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A.D.2222  作者: 日渡正太
第3話 未知なる敵
19/32

Episode 19

「……と言うわけで、出港時刻は明朝5時に遅れるんでよろしく。バタバタして悪いね」

「いえ、TF33の出港時刻は明朝0500時に変更の件、了解しました」


 第33機動部隊司令部後任参謀のシーレイ・ユーシズは、旗艦である宇宙空母「レドヴィサン」の艦橋で、ネオムーン基地の港湾管制室と通信を行っていた。テレビ通話モードにしているので、画面には相手である女性管制官の映像が映っている。


「急な出港なんで、やっぱりいろいろ間に合わなくてさ、『ブルーウィル』の201空のミサイルも、できれば新しいの持って行きたいし……」

「大変ですね」


 港湾管制官のリサ・エイリアスは、ちょっと頬を赤くして、画面の中のシーレイ参謀を見つめた。

 隣の席の先輩管制官は、さっきから見てみぬ振りをしてくれている。


「あのさ……この後、もう直接話せる機会があるかどうか、わからないから……」

 画面の中の彼が、ちょっと周囲を窺うようにして囁いた。


「行ってくる、その……心配しないで」

「うん、気をつけて」

 精一杯の笑顔で彼を見送る。


 2人が正式に婚約したのは、今から3ヶ月前のことである。

 彼が士官学校、彼女が幼年学校の生徒だった頃からの知り合いだが、お互い不器用だったせいもあり、付き合いに発展するまでに時間がかかった。


 その後もエリートの参謀コースを歩む彼の仕事が忙しすぎて、ゆっくりとしか仲が深まらなかった。


(でも、クオレ先輩には勝った……!)

 浮気性の彼氏を持つ、先輩士官の顔が思い浮かぶ。


 以前、同じ哨戒艇の乗り組みになったとき以来の仲だが、ことあるごとに恋人の愚痴を聞かされて、リサにとっては少々困った先輩でもある。


「あ、そうだ、知ってる?」

 画面の中の彼が、何か思い出したように言った。


「セリカ先輩とクオレ先輩、婚約したんだって」

「え、そうなんですか?」


 並ばれた!

 いや、婚約したのはこっちのほうが3ヶ月も先だ。それにこちらは向こうより5歳も年下である。


「へえ、そうですか、おめでたいですね……」

 内心の微かな動揺を隠しながら、リサが笑顔を作る。


「あの2人も長かったからねー……あの、それでさ……」

 彼がちょっと照れたように笑った。

「僕らも……帰ったら、結婚式、しようか? その……言うのが遅くなって、悪かったけど……」


「あ、はい……!」

 ぱあっと顔を輝かせながら、リサは急に思い出したことがあって、慌てた。

「あの、シーレイ、今は、そういうこと言わないほうが……」


 惑星連邦軍には妙なジンクス、と言うか、言い伝えのようなものがある。

 出撃前に「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」的なことを言った者は、生きて還らない……。


 もちろん何の根拠もないし、過去に必ずそうだったわけでもない。

 巷の戦争映画や小説の中で、そういうシーンが頻出するため、冗談半分に言われ始めたことらしいのだが、実際、戦えば戦死者は出るし、そのほぼ全員に、家族や恋人など、何がしかの愛する者がいる。


 だから、あながち全くの見当違いとも思えず、半ば縁起担ぎのようにして「それは死亡フラグだから言うなよ」と、戒められているのだ。


「あ、そうか!」

 彼も気がついたようだった。


「ごめん、リサ、じゃあ、この話は帰ってからに……」

「そうですね」

 2人は笑い合った。


「あ、でもそうすると、セリカ先輩達もヤバいよね、もろ出撃前に婚約だもんなあ……」

「大丈夫ですよ、皆さん、悪運だけは強いから……」


 そろそろ隣席の先輩管制官の視線が怖い。

 いったいいつまで、通信回線を私用に使っているのだ、と。


「じゃあ、あんまりいつまでも話してるのも、まずいから……」

 彼のほうが察してくれたのか、そう言った。


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 彼がサムズアップを決めて、リサが画面に向かって軽く手を振る。


 そうして通信は切れ、隣の席の先輩がゴホン! と咳払いをして、リサは仕事に戻った。

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