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A.D.2222  作者: 日渡正太
第1話 クローズエンカウンター
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Episode 6

 宇宙空母「ブルーウィル」の若き艦長セリカ・セレスターは、自宅リビングのソファに腰掛け、琥珀色の液体が入ったグラスを片手に、深夜テレビを鑑賞中だった。


 少々エッチな番組だ。

 クオレがいたら、これは見られない。

 鬼の居ぬ間のなんとやら、だった。


 ピンポーン♪


 不意に玄関のチャイムが鳴った。

 誰だこんな時間に?


 今日、クオレは帰って来ないはずだ。

 ああ、そういえばサーナに、今夜は家にいると伝えてあったっけ……。


 エッチなテレビを消し、ソファから腰を上げて、玄関に向かう。

 玄関脇の鏡で軽く髪の乱れを整える。


 完璧だ。

 ドアのチェーンを外し、扉を開ける。


「なんだ、来たのか、サー……」

「あんたねええええぇぇぇ――――――――――っ!!」


 ドアの外には、怒り心頭で鬼の形相になったクオレと、目に涙を溜めたサーナが立っていた。


 バタン! ガチャン!

 慌ててドアを閉めて、鍵を掛ける。


「開けなさいよ!!」


 しばらく、ドンドン! とドアを叩く音が聞こえていたが、やがて、ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン! とピンポンの連打が始まった。

 これはたまらんとドアを開けるセリカ。


「説明しなさいよ!!」

「すまん、俺が悪かった!」

「言うことはそれだけかああああっ!!」


 涙目でワインボトルを振りかぶり、殴りかかってくる婚約者。

「待てクオレ、それヤバい! マジで死ぬから!」


 テレビドラマの格闘シーンなどでは、瓶で人を殴ると、簡単に瓶が割れてしまうが、実際にはそうはならない。

 本物の酒瓶はもっと頑丈で、人を殺害する威力を持った立派な凶器である。


「死ね!!」

「いてえ!」

 側頭部にワインボトルの一撃を受けて、倒れながらセリカが懇願した。


「お願いします! 命だけは!」

「あんたを殺して、あたしも死ぬ!」

「いやだ!」


 暴れまわるクオレの背後、開いた玄関ドアの前で、サーナが泣き崩れている。

 セリカは部屋の奥に向かって逃げ出した。


「逃がすか!」

 クオレがワインボトルを投げつけてきて、それが後頭部にヒット!


「おぐっ!」

 思わず後頭部を押さえる。


 血が出ていたが、構わずリビングに駆け込み、テーブルの上の携帯電話をつかむ。

 メモリに入っているクオレの実家の電話番号を表示し、通話ボタンを押す。


「あ! もしもし、おとうさんですか!? やー、先日はどうも! ええ、また釣り行きましょう。ところで助けてください! あなたの娘さんが!」

「何やってんのよ、あんたは――――っ!!」


 後を追って駆け込んできたクオレの前に、携帯電話を突き出してかざす。

『何をやっとるんだ、クオレ!? またケンカか? おまえは怒ると何をするかわからんから、とにかくやめなさい!』


 スピーカーモードの電話からは、父の声が響いていた。

 自分を諌める父親の声に毒気を抜かれたのか、クオレがその場に崩れ落ちた。


「もう終わりよ……」

 そのまま両手で顔を覆って泣き出した。


 玄関先からは、サーナの嗚咽が聞こえている。

 セリカにも、これは収拾のつけようがなかった。


 後頭部からの出血はかなりひどいらしく、首筋に生温かいものが流れている。

 床の絨毯に、血痕がボトボトと落ちた。


 大惨事にもほどがある。

 自分で救急車を呼ぶべきだろうか?


 セリカは何もできず、ただ号泣するクオレの前で、呆然と血だらけの床に座り込んだ。

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