻に引っかかってる。
セルフレームの所為で顔の造作はよく見えないが、それでも外見はストレートに俺の好み。
……って、だから観察してる場合じゃないんだって!
「ごめん、大丈夫?」
窺う様に声を掛けると、その子はまっすぐに俺を見ようとしてずれている眼鏡に気が付いたらしい。
「大丈夫、です」
小さな声で返答をしながら、眼鏡を外して再び俺を見た。
「……!!!」
ちょっ、何これ! なんなのこれ!
声を上げなかった俺を褒めてやりたい!
目の前には、恥ずかしそうに目を細めて微笑む、すっごい美少女。
眼鏡外したら美少女でしたとか、何の王道!?




