Episode 25
第33機動部隊所属の駆逐艦「スターベル」艦長ライア・ライオットは、0.5宇宙マイル(約800キロ)先を行く、空母「ブルーウィル」の艦尾を、艦橋の大型モニターに映して眺めていた。
駆逐艦「スターベル」は空母「ブルーウィル」の直衛艦という立場であり、常に付き従って護衛するのが任務だ。
光学観測システムがとらえた、800キロという、宇宙の感覚で言えば目と鼻の先の距離にいる空母の大きな尻を、焦燥と、多少の怒りと不満を持って見つめるライア。
長い黒髪をうっとおしそうにかきあげて、溜め息をつき、キャプテン・シートの傍らに置いたポーチから、コンパクトを取り出して眺める。
少々、目尻に小じわが目立つ年齢になってきた。
宇宙線は肌に悪いと聞くが、今さら職業を変えるわけにも行かない。
それに、まだ若い(と自分では思っている)女にしては目つきか険しい。
まあ、長いこと軍人なんて商売をやってきたんだから、これも仕方ないだろう。
ライアは再び溜め息をついてポーチにコンパクトをしまい、またも忌々しげに「ブルーウィル」の艦尾を眺める。
砲雷長のゴステロ・ゴーグが、キャプテン・シートに歩み寄って来た。
駆逐艦には副長がいないので、実質彼が艦のナンバー2である。
「姐さん、聞きましたか? 例のウワサ」
ゴステロはいかにも内緒話というふうに、ライアの耳に口を寄せた。
「何だい、ウワサって?」
いかにも何も知らないという風を装って、ライアは答える。
「『ブルーウィル』のセリカ艦長と、クオレ航海長ですが……」
「…………」
「ご婚約されたという話で……」
「……それが、あたしに何の関係があるんだい?」
少々怒気をはらんだ声で答えるライア。
「一言、言わなくていいんですかい?」
「…………」