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A.D.2222  作者: 日渡正太
第3話 未知なる敵
31/32

Episode 31

 第33機動部隊第1任務群の旗艦「レドヴィサン」艦上――。


「……敵のこれまでの出現パターンからして、おおよそこのサディナ恒星系付近に、敵の根拠地があると推定されているわけですが……」


 空母の狭い艦橋、操舵室の後方にある航法機器の並ぶスペースで、ブッシュ・ノース先任参謀が、ディスプレイの航宙図を指し示して、艦隊司令官のモーグ提督に説明していた。


「……未だ、我が方では敵の本隊発見には至っておりません。おそらく、どこかの惑星上にでも、隠れ潜んでいるのではないかと考えられてはいますが……」


「先ほど接近してきた機体の正体は、まだ分からないのか?」


 痩せ型、禿頭のモーグ提督が、ややイライラした調子で尋ねた。

 2時間ほど前、この第1任務群に所属する巡洋艦「ファーフォリス」の早期警戒レーダーが、正体不明の機影を捉えた。


 識別信号が出ていないため、味方でないことだけは確かなのだが、では敵なのか、あるいは無関係の民間機なのかが判然としない。

 もしこれが敵であれば、第1任務群は、既に相手に発見されたことを意味する。


 こちらとしては、そろそろ偵察機を発艦させて、敵を探しに行こうかとしていた矢先のことで、もしこちらが敵を未発見のうちに、敵に発見されているとしたら、このまま一方的に先制攻撃を受ける恐れもある。


 いったん後方に退避して艦隊の安全を図るべきか、このまま前進して敵を求めるべきか、判断に迷う局面なのである。


「提督、ことがはっきりするまで、一時的に艦隊を後退させるべきではないでしょうか。このままでは、敵の位置も掴めないまま、一方的に奇襲を受けるようなことにでもなりかねません」


 ブッシュ参謀の進言を、モーグ提督は苦い顔で聞いていた。


「先任参謀、一時的にせよ後退した場合、敵を撃滅するのがどのくらい遅れるのかね? 作戦本部からは一刻も早くと言ってきているのだが……」


「提督、事情が切迫しているのは承知しておりますが、このまま前進するのはリスクが大き過ぎます。せめて先ほどの機体が、敵か民間機かはっきりするまでは、艦隊の保全を図るべきかと……」


 現在、首都ネオムーンの作戦本部には、財界からの圧力を受けた国防長官はじめ、いわゆる国防族議員からの『早く敵を何とかしろ』という矢のような催促の電話が引っ切り無しに掛かっているはずだ。


 ここで一時的にせよ艦隊を後退させた場合、作戦本部長が彼らにうまく事情を説明できるのか。

 とくに、もし先ほどの機体が敵機でなく民間機だった場合にはなおさらである。


 アーロン宙域周辺の各惑星やコロニーの宇宙港には、現在、方面艦隊司令部を通じて問い合わせが行われており、民間機ならばいずれははっきりするであろうが……。


 もしここで艦隊を反転させていったん戦場から遠ざかった場合、事情判明後に再反転しても、会敵が1日程度遅れる可能性が出てきてしまう。


 その1日の間、周辺航路が使えないための経済的損失がどれくらいになるのか、その責任が誰に掛かってくるのか、モーグ提督が心配しているのは、どうやらその点らしかった。


「先任参謀、現在までのところ、アーロン宙域周辺の味方レーダーサイトや哨戒機からの報告で、我が艦隊の周囲300宇宙マイル以内に、敵艦を確認したというものはない。それほど心配することはないのではないか。もし不安なら艦隊に戦闘態勢を取らせ、周囲に直掩戦闘機を配して、索敵を厳に行いながら前進すればよい」


「わかりました」


 もとよりブッシュ参謀は、上官であるモーグ提督の判断に異を唱えるような立場ではない。

 それに、ブッシュ参謀自身も、判断に迷っている点があったのでなおさらである。


 こうして、艦隊は一時後退することなく、厳重な警戒態勢のまま前進を続けることになった。






「カムイ司令、私達も、索敵任務に加えていただくことは出来ますでしょうか?」


 情報調査官カレン・カレイルは、格納庫で戦闘機部隊の発進を見送る第201航空団のカムイ・ヘイズマン司令に向かって問い掛けた。


 たった今、第1任務群の司令部から、直掩戦闘機の発進命令が下ったということで、格納庫内はにわかに慌しくなっていた。


 パイロットの乗り込んだライドドッグ宇宙戦闘機が次々と、整備員に誘導されながらエレベーターに固定され、飛行甲板へと運搬されていく。


 数日前――、

「情報調査分析官カレン・カレイル、他1名、ご厄介になります、カムイ司令」


 空母「ブルーウィル」に乗艦が決まったカレンが、パイロットのポールを連れて着任報告を行ったとき、 無精ヒゲに「床屋ぐらい行けよ」と思うような長い前髪の持ち主であるカムイ司令は、


「ん……まあ、必要なもんでもあったら言ってくれや」

と、目にかかる金髪をかき上げながら、面倒くさそうに答えたものだ。


 今も、火気厳禁の格納庫で、火の点いていないタバコを咥えたまま、戦闘機の発進を泰然と見送っている。

 ちょっと掴みどころのない人物だ。


「こっちにも、事前の索敵計画ってものがあってな……」


 次々と敬礼しながら、司令の前を通り過ぎていく戦闘機。

 それに答礼を返しながら、カムイが答えた。


「……敵を探すのはこっちの偵察隊がやるから、あんたらは敵が見つかってから出て行って、情報分析でも何でもやってくれや。敵が発見できたらすぐに知らせる」


「了解しました」

 カレンが引き下がろうとすると、パイロットのポールが、


「司令、ちょっといいスか?」

 と進み出た。


 カレンも何事かと思い、一瞬立ち止まったが、

「あ、カレンさんはいいっス、先に行ってください」

 と促されてしまった。


「そう……?」

 自分には関係のない、機体の取り扱いや、飛行に関する話なのかな、と思い、カレンはその場を立ち去った。


 後にはカムイ司令と、ポールだけが残った。

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