Episode 30
――銀河宇宙暦494年4月12日 アーロン宙域外縁
バート星系で無事補給艦隊と会合を果たし、各艦への燃料、及び弾薬の補充を終えた第33機動部隊は、間もなく目的地であるアーロン宙域に到達しようとしていた。
懸案となっていた「ブルーウィル」の201航空団が使用するアローミサイルも、無事に最新バージョンのものが届いた。
バート星系に到達するまでに「ブルーウィル」は、担当する四隻の駆逐艦への燃料補給を、各1回ずつ行った。
空母の隣へ駆逐艦を至近距離で併走させ、補給ブームを繋いで航走しながら行うもので、高等テクニックと呼ばれているが、セリカから見てクオレの操艦には不安がなく、一度に艦の右舷と左舷に1隻ずつの計2隻、合計2回で終わらせてしまった。
直衛艦である「スターベル」の補給のときだけ、セリカは艦橋からどこかへ姿を消していた。
アーロン星系外縁部へ入ると、艦隊は旗艦である空母「レドヴィサン」を中心とした第1任務群、「ブルーウィル」を中心とした第2任務群の二手に分かれた。
同時に警戒航行序列が発令され、2つの任務群は、それぞれ空母を中心とした輪形陣を組み、それぞれが作戦上指定された地点に向かって進撃を開始した。
「レドヴィサン」を中心とした第1任務群には、第33機動部隊の司令部が乗っているが、「ブルーウィル」の第2任務群には、それに当たるものがない。
本来はあって然るべきものなのだが、軍が人手不足の折、そこまでちゃんとした体制を整える余裕がないのだった。
そのため、第2任務群は、セリカが先任艦長として指揮を執らなくてはならないことになっていた。
せめて司令部に2人いる参謀のうちの1人でも寄越してほしいところだが、あちらも作戦本部やら、方面艦隊司令部やらとのやり取りで忙しそうで、そんな余裕はないとのことだった。
輪形陣の中心にいる「ブルーウィル」から見て右後方1.2宇宙マイルの位置には、直衛艦の「スターベル」がいる。
――あのフネ、沈まないかな……。
ふとそんな考えが頭に涌いてきてしまい、さすがにセリカはすぐさま反省した。
「どうかしたの?」
キャプテン・シートから立ち上がり、周囲の僚艦が映る空間捜索レーダーのディスプレイをまじまじと見つめているセリカに向かって、クオレが怪訝そうな顔で尋ねた。
「いえ、何でもないですよ?」
何食わぬ顔で答えるセリカ。
「……1人で艦隊の指揮なんて、大変だと思うけど、私も協力するから、心配ごとがあるなら言ってね」
クオレは何か勘違いしたらしく、セリカを気遣うような言葉を言った。
「……ごめん」
「え?」
「いや、何でもない」
身から出たサビとはいえ、まあ、自分もいろいろと無茶をし過ぎたと思う。
戦闘を前に、セリカは大きく溜め息をついた。
――アーロン宙域、サディナ恒星系、第7惑星カピアの衛星軌道上。
「長官、索敵機からの報告によりますと、先に発見せる敵は、空母2、戦艦2を伴う有力なる機動部隊と判明しました。現在、我が艦隊まで3パーセクの距離にあり、2個集団に分かれて、なお接近中とのことであります」
「今度は空母か……」
腕組みをしたまま、静かに考え込む長官。
白いテーブルクロスの掛かった長テーブルを囲む、紺色軍服姿の男達は、口々に意見を述べ始めた。
「なあに、先には、敵の大型戦艦4隻を葬った我が艦隊です、空母ごとき恐るるに足らんでしょう」
「しかし空母が相手となると、交戦距離が飛躍的に長大になります。敵の艦載機の航続距離がわかりませんが、早めに手を打たないと、まずいのでは?」
「長官、敵に空母2隻有りとは言え、我が方にも『赤城』『蒼龍』がいます。これを持って、直ちに敵を叩きましょう!」
「ふむ……航空参謀はどう思うか?」
長官が1人の男に尋ねた。
「は! 空母戦は先手必勝、先に相手を叩いた側が、まず勝ちます。今すぐ艦隊を移動させ、味方機の攻撃圏内に敵を捉えるべきです」
「先制攻撃をしないと、負けるということだな……止むを得んか」
長官が腕組みをしたまま頷き、全員に向かって厳かに言った。
「これより艦隊は、敵機動部隊の撃滅に向かう、全軍は速やかに当泊地を出撃せよ!」
「はっ!」
その場にいる男達が一斉に立ち上がった。