Episode 17
車載テレビの画面が、美人の文化人類学者のいるスタジオから、かつてのジューンとメビウスの文明遭遇を体験したという、御年147歳の古老の自宅に変わった。
『お爺ちゃーん、メビウス人と初めて出会ったときは、どう思いましたかー?』
『ふがふがふがふが……』
若いレポーターの質問に、車椅子に座った古老が言葉にならない声で答える。
『いやー、爺さんは当時ジューン宇宙軍の将校だったそうで、たいそうたまげたと、いつも言ってるんですよー』
古老の玄孫だという夫婦が、代わって答える。
そこでセリカがテレビのスイッチを切った。
見ていてもあまり参考にならないからだと思うが、もしかして、美人の人類学者が映らなくなったせいかな、と、クオレはつい習慣で余計な勘繰りをしてしまう。
基地のゲートが近くなってきた。
運転席に座っているのはセリカだが、自動運転なので、ハンドルから手を離してシートにもたれかかっている。
基地ゲートの衛兵に身分証を見せて通過し、通勤車用の駐車スペースに向かう。
背の低い基地庁舎のすぐ向こう側は海であり、そこに、巨大建築物のような「ブルーウィル」の船体が見えていた。
「親父さん、すんません、助かりました」
すでに第33機動部隊から出港準備命令の来ている「ブルーウィル」の艦橋に入るなり、セリカは作業の指揮を執ってくれていたレッド副長に礼を言った。
「お休みのところ、すみませんね艦長、燃料の積み込みは8割方ってとこです。食料と水の手配は終わってますが、航空団のほうで、ちょっと問題があるようで……」
「何か足りないんすか?」
「ミサイルが、頼んだのと違うのが来たとか……詳しくは司令に聞いてください」
「わかった、後でカムイに聞いてみる……それでさ、親父さん……」
セリカが内緒話をするように、レッド副長の耳元に囁いた。
「俺達、今度、結婚するんで」
既に操舵席に着いているクオレをくいっと親指で示す。
「ほう、それは!」
レッド副長が破顔した。
「おめでとうございます、いやー長かったですなあ、正直どうなることかと気を揉んでましたが、これで安心しました」
「心配かけてすんません」
セリカが謝って、艦内電話に手を伸ばした。