Episode 27
あまり広くもない艦長室に入り、扉を閉めると、ライアは船舶電話の受話器を取った。
宇宙では個人の携帯電話が使えないので、いったん「ブルーウィル」の通信担当を経由しなければならないのが、面倒だ。
『はい、こちら《ブルーウィル》です!』
若い女の通信士が出た。
こいつが、ゴステロの言っていたローラとかいう新入りだろうか?
「あー、『スターベル』艦長のライアだ。そちらの艦長さんはいるかい?」
『少々お待ちください』
いったん通信は途切れ、受話器から保留中のメロディが鳴り出す。
しばらくして、再び同じ通信士が出た。
『すみません、あいにくセリカ艦長はお忙しいようで、またにしてくれと……』
「あの野郎! 電話にも出ないつもりかい!?」
『は?』
「緊急だと言ってくれ! 今すぐに出ないと、どうなっても知らんぞ、と!」
『わ、わかりました……』
再び保留音が奏でられ、ややあって、セリカが電話に出た。
『あー、久しぶりだな、ライア……』
「本当に久しぶりだねえ! 母港に停泊中も、一度もお呼びがかからないとは、どういうわけだい?」
『忙しかったんだって! こないだの演習で、艦にいろいろ不具合が出てさ……』
「まあ、そこら辺はおいおい追求するよ……ところで、ちょっと小耳に挟んだんだけどさ……」
『何を?』
「あんた、あのクオレとかいう女と婚約したってのは本当かい?」
『…………』
「何で黙るんだい! ゴルァ!!」
『あ、悪い、何か、電話遠くね? よく聞こえない……』
「ああああんた! この歳で捨てられたら、あたしゃ、どうすればいいんだい!? ちったあ男の責任てもんを……!」
『ごめん、ライア、今マジで忙しくてさ、また後で電話するから』
「切るな!! 電話切ったらぶっころ……!」
ガチャ、ツー、ツー、ツー……。
「あたしを選ぶって言ったじゃないか!! あのスットコドッコイが!」
受話器を壁に叩きつけるライア。
――畜生! このままで済ましてたまるか! とにかく誰かに相談を……。
ライアは信頼できそうな人間の顔を何人か思い浮かべてみる。
とりあえず、この艦内で一番頼りになるのは、副長格のゴステロだろう。
「そこにゴステロはいるかい!?」
ライアは、電話を内線に切り替えると、自分のフネの艦橋を呼び出し、金切り声で怒鳴った。