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A.D.2222  作者: 日渡正太
第3話 未知なる敵
29/32

Episode 29

「……なるほど、姐さん、相手はそう来やしたかい」


 あの後、艦橋から電話で呼び出されたゴステロは、艦長室でライアから、涙と怒りが入り混じった興奮状態で、ことの次第を知らされた。


 セリカ艦長の女性に関するウワサは、艦隊内でもよく知られており、ゴステロは常々ライアに「相手はよく考えて選んだほうがいい」と諌めてきたのだが、恋する乙女、かつ、婚期を焦るライアは、耳を貸そうとはしなかった。


「だから言った通りでしょう?」

 と呆れるゴステロに、ライアは噛み付いた。


「だ、だって、クオレとは別れるって言ったんだよ! 確かにあたしは、この耳で……」

「そんなもん、他に女がいる男の方便でしょう!?」


「男ってのは、みんな、そういうもんなのかい!?」

「ええ、そういうもんですぜ」


「じゃあ、あんたもそうなのかい、ゴステロ?」

「いや、何で俺が……!」


 思わぬとばっちりが来て、ゴステロは焦った。


「とにかく姐さん、もうあんな男とは別れたほうが吉ですぜ。いい男なんざ、他にいくらでもおりやす。きっと姐さんにふさわしい相手が……」


「そうは言っても、この歳じゃあ、あとはもうバツイチの相手とか、ろくな条件の男が残ってないんじゃないのかい!? これを逃したら、もう後が……」


「姐さん、姐さんはまだ若くてお綺麗ですぜ。このゴステロが保証しやす!」

「じゃあ、あんたが貰ってくれるのかい?」


「え!? いや、それは……ちょっと……うーん……」


「ほら、ごらん! こんなトウの立った年増女を、どこの誰が相手してくれるって言うんだい!? 奴が最後の希望だったっていうのにさ!」


「で、姐さんは結局どうしたいんですかい? セリカ艦長とよりを戻したいんですか? あるいは弄ばれた腹いせに、ヤキでも入れたいんですかい?」


「誰が弄ばれたって!? あ、あんた、あたしがあんな奴に……!」

「すいやせん、言葉のアヤでした」


「いや……まあね、あたしだって、そりゃ、よりが戻せるなら、そうしたいさね……まあ……ちょっとはその……あいつだって……あたしのこと……まだ想ってくれてるかもしれないし……」


 そりゃ無理ですぜ、という言葉をゴステロは飲み込んだ。


「わかりやした、そういうことなら、とにかくセリカ艦長と一度話し合われるべきでしょう。向こうが応じたがらない場合は……うちのフネの若い衆でも集めて、引っぱってきますか?」


「やってくれるかい、ゴステロ?」

「アイ・アイ・サー、姐さん、ゴステロはいつでも姐さんの味方ですぜ!」


 きりっと引き締まった笑顔で敬礼しながら、難儀なことだなあ……と、心密かに、ゴステロは溜め息をついた。





「統合作戦本部より参りました、情報調査官のカレン・カレイルです」


 第33機動部隊旗艦「レドヴィサン」の艦橋で、先任参謀ブッシュ・ノースは、新たな客人の訪問を受けていた。


 最初、突然に味方の偵察機が艦隊後方から現れて、着艦許可を求めてきたときには何事かと思ったが、情報分析の専門家がそれに乗っていて、しかも第六七空間打撃部隊壊滅の現場にも居合わせた人物とわかって、合点がいった。


 彼女の来訪について、事前に何の連絡もなかったのは、統合作戦本部と、方面艦隊司令部の事務方によるミスとわかった。

 味方の後方部署も相当混乱しているようだ。


 情報調査官の彼女と、その専属らしいパイロット、2名程度の食客が増えたところで、今さらどうということもないが、問題は彼らが乗ってきた機体にあった。


 艦載機の搭載スペースが限られる空母は、常に1機でも多くの機体を積むため、格納庫はいつも満杯状態である。

 とくに今はアーロン宙域での決戦を控えているので、なおさらだ。


 積めるだけの機体を既に積んでしまっている。

 従って、彼らの乗ってきた偵察機の置き場所がないのだ。


「……アーロン宙域の敵艦隊が、未知の異星人かもしれないという君の見解はわかった。調査がしたいなら、この艦に乗っていることも許可しよう」


「有り難うございます、先任参謀」

 カレンはブッシュ参謀に頭を下げた。


「ただ、問題は君達の乗ってきた機体だが……」

 ブッシュ参謀は、ちらりとカレンの背後に立つパイロットに目を向けた。


「今、この『レドヴィサン』には、1機たりとも余分な機体を置いておくだけのスペースがない。悪いが、そちらのパイロットには、機体に燃料を補給の後、帰ってもらうことになるが……」


「参謀、彼とは第67空間打撃部隊の頃から、コンビを組んで偵察活動を行ってきました。彼は私のやり方を心得ています。必要な人材です、何とかならないでしょうか?」

 カレンは懇願した。


「無理だ、現に今もそちらの機体が、飛行甲板への進入経路を塞いでいて、他の艦載機が発進出来ない状態だ。すぐにどかせて貰わないことには……」


「もう1隻の空母『ブルーウィル』には、置き場所はないでしょうか?」


 カレンの問いに、ブッシュ参謀が考え込んだ。

 確かに「ブルーウィル」には、あと1機分だけ搭載スペースが余っていたはずだ。


 しかし余分があるならあるで、整備や補修、部材置き場などのスペースとして有効活用したいだろう。

 定数外の余計な偵察機など、受け入れたくはないはずだ。


「いちおう『ブルーウィル』に問い合わせてみよう、だが期待はしないでくれ」

 ブッシュ参謀はそう言うと、艦橋脇のコンソールにある受話器を取り上げた。


「……ああ、艦隊司令部のブッシュだ、セリカ艦長はいるかね? ……ああ、艦長、私だ。セリカ艦長、急で申し訳ないが、君のところで、さっき飛来した偵察機を1機、受け入れてもらえないだろうか? ……え、無理? そりゃそうだろうが、何とかならないかね?」


『……いやー、参謀、偵察ならうちの艦載機でも出来るでしょう? 何でそんなのをわざわざ……』


「作戦本部からの指示だ、例の艦隊の正体を知るため、分析調査の専門家を乗せてきている。この機体でなくてはならないそうだ」


『専門家ねえ……どんな人物なんです?』

「若い女だ、美人だぞ」


『了解しました、その機体は調査官ごと、こっちに回してください』

「うむ、すまんな」


 ブッシュ参謀は受話器を置いた。


「受け入れてくれるそうだ、直ちに機体を『ブルーウィル』に回したまえ」

「すみません、ブッシュ参謀、お取り計らいに感謝します」

 カレンは敬礼して、パイロットと共に艦橋を辞した。


「すみません、俺がここの艦載機を操縦出来ればよかったんスけど……」

 格納庫まで歩く道すがら、パイロットのポール・ベイリーが済まなそうに言った。


「いいのよ、ポール君、機種転換訓練受けてないんだから、仕方ないでしょ? それより、また無理な偵察飛行をお願いすることになると思うけど、よろしく頼むわね」

「はい、了解っス、調査官!」


「ちゃんと、カレンって呼んで」

「は、はい、カレンさん……」


「まあ、いいわ、それで」


 カレンは苦笑した。

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