厄除け祈願はどこでする?
数えで33歳は女の厄年。ついに私もその年齢に達してしまった。
しかし、そこにいるのはとうに三十路を超えた女の姿ではなかった。
バーコードハゲのヘアスタイルに、腹巻を付け、手には一升瓶。これが今の私の姿。普段の鷹治 美月を忘れることの出来るこの姿が私のお気に入り。
その私と向かい合って話をしているのは同級生の古里忍。彼女の姿もまた奇抜で、白塗りの化粧にパンクファッション、手には斧を持っている。
そう、私たちが会っているのは、PCの中。いわゆるアバターチャットを使って会話をしているのだ。
就職で地元を離れ、遠く愛知に行ってしまった忍。対して私は地元に残り、早々に結婚、出産をし、今では三児の母をやっている。お互い、遠くに住んでおり、なかなか会うこともできないため、このチャットゲームは重宝している。
とにかく、今日もハゲ親父と白塗りお化けの2人は並んで座り、話をしていた。
「最近ついてない気がするんだよね。こないだもさ、ママ友と揉めちゃって・・・」
「あ~、私もそうなんだわ。上司とうまく行ってなくてさ」
「もしかして厄年だから?厄払いとかした方がいいのかな?」
女も30超えればいやなことも多々ある。しかし、厄年のせいにしてしまえば気が楽になる。超適当な性格の私たちなので、身の回りの都合の悪いことはすべて厄年のせいにすることにした。
そこへ登場してきたのはこれまた怪しい人物。黒いマントを頭から羽織り、手には怪しげな液体の入った小瓶。そう、この人物も私たちの同級生、樫尾麻未である。
「なんの話してんの?」と会話に入ってくる麻未。私たちはそれまでの会話を説明した。麻未は「うーん。」と考え込んで、「じゃあ、3人で厄除け旅行にでも行こうか!」と言った。
【旅行】なんて素敵な響きなんだろう。結婚して13年、ついぞ家を空けることはなかった。仲の良い同級生たちと旅行にいけたらどんなにか素晴らしいだろう。私はすぐに「行きたい!」と返事をした。最近、仕事が煮詰まっていた忍も「行きたい!どこでもいいから行きたい!」とすごく盛り上がった。
賛成多数で、私たちは旅行に行くことが決定した。問題の行き先であるが、そちらもすぐに決まった。厄除け旅行にはこれほどふさわしいところはないだろう。そう、古都、京都である。