夜行バスに乗って
楽しい楽しい女3人ぶらり旅へいよいよ出発です。
10月25日、朝9時半に京都駅集合。それが麻未の作ったスケジュールの最初の一文だった。
24日の夜、私は子どもの部活の迎えを済ませ、食事の用意をし、入浴までさせたところで帰宅した夫とバトンタッチ。
急いで博多駅に向かい、予約していた夜行バスに乗り込む。
無事に間に合ったことに安堵を覚え、ゆったりとシートに沈み込むとともに大きく息をついた。
初めて乗った夜行バスは以外にも広く、各シートにはスリッパや毛布、アイマスクなどのアメニティのほかにもジュースが用意されてあった。
安い割には結構サービスいいじゃないの、と感心していると、運転手のアナウンスが聞こえる。
もう出発するのか。一人で旅行なんて何年振りだろう、結婚して以来初めてだな、などとぼんやり考えながら、備え付けのアイマスクに手を伸ばす。
装着したアイマスクはじんわりと暖かく、良い香りがした。
明日は2人の悪友との再会だ。
おいしいものを食べて厄除けをして目いっぱい楽しもう。
夫や子供たちへのお土産も買わなければ。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていった。
目が覚めたのは、どこかのインターだった。
眠っている人に配慮しているのだろう、ぼそぼそと小さく聞こえるアナウンスは休憩を伝えていた。
何人かの乗客と一緒に降り、暖かいミルクコーヒーを購入する。
一緒に降りた乗客は、同じように飲み物を購入したり、トイレに行ったり、伸びをしたりと思い思いの行動をしたのちバスに戻っていく。
私もその乗客たちに交じって再び薄暗いバスへと乗り込んだ。
車内にはわずかな明かりしかなく、かすかな寝息が聞こえる。
カーテンはぴったりと閉じられ、まるで世界から車内だけが切り取られ、隔絶されているように感じる。
ふいにまた、あのぼそぼそという、小さなアナウンスが流れ、他の乗客の眠りを邪魔しないこと、出発することを告げられる。
車内にはかすかな寝息と衣擦れの音のみが響く。
アイマスクを再び装着し、良い香りに包まれながら私は再び眠りに落ちてゆく。
手の中のミルクコーヒーが少し熱い、そんなことを考えながら深い深い眠りについた。
次に目が覚めた時、バスは走行中だった。
事前に携帯電話の使用は禁止されていたが、時間が気になったため、そっとハンドバッグの中で開いてみる。
6時半。
もう朝なのか。
到着時間である8時までは時間がある。
手の中ですっかり冷めてしまったミルクコーヒーを一口すすり、口の中にガムを放り込む。
しばらくしてまた、静かなアナウンスが流れた。
【もうすぐ梅田】と。
梅田!大阪の梅田か!
事前に梅田のバスターミナルで乗降があるということは知っていた。一度も行ったことのない大阪を見るチャンスである。特に用事や思い入れがあるわけではないが、大阪という有名な観光地に田舎者である私は舞い上がった。ちょっと見てみたい…と。
周囲を見渡すと、梅田で降りるであろう乗客たちがごそごそと荷物をまとめている。
このころになると多くの乗客たちは起きており、なにやら活動を始めていた。
もう、迷惑にはならないはず、とぴったり閉じられたカーテンから少し外をのぞいてみた。
これが大阪かあ。
特に珍しいものがあるわけではないのだが、それでも私は、初めて見る大阪を食い入るように見つめていた。
降車する人たちがすべて降り、バスが再び走り出す。
あちらこちらで目覚めた乗客たちがカーテンを開けていたため、車内はすっかり明るくなっていた。
私も半分だけカーテンを開け、いそいそと身の回りを整理する。
毛布をたたみ、手荷物をまとめ、持ってきていたペットボトルのお茶を一気に飲み干す。
次はいよいよ京都だ。
懐かしい友人たちとの再会に胸を躍らせながら、大阪の街並みを見つめていた。
夜行バスって結構リラックスできます。