表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

受難3

会場から出たファレノプシスは転移魔法を展開し、私室へと赴いた。

「殿下っ、離してください!」

「離したら貴女は逃げるだろう?」

アイリーシェは言葉に詰まった。ファレノプシスが述べた通り、離してもらえたらすぐ逃げるつもりだ。

相手がファレノプシスでなければアイリーシェも魔法で逃げられただろう。だが、相手がファレノプシスでは無理だ。彼は魔法にも特化している。離してもらっても逃げ切れるとは思えないが、多少の距離は保てる。

「まったく今まで僕から隠れていたなんて、酷い人だね?」

「わたくしは貴方様の花嫁にはなりません!」

「はっきりと断るね、アイリーシェ。でも、僕から逃れられると思うの?」

ファレノプシスの執着ともとれる言動にアイリーシェは顔を強ばらせる。

アイリーシェには理解出来なかった。何故ファレノプシスがここまでアイリーシェに執着を見せるのか。

アイリーシェは確かに結界を張ったし、魔法の前に出ていく度胸も持ち合わせている。しかし、それだけだ。目の前で大惨事を見たくなかったから故に行動を起こしただけであって、まさか、ファレノプシスに見初められるなどとは夢にも思っていなかった。

あれが狂言であったと見抜いていたならば。いや、助けられるからと手を出さなければこんなことにはならなかったと、後悔しても遅いが、後悔してしまう。

「僕は強い人が好きなんだ。だからもっと貴女を知りたい」

ファレノプシスはアイリーシェを抱き上げたまま告げる。

顔をのぞき込まれながら告げられ、ファレノプシスの目が露わになりアイリーシェを射抜くように見つめていた。紫色の瞳には強い欲望が滲み、アイリーシェは冷や汗をかく。

ファレノプシスは扉を片手で開け、中へ入る。

中に入った瞬間シャンデリアに灯がともり、室内が明るくなる。

初めて入るファレノプシスの私室は落ち着いた雰囲気だった。柔らかな色合いの壁紙に調度品。その内のソファに降ろされる。

アイリーシェを降ろすとファレノプシスは隣に腰掛けた。

目の前でなく、隣にだ。

(.....距離が近い!)

声を大にして言いたいが、口を噤む。

「貴女をもっと知りたいから、傍にいたい。ねぇ、教えて?」

ファレノプシスに懇願ともとれる囁きをされ、アイリーシェは答えに困る。

アイリーシェはファレノプシスと結婚するつもりはない。興味もない。

はっきりそう言えればいいのだが、言ったらどうなるのかわからなくて怖い。

フランシスカ帝国は無事だろう。しかし、他国は確実に余波を受けるだろう。それがどんな風に齎されるのかは予想すらできないが、禍のように世界を浸食するのではないだろうか?

そう思えば、アイリーシェは言葉を紡ぐことすらできない。

「何故そんな難しそうな顔をしているの?」

「なんと、お答えすればよいのかと、考えております」

「堅苦しい喋り方はしなくていいよ。それより、貴女の話をしてよ」

「話すことなど、ありませんわ。早くわたくしを会場へ戻してください」

「戻って、どうするの?」

「花嫁を選び直してくださいませ」

アイリーシェは思い切ってそう告げる。

アイリーシェは国に帰りたい。帰って、愛でたいのだ。可愛いあの子達を。

そして、平穏に暮らしたい。

この国の王妃になるつもりは無いのだ。

ファレノプシスの反応を見るのが怖い。

しかし、見なければ。

そっと窺うと、彼は激しい怒りを見せた。

「どうして否定の言葉ばかりこの唇は紡ぐんだろう?優しくではなく、恐怖で支配しなければいけないのかな?初めては初夜でなく、今ここで奪った方がいい?そうすれば、観念してくれる?」

ファレノプシスは怒りとは裏腹に、優しく唇を撫で、アイリーシェを組み敷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ