Episode 18
「あ、カムイか? 航空団で何が足りないって? ミサイル? 何の?」
『いや、アローなんだけどな、補給部が古い奴送ってきやがって……』
第201航空団司令のカムイ・ヘイズマンが電話の向こうで答えた。
第201航空団は「ブルーウィル」搭載の宇宙戦闘機部隊である。
「ブルーウィル」には艦長のセリカ、艦載機部隊である第201航空団司令のカムイという、2人の指揮官がいる。
惑星連邦軍の空母には、通常、母艦艦長と航空団司令という、同格の指揮官2人を置くこととされていた。
1つの艦にあってどっちが上ということもないので、この2人の仲が悪かったりすると、作戦に支障を来たすことも実際にあるのだが、セリカとカムイの場合、かつての士官学校の同期で、ともに寮の門限破りに知恵を絞った仲でもあり、これまでとくに問題は起きていなかった。
「何? アローじゃないミサイルが来たの?」
『いや、アローはアローなんだが、前のバージョンの奴寄越しやがって……』
アローミサイルは、短距離用の空対空ミサイルだが、新旧いくつかのバージョンがあり、目標探知のシステムなどに違いがある。
201空が保有している宇宙戦闘機ライドドッグは、いちおう最新バージョンのものが運用できるのだが、基地の補給部から送られてきたのは旧式だったということらしい。
「それ、旧式だと問題あるの?」
『いや、旧バージョンでも問題なく使えるが、できれば性能いい方がいいからなあ……』
「新しいの送ってもらうのに、どれくらいかかる?」
『向こうに問い合わせてるが、まだ返答がねえ。出港に間に合わないようなら、このまま行くしかねえが……』
「わかった、こっちからも補給部に急かしてみるわ」
『おう、頼むわ、悪いな』
「いいって、じゃあな」
セリカはいったん電話を切ると、補給部あての外線番号を押した。
操舵席のクオレはクオレで、忙しい出港準備作業に追われていた。
「あ、すいません、アーレン宙域の海図がまだ、こっちに来てないんですけど……えっと、サーバーのどこですか? はい、すみません……」
受話器を肩ではさみながら、キーボードを叩いて航法機器のチェックを行う。
「すみませーん、遅くなりました!」
その時、黄色い声を張り上げて艦橋に入ってきたのは、17歳の通信士ローラ・フローレスだった。
「遅いぞ!」
親父さんことレッド副長が怒鳴る。
「すいませんでしたあ!」
ぺこりとお辞儀して、通信席に着く。が、
「あ、クオレさん、海図、こっちで探しましょうか? 航路部のサーバーですよね?」
すぐに立ち上がって、操舵席の脇までパタパタ走ってきた。
「ローラちゃん、お願い……で、今まで何してたの?」
こうした緊急出港の訓練は今まで何度もしているはずだ。
宇宙軍軍人たる者、非番時でも何かあればすぐに艦に駆けつけられなくてはならない。
具体的には2時間以内という規程もある。
今回のローラは、それに違反こそしていないが、ギリギリだ。
嗜めるつもりでそう言うと、ローラの表情が曇った。
「元彼に……」
クオレにだけ聞こえる小声で語り始めた。
「……戦地へ行くことになったって、言ったんですよ……そしたら……そんなこと知らないって……」
そのまま俯いてしまった。
ヤバい、とクオレは思った。
こっちはプロポーズされたばかりなのだ。
しばらくこのことは、彼女には言えない。だが、そのうち耳に入ってしまうのではないか……。
「司令部から、出港命令来たぞー! 『今夕1700時をもって第33機動部隊は全軍出港とする』だと、あんまり時間ねえなー」
艦長席で立ったままのセリカが受話器を持って叫ぶ。
「ミサイル、間に合いますかな?」
大きな艦橋の窓から、飛行甲板上に拘束アームで繋止されたライドドッグ宇宙戦闘機に、耐熱シートを掛ける作業をしている航空団の面々を見下ろしながら、レッド副長は心配顔だ。
それぞれの人の思いを乗せて、第33機動部隊は、間もなく飛び立とうとしていた。
「あらすじ」のところにも書きましたが、当作は「第19回講談社BOX-AiR新人賞」落選作品です。
「BOX-AiR新人賞」は連載作品の第1話、第2話と全体のシノプシスのみで応募する賞なので、応募原稿としてはここまでとなります。
この先も完結まで書いて行きたいと思いますが、ここからは「書き溜め」がないため、更新速度が落ちます。
ご愛読いただいている皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご容赦ください。
なお「講談社BOX-AiR」のHP内、「第十九回BOX-AiR新人賞全講評」のところで、この作品に対する編集者の方のコメントが読めます。
勝手にURLを貼っていいかどうかわからないので、興味のある方は検索してみてください。