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A.D.2222  作者: 日渡正太
第1話 クローズエンカウンター
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Episode 8

 カレンはパイロットに事情を説明し、さらに甘ったるい声まで出して懇願してみた。


「了解っス! でも危なくなったら、すぐ逃げますよ?」

「ええ、頼りにしてるわ」


 機体が敵艦に接近し、モニターの中の画像がさらに大きくなる。

(……何これ?)


 現代の宇宙艦艇の主だった搭載兵器ならば、ほぼ暗記しているといっていいカレンだが、この敵艦の装備はどれもこれも、彼女の知識にないのだ。


 何かの砲、何らかの用途のアンテナ、ということは見てわかっても、何社製の、製品名は何、ということが特定できないのだ。


 敵艦の画像は、戦術データリンクにより第67空間打撃部隊の各艦と、ネオムーンの宇宙軍情報本部にも送信されている。

 そこからの返答もUnknown(正体不明)というものしか返ってこない。


「ポール君、もう少し敵艦に寄ってみて!」

「いや、いくらなんでも、もう無理っス!」


 押し問答をしている時、敵艦後部甲板の大型砲塔の1基が回転し、砲身がこっちを向くのが見えた。


「ポール君! 敵第4主砲塔が旋回中! 撃ってくるかも……」

「だから、言わんこっちゃないっスよ!」


 ポールが回避機動をとるため機体を大きく旋回させた瞬間、敵艦の砲塔から盛大な発砲煙が上がり、何かが発射された。

 驚いたことにブラスターではない。何か金属のような実体を持った砲弾が超高速で撃ち出され、次の瞬間、爆散して無数の子弾を撒き散らした。


 瞬時にして迫り来る死の影に、カレンはコクピットの後席で悲鳴を上げていた。




 第67空間打撃部隊旗艦「ベイリア」の戦闘艦橋では、偵察機ベイリア2号機からの報告を聞いて、全員に緊張が走っていた。


『……そうです! たった今、ターゲットから砲撃を受けました! ブラスターではありません! 何かレールガンとかそういう、実体弾を撃ち出すタイプの……』


「ベイリア2、無理はするな! ターゲットとの安全な距離を保て!」


 第67空間打撃部隊司令官グローディ提督は、艦橋の通信士から超空間通信機のヘッドセットを奪い取ると、直接、偵察機上のカレン・カレイルに怒鳴った。

 彼女は優秀な情報士官だが、やや血気にはやって無茶をする傾向がある。


『了解!』

 という彼女の返答を確かめて、グローディ提督は通信士に「すまない」と言いながら、ヘッドセットを返す。


「提督、敵艦隊が増速してます、やる気満々ですな」

 先任参謀のマイク・ウェダーがベイリア2号機からの戦術情報を見て報告した。


「会敵時刻は早まりそうか?」

「1時間後ぐらいには、こっちのレーダーで敵影が捉えられるでしょう。敵の正体が未だ不明なのは気がかりですが、まあ、ぶつかれば鎧袖一触でしょうな」

 先任参謀が笑いながら答えた。


 相手に戦艦並みの大型艦がいるとは言っても、しょせんは海賊だ。

 船体は商船改造だろうし、おそらくはろくな射撃指揮装置も持たず、備砲の威力も中途半端で、装甲などないも同然だろう。


 海賊船などというのは、そういうものだ。


 現在、味方は各艦が前後1列に並んだ単縦陣で進んでいる。

 先頭を行く旗艦である巡洋戦艦「ベイリア」の後には、「オーサニック」「ハルバード」「カドニアス」の3隻の同型艦が続き、その後方に巡洋艦2隻、駆逐艦3隻が続行する。


 この戦力の前に、海賊艦隊などが太刀打ちできるとは思えない。


 第67空間打撃部隊と正体不明の艦隊とは、刻一刻と、その距離を減じ、砲火を交えるべく近づいて行った。




 先ほど、辛くも被弾をまぬがれた偵察機ベイリア2号機のコクピットで、情報士官カレン・カレイルは、なんとも言いようのない不安感を持って、この不気味な敵艦隊を見守っていた。


 メタリックな外観を持つ、人が造った宇宙船には違いないのだが、こちらの知っているいかなるものにも該当しない艦隊。


 便宜上「海賊船」などと呼称してはいるが、厳密には今も目の前の艦隊は正体不明であり、カテゴリー上はあくまで「未確認飛行物体」だ。


 妙な胸騒ぎがした。

 自分達は、何か大きな思い違いをしているのではないか?


 何か重大な可能性を見落としてはいないか?

 ふと、そんな疑念が胸に湧き上がってきて、カレンは目の前を行く異形の艦隊を、キャノピー越しにじっと見つめた。

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